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緑の眼をした怪物





重石が胃のなかに落ちるような感覚。これを以前に体験したことがある。
そうあの夏の日、神野の夜に似たようなものを。
深く濃い、人が決して持つことはないほどの【狂気】。
底が見えない位の貪欲なそれが体を中身から侵食していくようだった。一歩でも動けばたちまち飲み込まれてしまうと錯覚を起こしかける。
仰々しく首を垂れていたそれが顔を上げて3人を見つめた。その瞳は獲物を狙うかのように爛々と黄緑色に輝いており。一瞬でも隙を見せれば口から覗く牙で誰かの首元に食らいつかんとしている。
「死んでくれダァ?言うじゃねぇかクソバケモンが」
「威勢がいい見たいだけれど、口だけと見たいね、ホラァ」
ゆっくりと瞳を三日月に細めながらそれが勝己の足を指さした。「足震えているわよ」心底楽しそうに嘲りながらそれは微笑む。
「ハッ!いいこと教えてやんよこう言うのを日本『ココ』じゃあ」

ー武者振るいって言うんだよッ!ー

勝己の手から発せられた先行弾があたりを包む。アァアッ!と悲痛の声が耳をかすめた。その隙をついたように炎と爆破がたたみかける。

ーあぁぎゃあぁああぁああああ!!ー

強い光に耐えきれずに目が眩む出久の首元に誰かの手がかかりそのまま背後に投げ飛ばされ、木の影から灰色の空の下に転がりでた。立て!と叫ぶ勝己の声に体制を立て直し出久は森の奥を見据える。
「ごめん二人ともありがとう」
「ぼさっとしてんじゃねぇぞ、クソナード」
「空想の吸血鬼と違うって言ってたけど、やっぱり火や強い光には弱いみたいだな」
投げ飛ばされる前の一瞬であったが焦凍はあれの目元が焼けているのが見えた。微かに肉が焼けるような音は聞き間違えではないだろう。

ーてけつみ てけつみ
ーてけつみ をしたわ いがねお へらちこ へらちこ

凪の声は未だに読むことはない。海にいる何かの言葉を吐き続けている彼女には、焦凍たちのことはもう見えていないようで。ただ海を見ていた。

ーよだここ よだここ くやは くやは

ーー…………っ… …ーーーーーー

「何んだァ?」
「海の向こうから何か聞こえる」

音が聞こえた。
水平線のさらに向こう側から音が聞こえた。思わず視線をそちらに向けてしまった3人の目に映ったのは灰色の空の下、黒い海が蠢いている姿だった。

ー……・・。ー……ー

ゆっくりとだが確実に蠢く何かはこちらに向かってきている。

ーくやは くやは るいにここ はしたわ 
ーのなやい うも のいしびさ

「凪の声に反応してるのか?」

何かを乞うように、願うように紡がれる音に応えるようにその蠢く何かはゆっくりと這いようるように水面を揺らして近づいてきている。
それが忍び寄ってくるごとに警鐘のようなが頭の中で鳴り響いていた。
これ以上それを見てはいけない。
これ以上この音を聞いてはいけない。
鳴らされる警鐘は段々と大きくなっていく
「ーッ!今すぐあれを止めさせないと!」
「今度は邪魔すんじゃねェぞ轟!ぶっ飛ばしてでもあの口閉じ殺すからなァ!!」
「わかってる!」
自分の妹が、得体の知れない何かになっていく。焦凍にはそう思え、今度こそ爆豪を止めることはなかった。

ーハハッはははっは止める?あははははは無理よぉ無理むり!

森の奥からケタケタと笑い声がしだし、ケタケタケラケラと壊れたブリキのような、錆びついたような機械の音。
その直後ーーゴウッーとチリのような影の塊が木々の合間を縫って飛び出してきた。
キャラキャラ、がらがらざあざあ
砂嵐のようなノイズのような音が3人をすり抜け、ドプリと地面に体を形作る。

「痛いイタイ、ひどいことする子はイヤねぇ。やっぱり【それ】は嫌い」

焦凍と爆豪からの攻撃の後だろうか、再び現れた人の形は所どこに焼け爛れた痕を残していた。青白いその顔に赤い火傷の跡が脈打つように貼り巡り。それは口を釣り上げ、顔に爪を立ていたい嫌いいたいと言葉が壊れたテープのように言葉を繰り返している。
「いたい、痛い。イタイノハ嫌い。」
チリチリと地面に伸びるそれの影が大きくうねり姿を変えていく。「嫌いなモノは消してしまいましょうねェ」引き絞るように笑う口の隙間から漏れ出てくる音がその上に落ちた。
波紋が起き、影が立ち上がる。


「常闇君と似た個性?」
「個性?ーアハハっ!ーそんな人ごときが絞り出したー能力とイッショにしないでホシイなぁ」

わたしがこれでこれがわたし、立ち上がった影は一つが二つに、二つが四つに数をまし。出久達に牙を剥く。攻撃の全てに手応えはある。燃やせばチリになる。爆破すれば霧散する。だが終わりがない。出久の拳により弾け飛んだ影のちりが二つ三つに分かれ地面に落ち、新しいそれとなっていく。

ー全てが本物ー
ー全てが偽物ー

「全部殺してみなさい、人間風情が」
じゃないと皆、食べちゃうわよ。
3人ともすごく美味しそう。

鸚緑の瞳は瞳孔が細まり、ぐるルルるると喉を鳴らしながら彼らを取り囲むそれは人でも獣でもなかった。

それはまさしく化け物。