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演目*■■*





思っていたことがある。
ずっと思っていたことがある。
脳の奥、記憶の底にある一つのそれ。
胸の中に宿る消えることのないそれ。

ー■■ー

これがあったから、自分は自分のままでいたのだろう。
これがあるから、自分は自分を捨てられないのだろう。

ー■■ー

嗚呼、本当に。
なんで【私】なのだろう。
どうして【私】だったんだろう。

ー■■ー

嗚呼、嵐が。
頭の中で砂嵐のような騒音が反響を繰り返す。
五月蝿くて仕方がない。

ー■■ー

その中で聞こえる声に引かれて、黒い海にたどり着いた。
やっと、これから解放される。
それが嬉しかった。

ー■■ー

もうこれは自分一人で抱えるには大きすぎるくらいになってしまった。
内側から弾け出してしまうのは時間の問題だった。
よかった。
本当によかった。

ー■■ー

私は、凪は、もうこれを持っていなくていいんだ。

『まま、mいtぅけTa』

眼前に現れたそれに自分はただ手を伸ばす。
嗚呼、これでもう何も聞こえなくなる。

ー■■ー

『bおク、らMOおnあじ』






海底から現れた物体にワラキアを除いた全員が言葉を失う。
視界から入る情報を脳が認識することを拒否しているようにそれが何者であるのか理解するのを本能が拒否している。
「なん……だよ、アレ」
ようやく出たそれは焦凍自身の口からのものか。それとも近くにいた出久や勝己から漏れたのかわからない。

脳無とは違う生命体。
生命を持っているなんて思いたくないそれは、動物ではなかった。
海中の生物でもましてや虫とも名状できない。幼児がこねくり回した粘土細工のような塊。それが呼吸を繰り返し、上部あたりにある無数の【人の口】から音をママ、ママと子供とも大人とも取れる音が紡がれ続けている。
歓喜したようにその灰色の体が震えると腹といえる部分から【人の手】が一本、二本と生え出した。

その灰色の手が伸びていく。
その先にいる人物が目に入るや否や、その場の誰よりも早く焦凍の足が動くことを思い出す。
「凪!!」
生い茂る植物のように伸びてくる【人の手】に凪は怯える様子も逃げる様子もない。
それよりも、彼女自らその手を取ろうと自ら手を伸ばそうとしているではないか。
あの手を取らせてはいけない。凪に触れさせてはいけない。
焦凍にわかるのはただそれだけだった。

「邪魔をしないで」

当然のようにワラキアが焦凍の前に立ちはだかる。エンデヴァーに燃やされて数は減ったがまだ数体の影が彼を襲う。
「ーーーーっ邪魔だ!どけ!!」
左側に熱を宿す。
だがその背後からそれよりも強い熱気を感じた。
「お前はそのまま凪の元に行け!!」
迫り来る炎と一緒に聞こえた父親の声に焦凍はそのまま妹の元へと向かう。
だが、焦凍がたどり着くよりも先に彼女がその【手】をとってしまう方が早い。

「凪!やめろ!その手を取るな!」
叫ぶ焦凍の声はそれの鳴らす音にかき消されてしまっているのか凪が振り向く様子はない。

『まま、maマ、いssyo。もUずttoisしよ』
「凪!聞いてくれ!」
『BおK羽、いssyo、まma、Oれ、わTAし、issよ』
「お願いだから!」
『ほra、まmあ、手ヲ』
「お願いだからーーー俺の声を聞いてくれ!」

「凪!」

一瞬だった。
瞬くよりも短いそんな刹那。
手が重なるその時、一度だけ。
凪が焦凍を見た。

『さa、いsしyo、ダよーーーーママ』


なんと表せばいいだろう。
どろりと溶けるように、ばさっと布を広げるようにそれが形を変える。
体が開かれ。
それはそのまま。
凪を飲み込んだ。

「あッ……」

焦凍の足が再び止まる。
妹が居た場所には何もない。
飲み込んだそれがずるりと海から這い上がってくきた。
何が嬉しいのだろうか。
何が楽しいのだろうか。
喜ぶような声をあげ続けるそれ。

『ウレシイナ、ウレシイナ、ママトイッショ、オレタチ、ボクタチ、ワタシタチモウサビシクナイ』

目の前のそれが形を変える。

『オナジダネ、オナジダネ、オナジキモチウレシイナ』

身を震わせる事にそれの言葉ははっきりと言葉として聞こえる。
【人の言葉】を発するそれは、獣でも人でもない。
ワラキアと同じ化け物と呼ばれる者に変化していく。
『ソウダネソウダネソウシヨウ』
上部に裂け目が生まれ底に濁った眼球が現れる。濁った黄緑色のそれがあたりを見回して焦凍を見た。
『チガウチガウ』
だがすぐに視線は外れて出久たちの方へと移る。
『アハッ!イタイタイタイタ!ソコニイタ!』
ギャラギャラとけたたましくなっていた声が止む。
獣のような四肢が生え、唸りをあげると共にそれは焦凍を飛び越え一直線に走り出す。
『ヤットヤットカナエラレル!ウレシイウレシイ!アリガトウ!ソダテテクレテクレテアリガトウ!』
それはワラキアの影を踏み潰し、蹴散らして。
本体の元へと駆け出していく。
突如眼前に現れたそれにワラキアは目を見張る。
この行動は予想もしていなかったことなのだろう。
「何で命令もなく動いてる?」
『ワタシオレ、ボクハネズットズット、カンガエテタ、カンガエラレルブブンガアッタヨ!シラナカッタ?シラナカッタ?アハハハハハハハ
ーーーーーーーーーバーカ』
「あっ……!?」
ワラキアの胸をそれの腕が貫く。
『ギンノダンガン、ジャナイカラシナナイネ』
「何を……あッ。ワタシは主人だ……ぞ」
『チガウヨ、オマエハ。チガウ。ボクノワタシノダイジナノハーーーーママダケダヨ。
ママハオマエガダイキライ、ボク、ワタシモオマエガダイキライダカラキメテタキマツテタ』

ーオマエヲ コロスト キメテタノー

そしてその化け物は。
腕に貫かれたケダモノを人が見ている前で飲み込んだ。
ゴキュリと体を震わせて、それはケダモノを腹におさめると感嘆の声をあげる。

ー嗚呼、アア!トッテモトッテモ幸セ!
ーサァ次ハママノ願イヲ叶エヨウ!ソウシヨウ!

ーママ、ミンナ嫌イ
ーズットズット怒ッテタ
ーダカラ、ボクワタシガ

『全部壊シテアゲル!』


こんな運命憎まない方がおかしいじゃない