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つかまえた





「僕」には4人の弟妹がいます。
下の妹は明るくて人懐っこくて誰にでも可愛がられる子でした。
「僕」はそんな妹の笑顔が。

心の底から■■でした。



凪は体を締め付けられる痛みに耐えながら廃線となった地下鉄の中をさらに奥へと引き摺り込まれていた。
ずるずると、奥へ奥へと穴の先へと連れ込まれ。
叫びたくても声が出なかった。
助けを呼びたくてももう、呼べる名前がわからなかった。
しばらくして目的地に辿り着いたのか、投げ出されたそこは終点の場所。
行き止まりの壁が地面に倒れ伏す凪の前に立っていた。
彼女の背後から蛇が這いずる音がする。
「こうシテブジニお家にカエレタのですめでたし、メデタシになると思ってたのか?」
嘲笑うような声が上から降り注ぐ。
「オマエはもうタダノ人間じゃナインダヨ、ワタシが何年かけてお前を作り替えたとオモッテイル?」
ゆっくりと噛み締めるように、白い紙に墨を一滴一滴落とすように絶望を与えていく。
「私の、ワタシわたしの全てをソソイダ作品。その頭も体も髪も一本さえもワタシノモノ」
恐怖か寒さか、体の震えが止まらない。カチカチと歯が音を鳴らす。それでも凪は自分の後ろにいる者の方へと振り返った。何が自分を変えたのか?何に自分は恐れているのか?
溶け出す思考の中でその答えを知るべくそれを見た。
「凪、オマエだけが幸せにサセテタまるか」
「……ひッ!」
恐怖のあまりに息が詰まる。そこにはケモノがいた。大蛇のような下半身、所々に伸びている人の腕が虫とも彷彿をさせている。そこから先は人の裸体。灰色の子供とも老人とも取れる歪の体の先で半分焼け爛れた女の顔がニタリと笑っていた。
怯える凪の姿が嬉しいのかケタケタと嬉しそうに笑っている。
彼女はこれを知っていた。ずっと昔に見ていた。
何時だったのかは覚えていない。赤い赤い景色の中でそれを見ていた。そして凪は誰か呼んだ。それが誰だったのかはもう一抹も彼女の記憶には存在しない。

「可哀想だねぇ、モウナニモ解らないのだろ?オマエの脳はコワレテルじきに何もできなくなる。ヒトリボッチさみしいね。大丈夫その前に」

ワタシがぜーーーーーんぶ食べてあげる。

「や、やだっ」
伸びてきた無数の手を振り払う。
その時だった。
ピシッーーパキッ
突如としてケモノの手が白く染まった。
細胞を殺すようにケモノの手を蝕むその白い冷気。
「っ!?オマエっ!」
それが誰の仕業かケモノが理解した時にはもう凪はその巨体の脇を走り抜けていた。
「はははハハハっ!鬼ごっこ?追いかけっこがゴショモウ?イイヨイイヨ、やってあげようねタノシイネ!」

10数えるからねとケモノが笑う。暗い穴の中その声が反響して凪を包む。
彼女は走った、ただひたすらに走り続けた。
誰か、誰かと助けを呼ぶ。
でも誰を呼びたかったのか、誰に助けを求めているのかもう彼女にはわからない。

「やだ…っ」

もう、あそこに戻るのは嫌だ。
もう、あの赤い景色の先にある体験をしたくなかった。
怖いのも痛いのも苦しいのも、もう本当に耐えられなかった。

暗い足元にあった瓦礫に足を取られてしまい倒れ伏す。
裸足で逃げていた為、爪は割れて血が滲んでおり、誰かが手当てをしてくれた背中も熱を持ち始めていた。
痛みと恐怖に涙が込み上げる。
「たすけて」
それが何を意味しているのかもわからない。

ただ死にたくないと思った。

「モウ鬼ごっこは?オワリ?」
絶望は無慈悲に人に襲い掛かる。
ずるずると逃げられない餌を追い詰める蛇のようにゆっくりとケモノは凪に近づく。
口から涎が雨のように滴り落ちるのを気に留める様子はない。
「タノシイネタノシイネ、こんなに楽しいのはイツぶりダッタカナ?嗚呼、アノコを食べたトキかな、可愛くてすなおでオロカなムスメだった。バカみたいにカミ様信じてたムスメ。オイシカッタヨ。オマエもきっと美味しいよ娘は美味いって相場でキマってる。」
「こないで、やめて」
「オマエの脳は私が代わりに使ってアゲル。カラダも命も私のカテになるんだよ。大丈夫生き続ケルよ。ワタシの中でミライエイゴウね」
よかったね。めでたしめでたしと本を閉じるように、唄うように微笑むケモノが手を伸ばす。
凪に抗う力はもうなく伸びてくる手をただ見つめる。
結末は決まったと思った。

ーそれは、それは糞みてぇな話だなー

その男以外は。



ぼたぼたぼたと何か赤黒いものが床に流れていく。
「アれ?」
それはケモノから湧き出ていた。下を見ると溢れ出る生暖かいそれは紛れもなくケモノの物。そして今も身体を貫く誰かの腕。
誰が?凪を見ると彼女は尻餅をついた様子で己を見上げているままだ。
「何だ、バケモノでも血は人と変わらねぇのか」
声に聞き覚えがあった。
異常なまでに凪に執着していた男。
本物には絶対に勝てない贋作の男。

「オ…前…なんでここに?」

己の体を貫く荼毘の腕に青い炎が灯る。

「何で?嗚呼、オマエには言っていなかったが使える鷹が居るんだ。」
炎は徐々にケモノに伸びていく。
「ガァっ、あ!」

「それに言ったよな?」

凪が死ぬような事をするなら、俺がお前を殺すって。