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神が鳴る





空から地響きのような音がした。
その場にいたであろう全員が天を見る。
黒い錆びた色の雲が渦を描く、その中心にあるのは一つの星……否、一つの光があった…
星ではない。太陽でもない。
無機質な光がそこにある。周りのエネルギーを吸収し膨張し続けるそれは、異国の彼女が言っていた物だということだと理解できた。
なぜ、それが今、姿を表しているのだ?
まだその時ではないはずだ。
耳に携えた通信機が何度目かの受信をとらえる。

ーーザザ…ザ…ッ

聞こえてきたのは、砂嵐のようなノイズ音。

【おい、何が起きた。聞こえるか?】
【……ザザッーーエ、ヴァーー…?】

その中からわずかに彼女の声が聞こえてくる。会話が可能な位までに通信が安定したとわかると聞こえてきたのは【逃げろ】という言葉だった。
【本国からの操作により、対兵器が起動しました!あと10分で発射されます!逃げてください】
【アッ?どういうことだ。まだその時間じゃねェはずだろうが!】
【国は一秒でも早くこれの消滅させる事を決めた訳だな】
【そうです……。申し訳ありません。みなさんすぐにそこから離れてください】
【でも、まだ妹さんが見つけられてない!】
【それもわかった上での判断ツーことか……。おい聞こえたかよ半分野郎!あと10分だッ!】

その言葉にソアレが息を呑んだ音がする。何を言っているのですか、今すぐ離れなければあなた方も無事じゃ済まない!そう彼女は声を荒げた。
【わかったーー任せろ】
【ちょッ…!?焦凍君!気持ちはわかります、でももう】
【無理じゃないです、大丈夫です】

声が聞こえるんです。すぐに見つけます。
だからーー

【大丈夫です】

真っ直ぐな迷いのない言葉だった。

嗚呼、これはだめだ。そう思った。
ソアレはこの真っ直ぐな物が折れることがない事を知っている。
何回、何十回、何百回と戦場で見て来たのだから。
決して折れることの無いもの。剣でも銃でも、盾でもない。
人の身を守る事はない。だけど人を最後まで人を立たせ続けられるもの。

【ーーーー……ッ!嗚呼あーーーー!もう!なんでこうッ…!もう!どいつもこいつも!】
【あ?】
【ソアレさん?】
【どうした?】
【本当にヒーローというのは!どの国でも本当に諦めることを知らない!救う事しか考えない!ーーー本当にイカした人達だッ!!】

【何を今更。それが我々だ。】
【そうでしたね】

絶対に帰ってきてください。
1人でも死んだら、我々の【負け】です。

【絶対に勝ってください。信じていますヒーロー】

空が鳴いていた。
昔の人ならばこう称していただろう。

『神が怒っている』



風が強くなっていた。耳鳴りを覚えるほどの寒さの中、ただ只管に足をすすめる。
声が聞こえる。
幾重にも重なり反響する音の中で声がしてた。

ー1人ぽっちは悲しい。
ー寂しい。
ー置いてかないで。

幼い頃、親父に腕を引かれながらも振り返った先にいた妹の姿。
キュッと口を閉じて俯いていた凪。
きっとこう思ってたんだ。
あいつがあの時言えなかった言葉。
俺があの時に聞けなかった言葉。

走る。走る。
ゆっくりと上昇を続ける物体。
下を見れば切り離された胴体がそこにはあった。

ママ、ママ、ママ。
そう咆哮する声がする。
凪を恋しがる声がする。
「ごめん、こいつはママじゃない。俺の妹なんだ。大事な妹なんだ。だから凪は渡さない。」

走った。息が切れるほどに。残りの時間はどれくらいなのかもうわからない。
走って、目指したその先で。
声のする場所があった。
頭部のない体の頂上部分。
人で言うならば喉元の当たり。手で触れるとドクンーードクンと鼓動を感じた。
左でその地面を焼き中をこじ開ける。
やはり、ここにも痛覚があるようで地面全体が痙攣のように振動を繰り返し、赤黒い水が湧き上がる。
獣の皮を剥ぐように、肉を焼き剥がしていく。
掘って割いて開く。鼻は麻痺したのかもう匂いはしなかった。

そうして、ついに。
俺はそこにたどり着いた。


「凪……」


そこに妹は「居た」。
蔦のように絡みついた筋膜に抱かれながら、胎児のように身体を丸めて横たわっている。
眠る事も、起きる事もしていない。
ただ呼吸を繰り返してそこに「居た」。
ドクン、ドクンと脈をうつ筋膜達が凪を離すまいとばかりに覆い隠そうと動き出す。
手を伸ばして妹の頬に触れる。
暖かかった。生きている温度が伝わってくる。

「凪迎えにきたよ。一緒に帰ろう。」


空が大きく鳴いた音がした。
頭上で天が裂けるのがみえた。





嫌いなものがたくさんあった。

口には出していない。
自分しか知らない事。
誰にも言ってない事。

■■にも言ってない秘密の事。


ー寒いのは嫌い。
胸がキュッとなって痛くなるから。
ー病院は嫌い。
真っ白で、お薬と消毒の匂いが怖かった。
ー入院は嫌い。
ひとりぼっちで知らない人に囲まれるのが嫌だった。
ーお薬は嫌い。
苦くてウェッてしちゃうから。

「凪は大丈夫だよ」

ー1人のお布団は嫌い
寒くて怖いから。
ーボールは嫌い
お外で遊べにから、お部屋で転がしてもつまらない。

ー■■は、
ー■■は嫌い。
どうしてこんなに違うの
なんで私ばっかり苦しいの
いいな、いいな■■はいいな。
お外走れていいな。お胸が苦しくなくていいな。
■■■■に抱っこされていいな。

でも、本当に嫌いだったのは。

「凪1人で大丈夫だよ」

一番嫌いだったのは。

「私は大丈夫だよ」

そう言って、何でもかんでも手を離して。
諦める私自身が。
良い子のフリをしてる【凪】が一番嫌いだった。

もっと声を上げればよかった。
■■みたいにしがみつけばよかった。

私は、私【凪】が嫌い。
だから■■の事忘れたくなかった。
大好きな■■■の事。
だってそれがなくなったら。
私の中の大事な物がなくなっちゃう。

消えないで、壊れないで。
これだけは私から奪わないで。


ーーーーーーー……ッ

嗚呼、声がする。
五月蝿いくらいに反響する音の中で声がする。
知ってる。
この声、私知ってる。

そこには人がいた。
何かを叫んでる。私の頬を撫でてる。
暖かい。この手はいつも暖かかった。

灰色の空が見えた。
見たこともないくらいに渦を巻いていた。
そこから見えた星。
それが私を見ていた。
堕ちる。落ちてくる。そうわかった。
やめて、怪我しちゃう。
■■が怪我しちゃう。

星が堕ちる。
真っ直ぐに、私をめがけて落ちて降り注ぐ。
守らないと、もう怪我しないように。
もう傷つかないように。
大切な■■。
大事な■■■。

「ーーーーを、いじ,めな……いで」

ママとよぶ周りが形を変える。
手で包むように。鳥が翼で包むように。
■■を覆うように壁を作る。

「ーーッ!?ーー……ッ!」
大丈夫。
きっとこれで大丈夫。

空が鳴く。天を裂いて、星が私に落ちて
堕ちて。
落ちて来た。

熱い。熱い星が堕ちて、私が砕けた。