×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





キャスティング





決断を

そう言われた。
何を?何を決めるっていうんだ?
選択肢なんて俺にはない。
決めるなんて俺にはできない。

ーしょうとー

手を振る妹の顔が浮かぶ。

会いたいと思ってた。
ずっとずっと。
願い続けてた。
たくさん話したいことがあった。
だからずっと思い続けてた。
あの黒い式をしたあの日から。
ずっとずっと俺は願い続けてしまっていた。

こんなことなら。
あんな凪を見るくらいなら。

「願わなければ良かった」



リネンの床に何かが落ちる。
凪があんな風になったのは俺のせいだそう漏れ出た焦凍の言葉は出久の耳に届いた。
出久はただ息を飲み込んで彼の言葉に耳を傾ける。
ずっと自分が願ってたからと、
会いたいと思い続けてからと、
いくつもいくつも落ちていく焦凍の言葉を彼は聞き続ける。

「良かったて思っちまった」

あの時、海を見てたあいつ【凪】を見つけた時。
怖い事も辛いこともたくさんあってるあいつの事を見てそう思ってしまった。
凪は想像もできないくらいの嫌な目にもあっているかもしれないのに
自分はただ、また会えた事が嬉しいと思ってしまった。

「俺、最低だ……」

ぽたぽたと床に落ちる言葉と一緒に雨粒が落ちていく。
ポツポツとそれがいくつもいくつもリネンを弾いて床に沈み込む。

願い続けてしまったからこうなってしまったのかもしれない。
ー僕に妹を【凪】を返してくださいー
祈り続けてしまったからああなってしまったのかもしれない。
妹を苦しめるくらいなら、こんな未来だったのなら。
あの時祈らなければ良かった。
願い続けなければ良かった。

「こんな事になるなら……凪は、あの時あのまま……」
「それは駄目だッ!」

出久に肩を掴まれた焦凍が顔を上げる。
そこには険しい表情の出久が自分を見ていた。
「君がッ!誰よりも一番君がそれを言っちゃ駄目だッ!」
「緑……谷」
弱く名を呼ばれ、出久はさらに言葉を続ける。
出久は知っている。
あの雨の日の独白を、夏に語る思い出を、
冬の日の
ー俺は凪を拾いに行くー
決意を
全部知ってたから、焦凍には決して捨ててほしくなかった。
それに出久は見ていた。
「彼女には君の声届いてたよ」
あの場で、彼女【凪】が反応していたのは焦凍の声だけだった。
ちゃんと届いてた。ちゃんと聞こえてた。
まだ彼女の中に、焦凍の存在はある。

「それなのに諦めるのかよ……?君は彼女のこと諦めるのかよ!?」

だって彼女は君の原点ーオリジンーだったんじゃないのか

「……ッ!」

グッと焦凍が奥歯を噛み締める。何も言うことができない。
全くもってその通りだから。
ーしょうとー
原点違うそれよりも前の事、ずっと前の一番最初。
それこそ一緒に生まれた時にはもう持っていたかもしれない。
体に熱が走る。
目の前の男の胸ぐらを思わず掴んだ。

「ーーーっンなッ!んな訳ねぇだろ!!?」

誰に言われた訳でもない
誰に誓った訳でもない。

ー僕がお兄ちゃん!ー

「あいつの事、俺がッ!諦める訳ねぇだろ!」
廊下に響いた声が反響して自分に返ってきた。
「答えは出てるじゃないか、轟君、君の答えは昔も今も変わってないでしょ」
壁にかけられていた時計が約束の時刻を告げる。

「さぁ行こう」

彼女を迎えに。



廊下を走り、指定された部屋前にたどり着いた。
「すいません遅れましたッ!」
扉を開けて中に飛び込んだ出久と焦凍に部屋にいる全員の視線が刺さる。

暗くなった部屋にはプロジェクター。
一番前にいたソアレが胸元から懐中時計を取り出した。
「3分の遅れです。今回は見逃しますが、今後はこのようなことが一切ないように」
「あ、すいません」
「全員揃いましたね、では定刻より三分遅れですがブリーフィングを始めます。お二人とも席についてください。」
そう促されたが焦凍たち戸惑いが隠せない。
「俺たちのこと待ってたんですか?」
「正確には、君をですけどね焦凍君。君が来るか来ないかで二つあった計画のどちらにするか決めるつもりでした。」

一つは当初の予定通り【撃ち落とす者】の引き金を引くとい言う計画の物。
もう一つはあの神のなりかけから彼女【凪】を摘出、その後に【撃ち落とす物】の引き金を引く計画

「後者ではどうしても君が必要なのだけど先程の様子では難しいと思ってたんです。だから一つ目の計画の準備をしていたのですが」
「ですが?」
「そこに居るご友人が必ずあいつが連れてくるからと言ってね」
と彼女の視線の先にはなんと勝己が腰をかけており、余計なことを言わんばかりに舌打ちをしている。
「無駄話してねぇださっさと始めろヤァ!」
「そうですね、では始めましょう」

これは、【神】から【人】を奪い返す計画。
いつの神話にも必要なのは

英雄なのです