×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





テセウスの船





「焦凍君を行かせてよかったのですか。」
時は少しだけ巻き戻る。
焦凍たちが走り去ったなった部屋に残されたソアレは開け離れた扉の先を見つめていた。
「デクと爆豪がともに向かっている。問題はない」
それに彼らは自分が認めているヒーロー達だ。だから心配はないと続けるが、ソアレは静かに横に振り。「テセウスの船を知っていますか?」そうエンデヴァーに投げかけた。
今まで話の脈絡から想定外の問いに一瞬眉をあげつつもエンデヴァーは思考実験の名前だと告げる。

彼のいう通り、テセウスの船とは思考実験の一つだ。
テセウスという船の部品を新しい部品と入れ替え最終的に全ての部品が元のテセウスの船のものではなくなった際に、果たしてこの船は【テセウスの船】そう呼べるのだろうか?
その解答を求めるものだ。

「ソアレ、君が言いたいのは……」
「そうです」
あなたの娘、凪さんは子供染みて醜悪な計画の材料として選ばれている。10年間はアレに弄られているのは間違いないのだとすれば。もう【凪】だったものは存在していないかもしれない。
「向かった先にいるのは本当に彼の妹さんなのでしょうか?」
そうだとすれば彼の目にするのはきっとこの世の絶望だろう。彼はヒーローである前に、まだ10代の少年だ。
「経験をするには、あまりにも酷な事です。」





白に塗り替えられた公園の一角を一通り見てまわる。どうやらこの辺りには逃げ遅れた人はいないようだと出久は安堵に息を漏らした。
一度入り口の方角へと向かうと先ほどとは違い数名の人影が目に映る。
「なんで人が?」
「チッモブどもが」
隣から吐かれる悪態に賛同するわけではないが、ここはまだ安全とは言えない場所である。すぐにでも避難させなければと、その人々に近づ行く。何やら様子がおかしい。
口論をしているように見受けられ、一番近くにいる見窄らしい服装の男に声をかける。
「あのどうされたんですか?ここは危険なのですぐに避難してください。」
「君たちヒーローか、この婆さんが自分の子供がいるから戻るって言って聞かないんだ」
「はぁ?子供だ?」
まいったと頭をかく男から出久が視線を横にずらすと確かに初老の女性が泣きながら何かを呟いており、周りがそれを宥めていた。様子からしてかなり錯乱しているように見受けられる。
「きっとあの子迷子になってるんだよ、私お母さんだか迎えに行かないと!」
「だから何度も言ってるだろ!?違うって!」
「婆さん落ち着いて聞いてくれ、あんたの子供な何年も前に死んでる、自分がそう言ってたじゃないか」
「違うよ違うよ、そんな事ないよ。だって私のところに帰ってきたんだ。」
だっていつも遊んでいた森の中にいたんだもの。あの子は私の子なんだよ。何度も何度もうわ言のように繰り返されるその言葉は子を心配する母というより。迷子の子供のように感じてしまう。彼女にいくら説明してもわかってくれず、ついに人の目を掻い潜って避難所からここまでやってきたらしい。
収拾がつかない彼女達に拉致があかないと勝己はため息をつくとそう言って老婆の前にたった。
「そのガキは中にいるんか?」
「そうなんだよ、だから私が迎えに行かないと、あの子きっと泣いてるよ」
「俺とこいつが見てくるから避難所に帰れ」
「かっちゃん?」
「うるせぇ……。否定するより肯定した方が早いだろ」
いいから話を合わせろと主張する肘の攻撃をうけつつ、老婆からの縋るような目を向けられた出久は安心させるように笑みを浮かべる。
「僕たちはヒーローです。必ずお子さんを見つけ出します」
「本当かい?あの子を探してくれるのかい?」
「はい、だから皆さんと一緒に避難してください」
「ありがとう、ありがとう……!」
彼女は泣きながら出久の両手を握った。骨が浮き出ているその手は赤切れが目立ち酷く荒れている。その手をしっかりと握り返し出久は男達に彼女を託した。
「この人のことよろしくお願いします。」
そう言って公園の奥へ踵を返そうとすると。出久が最初に話しかけた男が呼び止めた。仲間達に連れられて先に帰っていく老婆を横目に彼は自分は見たんだと言葉をこぼす。
「あの婆さんが何か拾ってきたんだ。最初はマネキンかぬいぐるみか何かだと思ってたけど違った。あれは人だった。」
「え、人?」
「自分のテントの中で何度も何度も子守唄を歌ってた。きっとそれに聞かせてたんだ。」
脳裏に光景が蘇っているのだろうか男の顔色がどんどん青ざめていくのが見える。
「それで今日それが中から出てきたんだよ……アレは一体なんだ?」
「あの一体なにを言って……」
「人だよ、人だった。俺にはそう見えた。だけどな何か違ったんだよ」
外側は確かに人の形をしていた。けどアレは違う。中身が違う。何も見てない、何も感じていない。それこそ人形のようだった。
「それが一瞬で氷漬けにしちまったんだ。そん時に何か言っていたんだでも何かわからなかった」

アレは人の言葉じゃなかった。

何が其れとたらしめるのか?