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星が光ったような気がした。





「いいな、いいなぁ」
夕方の報道番組を見ながら凪はそう言っていた。何が?とそちらを見ると親父の姿があった。
病的に、気が狂うほどにNo. 1に妄執している姿にぐるリと胃が軋み出す。それを誤魔化すようにもう一度何がいいの?と尋ねると凪はテレビを消してしまった。テレビの音が消えた事により部屋は一瞬にして静かになる。
「凪?」
「なんでもない」
「でも……テレビ見てたんじゃ」
「もういいの」
しょうとが苦しそうだからもういいのと凪は本を開く。台所から聞こえるお母さんの料理の音と本をめくる音それだけが聞こえていた。机の上にあるチャンネルを手に取って、テレビをつける。
途端に部屋は賑やかさを帯びた。本から顔をあげた凪は驚いたようにこちらを見た。
「僕も見たいから」
「うん」
「点けておこうよ」
「やったぁ」
この本何回も読んでたんだぁとへにゃりと嬉しそうに笑う。報道ではまだ親父のことが流れている。
それを眺める凪にもう一度質問をした。何を見ていいなと思ったの?そう尋ねると凪は見てとテレビを指差す。そこには親父のすがた。
「お空飛んでる。」
「そうだね、お空飛んでる。」
「いいなぁ、きっと気持ちいいよ」
お日様に近くなって暖かくて。ポカポカしてそうと秘密の話をするかのように口で手を隠しながらコロコロ笑う凪はとても楽しそうに話してくれた。
「凪はお空を飛びたいの?」
「うん、青いお空気持ちよさそう」
「鳥みたいに?」
「うーん、鳥より蝶々がいい」
「そうなの?」
「だって蝶々の羽はね、綺麗で可愛いの。」
ほら見てと開かれたままの本を自分に見せる。蝶が乗っている図鑑で色とりどりの羽を広げた蝶がそこに映し出されていた。
「凪はどんな羽がいいの?」
「うーんと、そうだなぁ。迷っちゃうな……赤もいいけど、黄色の可愛い」
「みんな綺麗だね」
「うん、でもそうだな。私は【青色】がいいな」

ーいつか私も青い羽でお空を飛んでみたいな。

そう笑う凪に俺はなんて返事をしたんだっけ。

だけどこれだけははっきりとわかる
「お前が夢見てたのはこんなもんじゃなかっただろうがッ……!馬鹿!」

目の前で、歪な羽が暗く強風が吹き荒れる空に広げられている。
暗くに濁った灰色のそれは分厚く重く。あの日、あいつから語れたものとは似ても似つかない。
人が幾重にも重なり形作られる羽がゆっくりと羽ばたきだした。
馬鹿凪。どこにいくつもりなんだよ。
こんな寒い空を飛びたかった訳じゃないだろ。
「そんな重テェもん……お前が背負わなくていいんだよ」
違うよな、降ろし方がわからなくなってもうわからなくなってるんだよな。
ごめんな、気がつかなくて。
「もうすぐだから、もう少しだけ待っててくれ」

その時だ。
分厚い雲の先で何かが光るのをみた。



ー管制室ー

通信が来ています。そう部下が自分に告げる。発信先を尋ねるとそれは祖国にいるある人物からのもの。
なぜこの状況でと内心舌打ちを打ちながらも通信を回すように指示を出す。
【ヤァ、イヴァン師団総長ご機嫌よう】
「突然のご連絡で驚きを隠せないでおります。大変申し訳ないのですが、立て込んでいるために要件は手短にお願いしいですーーー将軍」
【いや、そちらの状況はわかっている。そちらに優秀な私の部下もいるからね。君からの連絡より詳しく、迅速に報告をもらっているよ】
相手は師団を設立をし、己の上司である男。状況はすでに筒抜けのようだ。
それならと続けると機械の向こうの男は高笑いする。
【決まっているだろ?ーーーソアレ・イヴァン。君はなぜあれをまだ使っていないのだ?】
あれとは対兵器の事だ。もうあれは引き金を引けば使える状態であるのは確かだ。
だが、今あそこにいる者達がいる。だから引かないそれが理由だ。

【うん、うんそうか。で?それがどうした?】
男の言葉にスゥと何かが冷えて行く。
「その言葉の意味は?」
【君はそんなに察しが悪かったかい?早く対兵器を使え。私はそう言っているのだよ】
「ですが、先ほども申し上げた通ーー」
【それがどうした?片手で数えられる人数のために君はアレを消滅させる絶好のチャンスを逃すというのか?君は再び過ちを犯すつもりか?ソアレ・イヴァン】

脳裏に十年以上前のあの光景が蘇る。
焼けた大地。燃え上がる炎。
そして、
それを背に笑う人。人。
人だったあいつ。人の皮を被ったあいつ。

【あの時は君の夫だった、君も若かった。君に全てを委ねた私のミスでもある。】
「それは」
【だから今度は間違えるわけにいかないのだ。いいか、我々は兵士だ。】

英雄ではない。
その言葉が頭の中にこだまする。
英雄ではないそれはわかっている。そんな事はわかっていたのだ。
言葉に詰まる私に痺れを切らしたのか男は一つため息をつく。

【随分と友好関係を築いたようだ。それは君の長所であり短所でもあるなーーよろしい引き金は私がひこう】
「ーーーっ!?何を」
【指揮権は1人だけが持っている訳ではない。その者が引けない状況になった場合代わりの誰かが引けるようにするのは当然にの事だろう?】


「総代!ーーードボルが動き出しました。」
「そんな!待ってください!あそこにはまだ彼らがいるのです!」
【ソアレ・イヴァン師団長。これは決定事項なのだ。】

顔も知らぬその者達は残念だが。
全ての人類のために諦めてもらうしかない。

見上げると何かが動く音がした。それは大きくて見えないけどきっとこちらをみていた