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小さな僕が得意だったこと





はぁと、吐き出した息は白い。
新しく手に入れたコートから見える己の指先は赤くかじかんでいる。
きっとあの子の手はもっと赤くなってしまうだろうなとトガは吐き出す息を手に当てながらそう思った。
「いや、しかし本当にデケェなあれ、小さいな」
隣で腰を下ろしているトゥワイスがそうこぼす。
二人がいるのは、海が見える高台。暗く何層も折り重なった雲であたりは薄暗かった。

ーー海岸に突如として現れたーー物体はーーー
ーー現在ヒーローとーー調査ーー
ーー影響によりーーー気温が著しく低下しーーー
ーー近隣の人はーー


地面に放っておいたラジオからノイズまじりに聞こえてきたのは今二人の視界の先にあるものを告げている。
鉛色の塊、両腕がなくその代わりに背中に歪な翼を持つ人のなりそこないのようなもの。
嗚呼神様みたいとトガは思う。まだ【普通の生活】を強いられていた時に見た写真が脳裏に蘇った。
退屈で窮屈な時間に開いていた教科書に挿絵。
翼の生えた勝利の象徴。
空から降り立ったとされた女神はもっと自由だった。
トガの視界にいるそれは飛ぶことも潜ることもしない、否。できないのだろう。
似てもにつかない不自由なそれを神様みたいと思った。
「誰かのそばに行くわけでもなくて、いなくなるわけでもない。誰も近づけないね……神様みたい」
「どうしたトガちゃん?」
「なんでもないです。ちょっと寒いって思っただけです。」
「ちょっとじゃなくて滅茶苦茶寒いぜここ、少し暑いな。俺たちいつまでここに居ればいいんだ?」
凍える、茹ると泣き言を吐きながらもトゥワイスはそこから動こうとしないのは彼の人の良さもあるが、鉛色の物体に何がいるのか理解しているが故なのだろう。
「本当にあそこ凪ちゃんがいるのか?嘘、いないぜ」
「ちゃんとした所からの情報らしいので間違いないです。」
「荼毘のやつ大丈夫か?安心だな!」
赤い翼を持った男からもらった情報は悔しいが信用性が高いものでだからこそトガ達はここにいるのだ。
『荼毘が俺たちに不利益なことやらかしそうなら殺してでも止めろ』
まだ癒えぬ傷を撫で気だるそうに死柄木が自分たちを送り出した時にそう告げていた。
『あいつはあのガキの事になるとネジが二、三本飛ぶし、目の色は数色にも変わる』
普段から人を殺めるなんて事に躊躇しない彼はきっとあの子に何かあればこの世の全てを敵に回しても構わない。その一線を軽々と踏み越えてしまう気概があることはわかっていた。
「荼毘君は凪ちゃんを助けてたいって誰よりも思ってるから。下手なことはしないです。」
あの人お兄ちゃんですもの。
ズッと手と同じく赤くなった鼻をマフラーに埋めたトガはトゥワイスの横に腰を下ろす。
此処は寒い。風も吹くから痛いくらいだ。

ーーーーaaAAAAAAaaaaaaa……ーーー

耳に届く音がトガには悲鳴にも泣き声にも感じる。
これはきっとあの子、凪の声だ。
凪ちゃん、私の大事なお友達。
大切でカァイイキレイな子。

ーーーーAAAaaaaaAAaaAAAA-

ねぇ、泣いてるの?
寂しいんだね、悲しいんだね。
そこはきっと寒くて痛いよね。
凪ちゃん私はそこに行けないけど大丈夫だよ。
荼毘君がねお迎えに行ったよ。だから大丈夫だよ
凪ちゃん。

「会いたいなぁ……」



では改めて確認です。
大前提として凪さんとワラキアは生きている事が確定しています。それは私の個性が証明しいます。
そこから考えられるのは、あの物体、以降【神】と呼称させていただきますがそれの主導権が二人のどちらかになるという事です。
私の推測では太陽が見えている時間の主導権は凪さんに、太陽が沈んだ瞬間、主導権はワラキアに奪われる事が予想されます。
ワラキアは吸収される事なく個を保っていた。今もなお神の中で意識があるは間違いなく。必ずあれは主導権を握ることは間違いでしょう。
我々に課せられたことは二つ、神の中から彼女を救い出し、神を撃ち殺す事です。
それに与えられた時間は日没までの数時間、目標物に接近するまでに一時間を消費することは確実ですので実質二時間弱、その間に全てを終わらせなけらばなりません。

神までは我々が送り届けます。
着地をした後は彼女を見つけ出し、すぐに離れてください。
発見できていよといまいと日没と共に私はドボルを打ちます。神の主導権があいつに移るのが一番危険なことです。そこはご理解をください。
付近の気温は氷点下を下回っており現在も下がり続けています。装備は厳重に。
また、神から彼女を取り出そうとすることが気がつかれればきっと攻撃を仕掛けてくるでしょう。その勢力は大凡にして数千は予想しています。

最後にもう一度伺います。
この作戦は極めて生還率が低い。
それでもあなた達は本当にこの作戦に挑みますか?

「無論だ」
「はい」
「たりめーだ」

エンデヴァーを皮切りに、出久と勝己が迷うことなく返答をした。
それに頷いたソアレが最後に焦凍に目をやる。

「はい」
「大丈夫ですか?あなたにはきっと辛い物です」
「問題ないです。それに凪を見つけられるのはきっと俺だけです」
「えぇ、君にかかっている。見つけて上げてください」

「必ず見つけます。」

かくれんぼで凪を見つけるのはいつも俺だった