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轟■■の咆哮





凪の脳は壊れている。
1分、1秒。
刻一刻とその中から記憶が消えていく。
割れた器から流れ出す水のように凪の中から消えていく。
溢れて、消えて最初からなかったかのように何もなくなる。
戻ることなんてないのだろう。
たとえソコに残るものがあったとしても……、俺ではない。

それはきっと焦凍【弟】だ。
アイツ【焦凍】だけが凪の中に残り続ける。
弟【アイツ】ただ一人が選ばれた。

なんで、どうして。
こんなに、こんなにも俺はお前のことを思っているのに。
忘れたことなんてなかったのに。
なんで、なんで…っ。
ずっとずっと探してたは俺だったのに。
なんでなんでなんでなんでなんでっ!!!

ーなんで!俺じゃない!!?ー

「っ……!」
我に返ると妹は怯えた様子で俺を見ていた。
手に残る痛みから壁を叩きつけたのがわかる。
血色が悪かった顔がより白く、身を守るように胸元で握られている手は震えていた。

「ーーっあ、嗚呼悪い、怒鳴るつもりはなかった。怖かったよな。ごめん……ごめんな?ナァ、此処は怖いところだから俺と行こう?な?いい子だから」

こっちにおいで、そう伸ばす手を妹が取る事はない。
ただただ、小さく首を横に振る。
違う、違うんだ凪お前にそんな顔させたいんじゃない。
お願いだ、俺をそんな目で見ないでくれ。
ナァ、頼むから、お願いだから。
「大丈夫。何も怖い事はないよ、早く行こう」
じゃないとアイツ【焦凍】が来る。
お前を見つけてしまう。
お前を連れて行ってしまう。
だから早く逃げないと。
「凪、ほらおいで」
「やだ、やだ……これじゃない!」
「……っ」
それでもいい、望む物ではないのだろうが構わない、子供のように嫌がる凪の手を掴む。
その瞬間、ジュッと肉を鉄板に押し付けたように音がし「痛い」と妹が苦痛に顔を歪めた。その声に手を離すとさっきまでなかったそれは赤い火傷が存在しているおり、白い手首にグルリと一周するようについていた。
手形のような形をしているそれは今、掴んでた場所にできている。
赤く痛々しいそれを付けたのは俺だ。

ー……っ!

俺が凪を傷つけた。

ー…や!

あの時みたいに。

ー燈矢!



部屋にきた父親が険しい顔をして自分を見下ろしている。
扉の外では様子を伺うようにしている母親の姿見えた。
「大きい声を出さないでよ、凪が起きちゃうだろ」
腕に抱える赤ん坊を見ると何も知らないように眠っている。丸い頬を指で撫でるとむず痒いのか小鳥の嘴のような口をもぐつかせながら指を掴んできた。
その様子はずっと見ていられると思うくらいに可愛らしくて愛おしい。
「燈矢!俺の話を聞いてるのか?」
「だから聞いてるってば」
「なら、早く凪を渡せ」
「嫌だって言ったよね、どうして俺から取り上げようとするの?」
お前の為に言っているなんて訳のわからない理由をつけて。そう吐き捨てると父親は深い息を吐く。
「燈矢お前のそれは間違っている。」
その言葉にカッと頭に血が昇るのがわかる。
「何が間違ってるだよ!凪の事今まで気にしてなかったお父さんに何がわかるの!?」
「燈矢」
「あの時の焦凍みたいに凪を傷つけようとしてる訳じゃない!」
「燈矢、聞きなさい」
妹の面倒を見るのは悪いことではないだが、冷にも使用人にも触れさせないようにするそれは度が過ぎている。
だから渡せと伸びてきた父親の手を払い除けると諌めるように名前を呼ばれた。その声に腕にいる凪がぐずり始めてしまう。
「ほら、起きちゃったじゃないか。凪は大きい声が嫌いなんだよそんなことも知らないの?」
「わかったから、一度凪をこちらに渡しなさい」
何をわかったと言うのだろう、とりあえずこの場を収めようとしているのが手に取るようにわかる。ふにゃふにゃと泣いている凪をあやすが落ち着く様子はなく本格的に泣き出してしまった。
「燈矢!」
「嫌だって言ってるだろ!凪は俺の妹なんだよ!?」
「俺の娘でもある!燈矢!凪をよく見ろ!」
「だから大きな声出さないでよ!怖がってるだろ!?それに誰よりもずっと見てるよ!」
「違う、今の泣いてるのは怖いのではない!凪は痛がっているんだ!」
「何言って……ちょっとやめてよ!」
無理やり奪われた凪を取り返そうと小さな腕を掴む。その瞬間凪が一際大きな声をあげて泣き出してしまう。今までに見た事なのないほどのに涙を零してなく妹の腕に赤い焼けた跡があった。
「冷!急いで主治医に連れて行け」
「っはい!」
父親から凪を受け取った母親は自分を見る事なくその場を走り去る。
「なんで、さっきまであんなのなかったのに」
「お前がつけたんだ」
「何言って……!」
「使用人からあの子の体に赤い跡がたまにあると聞いた。軽い火傷のような物だと」
「俺はそんなのつけてない!」
「故意につけた訳じゃないのはわかってる。だけどお前の手は人よりも熱く凪の体が耐えられない」
それに無意識に熱が上昇している事に気づいていなかったのだろ。今ままではあの子の為にもお前の為にもならない。
「無謀な個性訓練をするのをやめろ。でないとお前は凪を傷つける」

ーお前の手は何時か凪を傷つける。



そんな事ない。
俺が、凪を傷つけるはずがない。
だってあの時
ーうえぇぇぇん
ー凪!
ーお兄ちゃぁあんえぇぇええん!
ー個性が出ただけだよ大丈夫だからね、お兄ちゃんがついてるよ

俺が助けた。
ずっと、ずっと凪が消えたあの日までそばにいた。

いなくなった後だって。

ー大丈夫だよ凪
ー兄ちゃんが見つけてあげるからね
ーほら、兄ちゃんこんなに凄い炎が出せる様になったよ。
ー凪、もう寒くないよ

ずっとずっと探してた。
あそこから出て、俺が俺になってかもずっとずっと探してた。
俺だけが探してた。
忘れられていく妹を探していた。
だから俺が妹を、
凪を傷つけるはずがない。
そんなことある訳がない。
違う。
でも、腕についた火傷は俺のもので、
違う違う。
違う違う違う違う!!!
俺は、
俺は、

凪を誰よりも思っている。