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人の成れの果て





嫌いなものがたくさんあった。

口には出していない。
自分しか知らない事。
誰にも言ってない事。

■■にも言ってない秘密の事。

ー寒いのは嫌い。
胸がキュッとなって痛くなるから。
ー病院は嫌い。
真っ白で、お薬と消毒の匂いが怖かった。
ー入院は嫌い。
ひとりぼっちで知らない人に囲まれるのが嫌だった。
ーお薬は嫌い。
苦くてウェッてしちゃうから。

「凪は大丈夫だよ」

ー1人のお布団は嫌い
寒くて怖いから。
ーボールは嫌い
お外で遊べにから、お部屋で転がしてもつまらない。

「ごめんね、辛いよね凪」
ー■■■■は嫌い。
なんで、泣くの。何も悪くないのにどうして私を見て泣いてるの。
ねぇ、なんで笑ってくれないの。なんで、■■■■

「うるさい、お前はあっちに行っていろ」
ー■■■■は嫌い
なんで、そんなこと言うの。なんで■■を連れていくの。
なんで■■■■をいじめるの。ねぇ、なんで私を遠ざけるの■■■■

「凪は寝てなきゃダメだよ」
「ちゃんと手袋しないと」
ー■■■も■■■も嫌い
どうして手を握ってくれなくなったの。どうして遊んでくれなくなったの
なんでそんな離れた場所から見るの、なんで、なんで。


ー■■は、
ー■■は嫌い。
どうしてこんなに違うの
なんで私ばっかり苦しいの
いいな、いいな■■はいいな。
お外走れていいな。お胸が苦しくなくていいな。
■■■■に抱っこされていいな。

「僕、凪のお兄ちゃんだから!」
なら、なんで隣を歩いてくれないの
なんで前に行こうとするの。
なんで置いていくの。
ねぇ、■■。
1人にしないで。
ひとりぼっちはさみしいよ。
ねぇ、■■……。
置いていかないで。

秘密だった嫌な事。
口にしなかった嫌いな事。

たくさん、たくさんあった。

もう良いよと誰かが言っていた。
もう良いんだよとみんなが言っていた。

ガマンシナクテイイ
ゼンブナクシチャエバイインダヨ。

嗚呼、嫌だ。
本当に本当に。

大っ嫌いっっっっっ!




AAAaaaaaaaaAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

肌を指す寒さの中に響く絶叫。
ビリビリと鼓膜を揺らし、思わず出久は眉を寄せてしまう。
目標からはまだ離れた位置、しかもソアレ達から渡されたヘルメットを挟んでもいてもこの影響があるのだ。
あの灰色の塊の近くはどうなっているのか想像もつかない。

耳元あたりの機械にノイズが走る。
【こちら本部、皆さん聞こえますか?】
【はい、問題ないです。】

通信はまだ通じるようですねと機械越しから聴こる彼女の声は少し硬い。


ーあなた達はこちらの者の個性【荷車】にのり目標に向かってもらいます。
ーその荷車の周りを我々の個性を使い補強、保護をいたします。
ーそうまでする必要があると言う事だな。
ーはい、先に向かった者からの通信から目標のあの声には精神汚染を及ぼす効果があると言うことが報告されています。

汚染されたものにはあの声が歌に聞こえるようです。


aaaaxAAAAAAAAAXaaaaaaaaaaaa

【アレが歌に聞こえンのは耳がイカれた野朗だな】
【まだ汚染されてないからだから油断はできないよ】
【ンなもんしてこようなら爆破で消毒してやるよ】
【爆破じゃ消毒はできねぇぞ】
【うっせぇ!轟…テメェはもっと気張れや】


あれを救うか救わねぇかはテメェにかかってんだぞ。
横からの勝己の言葉に焦凍は近くなっていく物に目を向ける。

頭部は上を向きひび割れのような裂け目からは今もなお音を吐き出し続けている。
焦凍にはそれが歌声にとは到底思わなかった。
(ごめんな)
出久達には言わないが彼にとってそれは泣き声に聞こえていたのだ。

(ごめん凪)
その音を聞きながら焦凍はそう呟く。
言葉は誰に聞こえるでもなく消えていき。本当に届けたい者へ届くことはなかった。

【あなた方は頭部の方へ向かうことだけを考えてください。周りの敵は我々が対応します。】
【了解した】
【あの表面ではもしかしたらその装備も無意味かもしれません。心を強くもってください。
折れれば一瞬で呑まれてs……!】

ソアレの言葉が不自然なところで切れる何事かと当たりを見回すと。
乗り込んでいた荷車が大きく揺れ動いている。

【どうした?何があった!?】
【あ、嗚呼大丈夫……ダイジョウブ。いや違う鳴呼ダメだ】

操縦をしていた支離滅裂な兵の言葉が耳に入る。続けて聞こえてくる、ハハハと乾いた笑いに身の毛が逆立った。

【ハハハ鳴呼。ダメだ歌声が聞こえる。歌に聞こえる。もうダメ。お願いにげて……アハハハハハハハハハハッ!!】


嗚呼ー……綺麗な歌声。

その言葉を最後に荷車が一瞬にして消え。
焦凍たちは空中に投げ出されてしまった。
強風。
重たい澱んだ冷気が彼らを襲う。

【全員、足場となる……目標物に向かえっ!】

エンデヴァーの叱咤に3人は我に帰り、目の前に聳え立つ灰色の巨体を目指した。
近くに行けば行くほどその物体の詳細が肉眼で視認できた。
【何だあれ!?】
【人がたくさん……っ!】
それは醜くおぞましい物であった。

【ーーーッ…皆さん聞こえますか!?】
【ソアレか、間も無く目標物に到着する。しかし、あれは何だ】
【見える距離に来ているのですね、あれは人でだった物の集合体。】

【表面に見えるのは残骸ですもう生きていない】

屍の集合体です。

折り重なるように集まった物達の落ち窪んだ瞳が彼らを出迎えるようにそこに合った。