SS部屋 | ナノ
立場逆転パロの臨帝

2011/03/16 17:42

長いの書こうとして断念した


 黒髪のバーテン服を着た童顔の男に喧嘩を売ってはいけない。
 これは池袋で囁かれていることだ。
『彼』は見た目こそ大人しく、人畜無害に見えるが、一度暴れだすと自分自身でも制御できない。
 それ故に池袋の喧嘩人形と呼ばれている『彼』は、その幼い顔でくしゃみをした。
「風邪か?」
 隣でそう尋ねたのは上司である田中トムだ。後輩であるヴァローナも、無表情ながら若干首を傾げながら見ている。
「寒気とか頭痛もないし、そういう訳ではないとは思うんですけど…」
「日本では噂をされているとくしゃみをすると聞いたことがありますが」
「いや…たぶんそれは迷信だと」
 上司にも後輩にも分け隔てなく敬語を使うのが『彼』、竜ヶ峰帝人だ。
 大きな瞳を隠すようにサングラスが掛けられているが、小さな顔のサイズにあっていないのか、少し大きい。さらに、下手すれば中学生に見えてしまう容姿なのだが、バーテン服を着ていてアンバランスさが見える。
 変わった格好をしているとはいえ、見た目は人畜無害そのものだ。この細身の青年が池袋の喧嘩人形だと誰が信じるだろうか。
 実際、噂は知っていようとも、それをこの青年とは結びつけない。
 かつあげの対象にし、返り討ちにあった後でやっと帝人があの喧嘩人形だということに気づく。
 バーテン服を着ていて、童顔であるという男はそれだけで条件が限られているというのに、それほどにも帝人はそういうものとは無縁の、弱々しい青年に見えるのだ。
 むず痒い鼻を擦り、上司の後ろにつく。
「次は…ああ、あのマンションだな」
 帝人の職業は借金の取り立てだ。だが、トムの指差したマンションは、借金などとは無縁のように思える。
 所謂、高級マンションと呼ばれている所に住める金があるのなら、借金の返済に回せばいいのに、と呆れたような視線を送る。
 だが、それもある男のことを思い出した瞬間、今まで纏っていた雰囲気を献納なものへと変わる。
――そういえば、あの人の事務所もこんな感じのマンションだったな。
 無意識の内に発していた殺気に、トムの心配そうな声が聞こえ、首を横へと振った。
「…。僕、なんだか嫌な予感がするので離れてていいですか。もし此処の住人がムカつく奴なら半壊させちゃうかもしれないですし、流石に僕まで借金地獄になります」
「お、おぉ」
「怪奇現象です」
「?」
「ああ、ヴァローナはお前がそこまで言うのは珍しいって言いたいんじゃねえか?いつもはんなこと言わねえからな」
「肯定です」
「成る程」
 帝人は苦笑しながら首筋を掻いた。
 部屋は八階にあり、逃げるとしても、窓から逃げるのは普通の人間じゃ無理だ。
 帝人は逃走できないように、という名目でエレベーターと階段の丁度間の壁にもたれ掛かる。
 トムがインターホンを押し、用件を告げているのを横目に見る。相手は在宅してるのか、トムは薄い書類を手に詳しく伝えだす。相手は白を切っているのだろう。
 初めはそんなのは慣れっこなので気にしなかったが、10分以上経つと次第に苛立ちか積もってくる。いつもは比較的冷静なトムも声を荒げてきた。
 ヴァローナは隣で細い金属のような物を取り出し、「開けますか?」と鍵穴に差し込もうとしている。
 帝人が携帯で時間を見れば、既に12時を回っていた。早く昼ご飯が食べたい。
 帝人はもたれ掛かっていた壁から身体を離し、トムの方へとゆっくり歩いていく。
 その間に深呼吸などをして怒りを堪えていたが、トムには気力を貯めているようにしか見えなかったのか、口端を引き攣らせていた。
「帝人、壊すなら扉だけにしとけよ」
「努力します」
 持ち前の馬鹿力で開けようとドアノブに手を掛けたが、捻る前に内側から扉が開かれた。帝人は慌てて一歩後ろへと下がる。そうしないと額に扉をぶつけていただろう。
「やっとみーくん出てきた」
 一瞬で空気が凍った。
 それは帝人の殺気によるものなのだが。
 トムはいち早くその場から離れた方がいいと判断したのか、ゆっくりとエレベーターの方へと歩いて行く。ヴァローナは小さく首を傾げながらその後を追う。
「先輩はどうされたのですか?」
