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それは紛れもなく
アイだったのです





■■ている
■■ている
■■ている

■したいくらいに

お前の事を
【■■】ているよ。





手に疼く痛みがわからない。
ここが何処なのかも。
目の前にいる人のことも
何もかもがわからなくて、そして恐怖でしかなかった。

怖い、怖い怖い。
怖い怖い怖い怖い。

それだけが頭の中を埋め尽くす。
ボロボロと塵のように崩れていてく中でそれが膨れていく。
膨れて広がる。他のものが見えなくなる。
さっきまで思っていたことがわからない。
誰を探していたのかも。
何を聞いたのかもわからない。
怖い。嫌だ、怖い。
怖い怖いよ。帰りたい。

■に帰りたい。
■■に会いたい。

怖いよ。
誰か、誰か
たすけて……っ

■■■■■




「■■■■■、たすけて……」
その音にハッと我に戻る。それは紛れもなく妹から溢れた言葉のもので。
だけどそれは自分に向けれられたものではなかった。
「■■■■■っ……!怖いよ。■■■■■」
子供のようにボロボロと涙を零して何度も何度も凪はその音を紡いでいる。
意味も何を差すものなのかも理解はしていないようだ。
ただそれが。
その言葉が自分を救う物だと信じている。

ー大丈夫、兄ちゃんがついてるよ
ー兄ちゃんがいれば怖いものないでしょ?
ー約束、どんな事があっても凪は
ー兄ちゃんが守ってあげるからね……

そう妹に教えた【を呪った】のは、俺【燈矢】だ。

「そんな状態になっても、お前はそれ【■■■■■】を呼ぶんだな」
嗚呼、可哀想な子だと思った。
これを哀れと呼ぶのだろう。

脳裏にいつかの記憶が蘇る。
あの暗い森から帰ってきた頃、窓がない部屋で約束をした。

ー何処にでも、凪の望む場所に連れて行ってやる

自分と凪それ以外に何もない籠の中で。
二人だけの約束をした。
「ーーーそうだよなぁ、お前とそう約束したんだよな」
それなら、僕が【荼毘が】、俺が【燈矢が】やる事は一つだ。

ゆっくりと泣きじゃくる妹を胸に抱くと凪は思わず小さな悲鳴を漏らした。
「逃げないで……」
震えながらも身を捩ろうとする凪に懇願する。もう怖いことしないから、お願いだからと小さな頭を撫でる。
「大丈夫。大丈夫、凪との約束は守るからーー家に帰ろうね」
だってそう約束したから【自分に呪いをかけたから】
それがどんなに反吐が出そうな事でも。
自分の望みと違う事でも。

こいつ【妹】を裏切りたくなかった。

「……ち……れる?」
「ん?」
「おうちにかえれる?」
「うん」
「しょーとにあえる?」
「……うん、そうだよ」
以前持たされていた鎮静剤の入った注射を取り出して、ゆっくりと凪の首筋に当てた。
嫌な事全部もうすぐ終わる。
お前を苦しめるもの全部、もうすぐ消える。
俺が【兄ちゃんが】全部終わらせる。

「次に目覚めた時にはアイツがいるよ」

だから今はお休み。
痛いのは一瞬、眠ったら怖いものは何も見えない。

「お休み、凪」
額に口を落とす。瞼が落ちていく凪の瞳と目があった。

「おやすみなさい……■■■■■【お兄ちゃん】」
そのまま妹の瞼は完全に落ちてしまう。
ため息とも自嘲とも分からぬ息が漏れた。
「本当にずるいよな、お前は。本当に本当ずるいよ……凪」



眠っている凪を抱えて瓦礫の中を歩く。

ー僕には弟妹がいます。

星も月も見えない暗い場所はひどく寒い。

ー末の妹は明るくて人懐っこくて誰にでも可愛がられる子でした。

此処のような怖い場所にこいつを居させられない。

ーだけどみんな知らないのです。妹はとってもとっても怖がりで寂しがりな事を僕だけが知ってします。

もっともっと明るい場所へ
満点の星空が見える場所に。

ー僕だけが知っている秘密なのです。

辿り着いたそこは、海上での爆発で開いた大きな穴がある。
そこから見えるのは雲一つない夜の星。

ー小さくて、寂しがりな子

その穴の真下、瓦礫が積み重なり祭壇のような場所に凪を寝かせた。
微かに降り注ぐ光が妹の白い髪に反射する。
目にかかる髪を指で避けてやる。

ー僕の大事な大事な妹。

ー狂おしいほどにお前を想っていた。

ー苦しいくらいにお前を探していた。

ー凪お前の事

「殺したいくらいに愛しているよ」

今もこれかもずっとずっと永遠に