『…で?どうよ、改めてヘルサレムロッドの恐ろしさをその身をもって体感した感想は』

「最悪です」


言わなくても分かるでしょ?とベッドの上で見事なミイラ男になりきっている新人ことレオナルド・ウォッチを見下ろし、シュタインはケタケタと笑った。


『仕方ないな。ほれ』

「何です?」

『ホンデリングの新作』

「………」

『何だ、食べないのか?』

「…あの、僕食べられるように見えます?」

『見えない』

「じゃあ聞かないで下さいよ!!」


何せ今レオナルドはミイラ男。動けるような状態でも無いし、況してや食べ物を食べようなんてどう見ても無理だ。口元まで巻かれた包帯の下で饒舌に動く口に、それだけの元気があれば大丈夫だななんて零しながらレオナルドが食べ損ねた新作のドーナツをモグモグと頬張る。嗚呼、美味しい。


『しっかし、よく生きてたもんだ』

「自分でもびっくりです」

『この危険な町で生き延びただけでも儲けものだぞ、レオ』

「身に染みて実感しました。そしてできれば二度とこんな経験したくないです」

『それは無理な相談だ』

「ですよね」


どうしてレオナルドと自分が此処…"病院の病室"に居るのかと言えば自分がドーナツを買いに出かけたその後、レオナルドがヤバい連中に拉致られてそれをザップ含めライブラメンバーで追い駆けっこ。無事に彼を見つけて犯人たちも無事にクラウスによって成敗された。が、レオナルドはその成敗の中で逃げる事も出来ず巻き込まれ…結果此処にミイラ男として寝転がっている。
まさか私がドーナツを買いに行っている間にそんな事になっていただなんて。本来であれば連絡を受けて現場に急行していたであろうものの、誰からも連絡は無く、ドーナツの焼き上がりも時間がズレたとか何とかでドーナツ屋に長い事居座っていた為に、1人遅れてお見舞いという訳だ。連絡が来たのも丁度目的のドーナツを手に入れた後。先に事務所に帰っているから、というスティーブンの言葉を聞いて此処に足を運んだ。取り敢えず顔は出しておきなさい、ということだと察したから。


「あら、シュタインさん。今日はお見舞い?」


レオナルドをからかうのは面白いなぁなんて笑っているとフと少し開いたままだった病室の出入口から見覚えのある顔がひょっこりと顔を出した。此処の病院の看護婦だ。名前は知らない。けど、顔は知ってた。


『まぁね。あとでドクターのトコにも顔出すよ』


そう、お大事に。なんてヒラヒラと手を振りながら営業スマイルで去って行く看護婦の声に、巻かれている包帯によって視界さえ奪われているレオナルドが静かに口を開く。


「…随分親し気ですね」

『あー、まぁ常連みたいなもんだし』

「はぁ…」


強ち嘘では無い。常連と言えば常連だ。まぁ、此処に通うのは怪我をして、では無いけれど。ホント、お世話になってる。だから此処の病院の看護婦なら結構顔馴染みの人が多いかもしれない。いずれにせよ、名前は知らない人の方が多いけれど。胸の名札を見たって覚えてなんか居られない。


『…ま、今回の件でザップの事を少しは見直せたか?』

「無理です」

『ハハ、即答。分からんでも無いけど』


話題を変えようとザップの事を引っ張り出す。彼も此処に検査入院していた筈だ。今はどうかわからないけれど。拉致られたレオナルドの居場所が分かったのも何だかんだ言ってザップのお陰なのだ。彼の能力のお陰で、チェインが居場所を特定しクラウス達が現場へ駆けつける事が出来た。そう聞いている。でも今までザップがレオにしてきた事を思い返せば、そう直ぐに感謝なんて出来る人間では無い事ぐらい私にも納得できる。…後で褒めながら弄ってやろう。


『んじゃ、新人君の無事を確認した事だし帰るかな』


これからティータイムなんだ。と手に取ったドーナツの入った紙袋がガサリと音を立てる。そう、これから帰ってスティーブンとクラウスと…あ、そうだ、ギルベルトさんも呼んで皆でお茶会しよう。何だかんだで、今日は随分と外に居たから疲れてしまった。
立ち上がる私の気配を感じ取ったのか、今まで何だかんだツッコミを入れていたレオナルドが「何かわざわざスンマセンでした」なんていうから、思わずキョトンとして彼を見てしまった。何言ってんだか。


『これぐらいで音を上げんな。まだまだこれからだぞ、新人くん』


まだまだレオはこの街の実態を知らない。けれど最早ライブラの1員で有る以上、何かある度にこんな怪我をされては困る。これから何が起こるか楽しみだなぁなんて思いながら怪しくニッと笑ったこの顔をレオナルド自身には視えていないんだろう。





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