「ああ。お前は見たことなかったか。帝人には天敵がいてな、そいつと会っちまったら制御が効かなくて、巻き込まれる前に逃げるのが一番だ」
「先輩の天敵、ですか…」
 それはどんな化け物だろう、とヴァローナはどこかどきどきしながら振り返る。だが、帝人は先程と様子は変わっていなかった。ただ殺気を振り撒いている。
 扉から現れた折原臨也は、帝人とは正反対に笑顔を浮かべている。
「久しぶりだね」
「…」
「みーくんってば、街中で俺を見掛けても見て見ぬフリするしさあ。こうやったら会えると思って、適当な男に有料の出会い系サイトを回らせたんだ。ああ、金は俺が払うから安心してね」
「…わざわざ僕の仕事を増やさせて、嫌がらせですか。殴っていいですよね」
「いい訳ないでしょー。あ、ほら、入りなよ。君のために焼鳥買ってあるんだ」
「いりませんから殴らせろ」
 敬語と乱暴な言葉がごちゃまぜになっている。手はギリギリと握りしめられており、綺麗に切り揃えられた爪が白い肌に刺さっていた。
「みーくんは暴力的だなあ。それにしても、みーくんがこうやって俺のとこに自ら来てくれるのは初めてだよね。凄く嬉しいな」
「僕は嬉しくない」
「あはは、そっか。じゃあほら、デリヘルとか。俺、みーくんになら幾らでも払うよ」
「…いい加減、黙ってくれませんかッ」
 突き出した拳は臨也に当たることはなく、空を切る。物を壊さないようにと加減をしたのが悪かったのか、臨也にひらりと避けられた。
「はっずれー」
「…ッもういいです。早く金を渡してください」
 出来るだけ臨也を見ないようにと目を逸らしながら掌を出す。
「え?ヤらせてくれるの?」
「違います!取り立ての分、払ってください」
 帝人は臨也のこういうところが嫌いだった。大体、男同士なのにそういった色っぽい話は有り得ないだろう。
――この人、僕にもラブだとか頭のおかしいこと言ってくるからな。ああ、バイなのかな。でも僕はノーマルだ。
 臨也は唇を突き出しながら財布から札束を取り出し、帝人に渡す。
 取り立て分より明らかに多い量の札に、帝人は眉間に皺を寄せる。
「…なんなんですか?」
「お釣りの分は俺からみーくんへのお小遣いね」
「いりません」
「受け取ってよ、ね?」
 押し返そうとしたが、臨也は靴を履いたまま中へと走る。帝人も靴を履いたまま、慌ててそれを追う。
 ベランダを出たかと思えば、ひょいと臨也は身軽に柵を乗り越えた。あの臨也が自ら死のうとする訳がない。
 柵から身を乗り出し、下を覗き込むと、柵の脚に掴まっていたのか、臨也が壁を蹴った反動で身を蹴り上げる。
 そして、帝人の頬に小さくキスをすると、パルクールで慣れた手つきで壁伝いに下りて行く。
 暫く固まっていた帝人だったが、されたことを理解すると、蟀谷に血管が浮き出る。
 臨也を追って柵を飛び越え、壁伝いではなく、そのまま飛び降りる。先に地面へと着いた臨也は走りながら振り返る。
「余った分はほっぺちゅー代ね!」
「黙れ!」
 地面に着地すると、コンクリートが帝人の脚の形に凹んだ。だが、気にすることなく臨也の後を追う。
 臨也は真っ直ぐに大通りへと向かい、人混みに紛れた。帝人は鼻であの忌ま忌ましい男の臭いを探ろうとしたが、腹が空腹を訴えているのか、食べ物の匂いしか感じない。
 止めを刺すように、腹の虫がくー…っと鳴った。
「…う」
 帝人は仕方なく、トムと逸れた時や、今日のように臨也と遭遇した時のために待ち合わせ場所を決めている。
 ファーストフード店に入ると、案の定、トムとヴァローナはテーブル席に座り、昼食をとっていた。
「おっ、今日は早かったな」
「お腹が空いたので…」
「池袋最強も胃袋には敵わないんだな」
 笑いながら言うトムに、「僕も買ってきます」とレジの方へ向かう。
 ポーチには生の札束がそのまま入っていた。
――…多い分どうしようかな。
 臨也に返すとしても、それは臨也に会わなければいけないということだ。それだけは避けたかった。
――まあいいや、貰ったんだから有り難く貰っておこう。


ここで終わるという…!


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