SS部屋 | ナノ
うさぎを飼ってみたY<静帝+臨>

2011/02/16 22:43

「…もきゅ」
 静雄に手を引かれながら、家に帰る途中にいつも横を通り過ぎる公園がある。そこではいつも遊んでいる子供達の姿が見えた。
 瞳をきらきらと輝かせながら静雄の服を引っ張ったが、静雄は構ってほしいと勘違いしたのか、帝人の頭を撫でる。
 それはそれで嬉しいので、帝人はきゅいと鳴き、静雄の背に頬を擦り寄せた。

「…旅行?あー…、わかった。明後日には帰ってくんだよな」
 静雄は電話をしながら帝人の頭を撫でる。それはいつものことなので、帝人は静雄が電話をし始めると静雄の隣に来るようになった。
「帝人、セルティと新羅が旅行に行くらしいから、明日は俺と一緒な」
「きゅ!」
 こくこくと小さな首を縦に振る。セルティに遊んでもらうのも好きだが、静雄と一緒にいられるのはもっと好きだ。
 耳をぴーんと伸ばせば、静雄は優しく微笑み、帝人の頭を撫でた。

「という訳で、今日は帝人も一緒なんすよ」
「もきゅ!」
「静雄、暴れて怪我させんなよ?」
「帝人がいますし、我慢します」
 帝人はせわしなく静雄におんぶをねだる。静雄はダメだと頭をぽんぽんと撫でた。
 歩いていれば、いつもの公園を横切る。帝人は静雄の腕を引いた。
「もきゅ、きゅー」
「ん?ああ、よしよし」
「…公園で遊びたいんじゃねえのか?」
 トムの科白にこくこくと首を縦に振れば、静雄はキョトンと目を丸くする。
「そういや、最近やけに此処ら辺りで騒がしくなったよな」
「きゅ、きゅ」
「次の取り立ての間だけ遊ばせてやったらどうだ?20分位だし」
「…帝人、遊びたいのか?」
「もきゅ!」
 すりすりと静雄の手に頬を擦り寄せる。
「知らない奴には着いて行ったらダメだぞ。わかったか?」
「きゅっ」
「よし、じゃあ遊んでこい」
 平日の朝ということもあり、他に遊んでいる子供もいない。帝人には全てが珍しいものに見えるのか、ぴょんぴょんと跳ねていた。
 静雄は数秒おきに振り返りながらも、トムに背中を押され歩いていった。
 帝人はまず滑り台を滑り、砂場でヘロヘロな城を作った。そして、ブランコを漕ぐ。帝人は普段から家で遊ぶばかりで外で遊ぶのは初めてだ。
 段々一人が寂しくなってきた頃、突然後ろから話し掛けられた。
「やあ、帝人君、だよね」
「きゅ…?」
 声を掛けてきた人物を記憶の中から捜そうとするが、見つからなかった。帝人は知らない人だと判断し、静雄の言葉を思い出す。
「ああ、そんなに警戒しないで。俺はシズちゃん…いや、君の飼い主、平和島静雄の知り合いだからさ」
「むきゅ?」
『平和島静雄』という言葉に反応し、耳をぴくぴくと動かす。
 それを見て、彼、折原臨也は口元を緩める。
「俺はね、彼に頼まれてきたんだ。取り立てが終わったから帝人を迎えにいってくれって。わかる?」
「もきゅ」
「そう!じゃあ、おいで」
 帝人は臨也の手を取ろうとしたが、静雄の言葉が胸に突っ掛かる。躊躇っていると、臨也は溜息を吐き、くるりと背を向ける。
「残念だなあ、せっかく君の大好物だっていうプリン、たくさん用意しておいたのに」
「きゅっ!」
 プリンという単語に、帝人の脳内から静雄が消える。
 臨也が手を差し出せば、それを通り越して服を掴んだ。
 帝人は静雄によって対人恐怖症は治ったが、初対面の相手の手を握るのは恥ずかしい。
 臨也は口元をニィと緩め、帝人を公園前に待たせておいたタクシーに乗せた。初めて乗る車に、帝人はそわそわとする。
「もきゅ、きゅ」
「ふふっ、確かに新羅の言った通りだ。可愛いね」
「?」
「無垢で、無知で。本当に馬鹿だなあ」
「??」
 くっくっと笑う臨也に帝人は首を傾げた。

