×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -





凪と燈矢





ーどこにいくの?
ー此処じゃないところだよ

僕には弟妹がいます。

ーさむくない?
ー寒くないさ

末の妹は明るくて人懐こくて、誰にでも可愛がられる子でした。

ーだから一緒に行こうな
ー……。

僕はそんな妹の笑顔が。
心の底から。

ー大丈夫だよ凪。■■■■が一緒だからね




「本当にコッチなんか!?」
【間違い無いです!ドボルを通して感知している正体反応はその先です!】
空など見えない暗い穴を焦凍たちは走る。
光もなく相手の痕跡も分からない彼らの唯一の手がかりはソアレから得られる情報のみを頼りに瓦礫を越えて下に降りていく。そして、先と言われた焦凍の目の前には道はなく、さらに続く大きな穴だった。
「この先ってこの穴の中か?」
「多分、整備もされてないから老朽化が進んで崩落したんだよ」
【その穴の先です。2つの生体反応があります】
「行くぞ」

暗い、奈落への口に飛び込むと通信機からザザザッとノイズがなる。
恐らく通信も届きにくいほどに深い底なのだろう。
熱も光もない場所に3人は降りたつ。
互いの顔かろうじて分かるくらいで、焦凍が左を使いようやくあたりの様子が視認できる。

崩落で積み重なった落石と線路だったであろう鉄屑の山。
そこを無理に通ったのだろう何かが這いずった後が先に伸びていた。
【ー……っ?え!?】
先ほどよりも不鮮明なソアレの声が穴の中に響く。
信じられないと言ったような、声が生体反応が一つ消えたと言葉を続ける。
一つ消えた、それはすなわち死んだと言うことだ。
誰が?どちらが?
焦凍の脳内に赤く染まった妹の姿が蘇る。
まさか、そんなと血の気が引いていく。
「消えたって……そんな、まさか」
【待ってください!妹さんじゃないです。消えたのはーーーーアイツの方です!】
彼女も理解が追いついていないのだろう。自分の認知している情報を焦凍達に伝えようとしているが、動揺を隠しきれていないのが手に取るようだった。

生体反応が1つ消えたと同時に見えていた糸も消えた。
自分の中に巣食っていたアイツの存在が塵のように崩れていく感覚を覚える。
穴が、奥の方で何かが抜け落ちて、風穴が空いたような。
消えた、アイツが。何故?誰が?どうやって?まさか彼女が……?
思考を巡らせていると「総代」と傍にいた部下が前にあるモニターの一つを指し示す。
それは上空が感知した穴の中にいる者達の信号を映し出しておりそこには、焦凍達の3人を示す反応とそこから離れた場所にある【2つの信号】

「2つ?ーーーーー彼女と誰のもの!?」
「今しがた新たに反応を感知した様です!解析を急いでいますが周波数からはアレとは別の人物であることが認識されます。」
「誰かが傍にいる……?」

一体誰が?

走る。暗い道を走る。
「消えたってどう言う事ですか!?」
【…ーーー理由はわかりませんが、奴が消滅したのは確かです!】
「凪は今どのあたりですか!?」
【ーー……っzーーこのーー先です!……でも移動ーー……っ】
「ソアレさん?、ソアレさん聞こえますか?ーーだめだ、通信が届かなくなって来てる…っ!」
「何で肝心な時に使えねェんだよッ」
お約束かと罵る勝己の横で焦凍も舌を打った。
アイツが消えた、それは間違いないと言われたが、その代わりに誰かが妹の傍にいる。
そいつがアレを殺した。十中八九はそうであろう。顔も姿もわからないヤツが今凪を何処かに連れて行こうとしている。また妹が居なくなる。
せっかく会えたのに、手を取ったのに。
凪が消えてしまう。

「ーーーーーっ…何処だ!凪!!!」

それだけは嫌だと思った。



暗い穴を歩いていた。
否、私を抱えてその人は迷う事なく歩いている。
寒くないかと聞かれ首を横に振る、肩にかけられたこの人の上着を掴むと微かにコゲの匂いが鼻を掠めた。

寒くなかった。
一人じゃないから、怖くなかった。
傷ついた足は手当てされ、痛みを感じなかった。

だけど、
何かが無いと思った。
何かが違うと思った。

どうしてそう思うのかわからない。
黒い絵の具を落とすように頭の中か塗りつぶされていく。
わからない。
わからない。
でも、何かが足りない。

ふと瞼に暖かい感触が落ちてきた。
「無理して起きてなくて良いよ」
柔いぬるま湯のような声につられて瞼をおろす。
寒く無い。
怖くない。
それならば、このまま言う通りに寝てもいいのでは無いだろうか。
微睡が体を包み込む。
「おやすみ凪」
おやすみなさい。
そう意識を手放そうとした時だった。

ーーーー……!

声が聞こえた。
あたりを見回すが何も無い。
でも誰かの声が聞こえた。

「凪?」
「……おろして。」

地面に降りると足から感じる鈍い痛みが現実に意識を戻す。
通ってきた道の先は暗くて何も見えない。
だけど、確かに聞こえた。
私を呼ぶ声が聞こえた。

ーーーーー……っ!

鼓動が早く。息が短くなる。
胸を抑えても落ち着かない。
背後からどうした?と言う声がする。
振り返るとほらおいでと自分に差し出された手がそこにはある。
でもこれじゃ無い。

「……がう」
「何?」

【何】を求めているのかわからない。

「ちがう…。」
「何が?」
「これじゃない」

でも【これ】ではない。

「あの子じゃない」

黒い絵の具だらけの頭で、
それだけがわかった。

「……。」
「ちがう。」

わたし、【あの子】に会いたい。
今、わたしを呼ぶ【あの子】に。
そう呟いた瞬間、優しかった目の前の碧い目から温度がなくなった。
伸ばされていた手が口元を隠し表情がわからなくなる。

「……なんでそんな。悲しいこと言うんだ?」
「……っ。」
「なぁ、凪。お前に残るのは結局あいつなのか?」

本当に、本当に。
お前のそう言うところが。
嫌いでたまらないよ。



僕には弟妹が居ます。
末の妹は明るくて人懐っこくて誰にでも可愛がられる子でした。
僕はそんな妹の笑顔が。

心の底から嫌いでした。

妹は誰にでも笑いかけます。
自分を見ようとしない父親にも
自分を見て謝る事しかしない母親にも
自分を見ぬふりをする兄姉達にも
自分を置いていく片割れにも
僕に向ける物と同じ笑みを向けるのです。

意味がわかりませんでした。
理解ができませんでした。

僕は、妹の事を1番、見ていました。
家族の中で誰よりも、1番、1番見ていたはずなのです。
それなのに、妹が僕に向ける笑顔はみんなと同じ物なのです。

「凪大好きだよ。凪は僕の事好き?」
「うん、凪にぃにの事大好き」
「……そうか。うん嬉しいよ」

僕は。

「凪?どこ?」
「しょうとだ!こっちだよー」
「あ……凪」

僕は、

「ほら見て!ちょうちょ。」
「本当だかわいいね」
「あっちにいっぱい居たよ!」
「じゃあ、一緒に見に行こう!」

妹の【大好き】になる事ができても。
妹の【唯一】にはなれないのです。

ねぇ、凪
どうして?

どうして、お前に残ったものは焦凍なの?
ねぇ、どうして

俺じゃないの?

悲しいな、とっても悲しいよ