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しぶとい、しぶとい
強欲な蛇は





そこには穴があった。
そこには糸があった。
何かがそこにいた事を証明していた。
何かがまだいることを証明していた。
ざわざわと全身の毛が逆立つ感覚を覚える。
背筋が凍るように、体温が消えていく感覚が走る。

潮騒の音が、空に広がる爆風の残穢が耳からさらに焦燥感を駆り立てる。
周りの歓声が、喜びの声がキンと耳鳴りのように絶望感を呼び起こす。

エンデヴァーはそれを見て理解した。
ソアレはその存在で理解してしまった。

ボロボロと崩れ落ちていく巨体の中に存在する穴。
自分の瞳に映る空中に揺蕩う糸。
ポッカリと口を開けていたそれは【何かが中から食い破ったように】外へと向かっていた。
それはこの国に来た時から、見えていたもの【それが今も消える事なく】宙にに漂っている。

エンデヴァーを認知する事なく塵となり風に飛ばされていく。
ママ、ママ、ママともうそれしか音を知らないかのようにその音を紡ぎながら、ようやく【死】というものが訪れた。
人だったそれは最後にこう言った。

ーママ、ニ、ゲテー

糸がそこにある、自分の中に感じていた。感覚に何も変化が起きていない。
それが指し示す事実にソアレの全身の毛が逆立つ。

「まだ生きている」

震える唇がそう告げた。
静かに、だがその言葉はその場の空気を変えるには十分すぎた。

「すぐに、彼らに連絡を!!」

ジジーーーと通信機を超えてそれが全員に伝わる。

「デク!爆豪!焦凍!あいつはまだ生きている!」
「3人とも気をつけてください!アレはまだ死んでいません!」


「「凪(彼女)を連れて今すぐそこから離れろ(てください)!!」」

ぐるぐると
どこからか喉を鳴らす音がする。ずるずると地を這うような気配がまだ生き汚くそこにはあった。





ー入電が入る数分前ー

「わらって……」
凪はそう自分の頬に触れる。
撫でるなんて事もできない位に弱々しい、本当に触れるだけの行動。
自分を見て、妹がそう呟いている。
滑り落ちそうになるその手を掴むとひどく冷たかった。
冷たくて、細くて、小さくてーーーでも生きていた。

「凪……っ!」
「…焦、凍」

頭が痛い。そう続ける凪の瞼は閉じてしまう。
息が浅く、その表情は苦痛に耐えているようだった。


「轟くん!」
顔を上げると、いつからそこに居たのだろうか、二人がこちらに向かって来ていた。
そのまま、支えてと背中の止血をしている緑谷の横で爆豪が凪の手で脈を測る。
「クソ脈が弱ぇ。」
「止血はしたけど衰弱も激しい。早く適切な処置をしてもらわないと……。」
「おい轟、ミリでも頭動かさねェ様に運べ」
脳が1番ダメージ受けてんだわかってるんだろうなと爆豪に念を押すように言われる。
凪を横抱きに抱え上げる。
「凪、すぐ病院に連れていくからな」
「ウ、」
「ごめんな辛いよな、でも、もう少し頑張れるか?」
「……ん」

声にも音にもならない返答が僅かに返ってくることに安堵した。
少しでも衝撃を減らそうと慎重に運ぶが、あの砲撃の影響だろうか倒木や瓦礫が多く思うように進めない。
「救急隊の車も少し先まで行かない無理そうだね」と先を歩く緑谷が凪の様子を伺う。
左を少し使っているので先ほどよりは体温はあるが、顔色は悪いのは変わらない。
体の痛みと運ばれて起きる揺れも辛いのか時折、噛み殺すような声が聞こえた。1秒でも早くと思うが思うように進めない事が焦りに拍車をかける。

その時だった。
ジジジーーーーーー

爆豪の持つ通信機に入電を知らせる音が鳴った。
救助の手配が済んだのかと爆豪が応答のボタンを押す。
聞こえてきたのは、想像通りの人。
そして、なぜか親父からだった。

【凪(彼女)を連れて今すぐそこから離れろ(てください)!!】

意味がわからずに反応が遅れる。
何故?何から?と湧く疑問が通じたのか通信から矢継ぎ早に言葉が続く。


【あいつはまだ生きている!(アレはまだ死んでいません!)】


「「「……っ!?」」」

もう大丈夫だと思っていた。
救うことができたと思っていた。
だから遅れた。
反応が遅れた。

背後の地中から迫り来るその気配に全員が遅れてしまった。


ーーみぃぃイィいつけたぁaAaxa

ドプリと地面に波紋が浮かぶ。
地中から伸びてきた無数の手に掴まれてしまう。

ーーソのむすメはわタしのもの
ーーだれにもわたさなぁいっぃ

コンマ数秒より、さらに速いその手に全員が引き倒されてしまう。
腕に抱いていた凪が奪われる。
「っ!ざッけんな」
個性が間に合わない。
奪い返そうと伸ばした手を嘲笑うかのようにそいつはドプリと地中に凪諸共姿を消す。
「凪!!!!」

水面のように波紋を残して奴は見えなくなる。
手はただ固いコンクリートに触れるだけだった。

「轟くん退いて!」
「どけ!」
SMAAAAAAAASH!!!
BOOOOOOOOOM!!!
消えたそこに地面にヒビが割れて穴が空いた。
瓦礫が崩れて姿を現したのは大きな空洞。

「線路?」
「廃線になった地下鉄だな」

残されたのは蛇の巣穴のように伸びる暗い穴だった