 連れていかれたのは臨也の事務所で、帝人は静雄の姿とプリンを捜す。
「きゅー」
「ん、シズちゃんを探してるの?あはは、此処にシズちゃんはいないよ。その前にプリンだったよね。そこのソファに座ってて」
 帝人は言われた通りに静雄の家にあるそれより軟らかなソファに座る。ぴょんと跳ねて遊んでいると、臨也は大量のプリンを運んできた。帝人は無意識に目を輝かせる。
「全部食べていいよ。ゆっくり食べな」
「きゅ…!」
 帝人は早速プリンを食べ出す。臨也はその間に帝人の首に首輪を嵌める。
「?」
「ああ、気にしないでね」
 帝人は引き続きプリンを口に運ぶ。食べていたのだが、四個食べたところで気分が悪くなり、ソファに寝転がった。
「きゅー…」
「ああ、そうか。甘いもの連続は気分悪くなっちゃうよね」
 老舗の煎餅を机の上へ置く。食べていいのかとちらりと臨也を見れば、にこにこと笑っている。
「きゅー」
「食べていいよ」
「もきゅっ」
 パリパリとした煎餅の食感と醤油の味にご機嫌になり、脚をぶらつかせる。臨也はその間にソファの足に紐を通し、帝人の首輪につける。
「むきゅ?」
 用は済んだと言わんばかりに机の上から煎餅とプリンを片付ける。帝人はもっとくれと手を伸ばした。
「ダメ、これ一体幾らすると思ってるの?君みたいな動物が食べていいものじゃないんだよ」
「きゅー…」
 ぷくーっと頬を膨らませ、帰ろうとソファを下りたが、首を何かで引っ張られる。帝人はその時やっと首輪に気付いた。
「きゅーっ」
「あはは、馬鹿だなあ。見てくれが人間に近くても、脳はそれを遥かに下回る」
「きゅ、きゅ」
「俺はさ、人間が好きなんだ。だから君みたいな生き物は見てて吐き気がする。まあシズちゃんの機嫌が悪くなって誰か殺しちゃって警察に捕まってくれたら放してあげるよ」
「きゅー、きゅー」
「なにそれ、シズちゃんを呼んでるつもり?無駄無駄、諦めな」
 帝人はそれでも鳴き声を上げ続ける。
 臨也は溜息を吐き、デスクに戻る。パソコンを操作し、静雄の動向を探る。
「…どうやら君を探しているらしいよ。よかったねえ」
「きゅい…」
 ぐすぐすと泣き出す帝人に、臨也は噴き出した。
「へえ、君も泣けるんだ!残念だなあ、君が人間だったら愛してあげたのに」
「きゅー…」
 耳がへにゃりと垂れ下がり、帝人が人外であることを明確にする。臨也はつまらなそうにパソコンへ視線を戻した。
 暫くして、臨也の助手である矢霧波江が出勤してくる。ソファに繋がれ座っている帝人を見て、眉を潜める。
「…なに、この子」
「シズちゃんとこのペット。一匹で公園にいたから拉致ってきちゃった」
「…あんたは本当に最低ね」
 心底嫌そうな表情をし、鞄を壁に掛けた。帝人は波江に向かって「きゅー」と一鳴きする。
「あんたも可哀相ね。こんな変態に目をつけられて」
「やだなあ、変態なんかじゃないよ」
「変態じゃない。子供をソファに繋いで」
「動物はちゃんと繋いでおかないとね。ほら、最近マナーのなってない飼い主増えてきたし」
「あんたにマナーがどうとか言われたくないと思うわ」
 じぃっと見つめてくる帝人に、掌をそっとだせば、ちょこんと手を乗せた。波江はキョトンと目を丸くする。
 頭を撫でれば、帝人は波江にすりすりと頬を擦り寄せた。
「え、ちょっ、なにしてんの」
「…この子、誠二と同じくらいかしら」
「きゅい」
「あら、お腹が空いたの?何か作るからちょっと待って」
「もきゅっ」
「波江さん、その優しさ何?!俺に何か作ってくれたことないよね!?」
「何があったかしら」
 臨也の科白は無視し、キッチンへと向かう。臨也はムッと帝人を睨みつけた。帝人も負けじと睨み返す。
 臨也はパッと何かを思いつき、引き出しの奥から一枚の写真を取り出す。
「じゃーん。帝人君、これ、誰だかわかる?」
「もきゅ!」
 写真に写っているのは静雄だ。帝人はぴんっと耳を伸ばす。
「これ欲しい?」
「きゅーっ」
 臨也はにっこりと笑い、帝人の前までくると、その写真を真っ二つに破った。帝人は目を丸くする。
「あはは、ざまあ」
「…むきゅー」
 ぶわっと耳の毛を逆立たせると、帝人は臨也の頬を引っ張たいた。臨也も突然のことに呆然とする。
「…やるね」
 頬を何度か擦っていると、今度は噛み付いてくる。
「痛ッ、この馬鹿兎!離せ!」
「…何やってんの?」
「波江!コイツ引っ剥がして!」
「コラ、こんなの噛んだらお腹壊すわよ。こっちを食べなさい」
「もきゅっ」
 簡単な野菜炒めと箸を机の上に置けば、帝人は波江に飛び付く。臨也は噛まれた痕に息を吹き掛ける。
「くそ、血が出た」
「どうせ自業自得なんでしょ」
 もきゅもきゅと野菜炒めを食べる帝人に、臨也の腹も空腹を訴えた。
「ねえ、波江。俺にも何か作って」
「そうねえ、そこから飛び降りて生きてたら作ってあげるわ」
「…俺、昼ご飯食べてくるから、この子見ててね」
 臨也はいつものコート片手に帝人を睨みつけながら出て行った。帝人はべーっと舌を出す。
 帝人が野菜炒めを食べ終えると、波江は携帯を取り出し、帝人を撮る。帝人が首を傾げると、波江は細い首につけられていた首輪を外してやった。
「見てろって言われただけで、逃がすなとは言われてないし。貴方の写真見てたら文句はない筈よね」
「きゅ?」
「ほら、逃げなさい」
「もきゅっ」
 礼をしているのか、すりすりと頬を擦り寄せた後、扉に向かって走る。扉を開く前に振り返った帝人に手をひらひらと振れば、帝人は大きく手を振った。
「…はあ、なんだか誠二に会いたくなっちゃった」
 愛しい弟を思い出し、頬をほんのりと赤く染めながら、波江は吐息をついた。
 一方帝人は外に出ることは出来たが、新宿には来たことがなく、キョロキョロとさ迷う。歩き回っていれば、突然後ろから羽交い締めにされ、路地裏へと引き込まれた。
「帝人君、どうして此処にいるのかな?」
「きゅッ」
 噛み付こうとすれば、臨也はさっと離れる。敵意丸だしで睨みつけていれば、頭上を標識が通り過ぎて行った。臨也は間一髪で避ける。
「帝人!」
「!もきゅーっ」
 静雄が息を荒げて立っていて帝人は思わず飛び付いた。「きゅいきゅい」とほお擦りし、静雄の後ろへと隠れる。
「やっぱり手前の仕業だったんだな…!」
「ペットを公園で放してるのが悪いんだよ。見てみなよ、この傷。その馬鹿兎に噛まれたんだよ」
「むきゅー…」
「あいつはいくらでも噛んでいいからな、よしよし」
「もきゅ!」
 静雄は帝人の身体を抱き上げると、俵抱きにするために肩へ乗せる。帝人はぶらーんとなった状態で、力を抜く。踵を返した静雄に、臨也はつまらなそうに声を投げ掛ける。
「逃げるの?」
「馬鹿野郎。こんなとこで暴れたら帝人が怪我するかも知れねえだろうが」
「きゅー」
 顔を上げ、べーっと舌を出す帝人に、臨也の蟀谷に青筋が浮かんだ。
 今すぐにでも攻撃してやりたかったが、帝人に手を出したと今静雄の報復が来るのは欝陶しい。
――…まあいいや、次一匹でいるの見つけたら今度は無理矢理拉致ってやろう。
 ふんっと勝ち誇った笑みを浮かべる帝人に、先程真っ二つにした静雄の写真を遠目に見せれば、「むきゅー…」と耳を膨らませながら臨也を睨んでいた。

「帝人、嗽しろ。あと手を洗え。ノミ蟲臭がついたら大変だ」
「きゅー」
 泡が出て来るハンドソープで手首まで洗わせる。臙脂色の消毒液を水に混ぜ、嗽をさせた。タオルで口元と手を拭いてやる。
「よし、綺麗になったな」
「もきゅ!」
 抱っこと腕を伸ばす帝人の脇に手を入れ、身体を持ち上げる。ぎゅーと静雄の首に腕を回し、嬉しそうに鳴く。
「…帝人、これからは絶対知らない奴に着いていくな。絶対だぞ」
「きゅ」
 こくりと頷いた帝人に、偉いと褒めてやる。
「ノミ蟲…臨也には特にだ」
「むきゅー…」
 ぶわっと耳を膨らませる帝人に、静雄はおおっとその耳を撫でる。ふわふわな感触の毛に手を這わせていれば、落ち着いたのか、くてんといつもの状態に戻った。
「帝人もアイツが嫌いか?」
「もきゅ!」
「そうか、さすが俺の帝人だな」
「きゅー」
 帝人の生き甲斐は静雄に褒めて貰うことだ。
 頭を撫でられ、すりすりと静雄の蜂蜜に似た髪に頬を擦り寄せた。



受験受かったのでそのうちサイトの更新を開始しようと思います


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コメント
2011/02/20 22:31 みやもと
なみえさん素敵です!

合格おめでとうございます(^-^)
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2011/02/19 22:03 あめ
合格おめでとうございます(*^o^*)
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2011/02/19 07:14 あき

波帝ってけっこうSUKIだ…

受験おめでとうございます
(`・ω・)
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2011/02/17 12:46 伊吹

臨也と帝人の絡みにひたすらウケました(笑)
波江さん優しい!!素敵でした!!

受験おめでとうございます!!


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2011/02/17 02:53 ねむねこ
臨也の外道さw
臨也が帝人くんに冷たいの久しぶりに見たのでなんか新鮮です←

受験おめでとうございます!!

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2011/02/17 01:03 腐蘭
うさぎシリーズおっもしろいです(^^)
波江さんサイコー(笑)
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