×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





やっと会えた





娘さんはアレの目的に必要な物を全て持っていたからです。
知能も、年齢もそして個性の何もかもを。
「どうして、その、氷の個性が?」
「アレが吸血鬼だという事は最初にお話ししましたね。」
「はい」
「空想のものとは違いアレにはニンニクや十字架も効きませんですが、陽の光は違います」
太陽、日輪の光はアレにとって忌むべき対象であり、己の天敵となる物なのです。太陽が昇る限りアレは自由に行動はできない。
「だから、こう考えた。太陽を壊す」
あまりに突出したその言葉に空いた口が塞がらない。襲撃事件を起こして、彼女の母国の人たちの命を数え切れないほど犠牲にして。その目的がそんな、子供の考えたような
「そんな馬鹿げた事が目的だっただと!?」
信じられないと吐き捨てられたエンデヴァーの言葉にソアレさんは頷いた。
「そんな馬鹿げて事を考えているのですアレは。もし太陽が消えたらどうなると思いますか?」
「気温の著しい低下や植物の光合成ができなくなるから……」
「人間は生きてけねぇな」
「そうです簡単に考えて、人間を含む大型の動物は死滅してしまう。太陽を壊せなくてもいいのです。熱の低下を少しでもさせることができれば受ける影響は大きい。」
例えば氷漬けなんて最も有効な方法ですよね。
あの化け物は生き残り、暗い凍りついて行く世界でアレは平然とその大地を歩いていくでしょう。そして誰もなす術もない世界で「助けてあげましょうか?」そうアレに手を差し伸べられたら人々はこう考えると思うのです。

ー神様ー

人の心は単純で複雑だ。
一度疑われれば、信用を得る事をは難しい。
だが何か利益になる様な事、得になる事を与えられればその懐に入ることは容易い。
己の命を救われたらなおの事だろう。
「言い方が悪いかもしれませんがあなた方ヒーロー。そして我々軍人にも当てはまる事かもしれません」
人を救えば英雄と称えられ。
救えなければ戦犯と罵られる。
人の心は複雑で単純だ。
だから、絶望的な世界で己の命を救われたとするならばそれを神とも思ってもおかしくはない。
「誰か一人に手を差し出せば後は簡単です。人ずてに伝聞が流れ、信仰が起きる。」
気がついた時にはアレは己から名乗らずとも神としてそこにいる事になるでしょう。人があれを化け物から神へと作り替えてしまう。
その後はアレの思うように世界はいじくりまわされてしまうことになるだろう。
「計画は最終と言っていたな?」
「えぇ、そうなる前にあれを討伐しなければなりません」
「そのドボルという兵器の使用可能時間までにそのケモノ…吸血鬼を探し出すことが作戦の一つなのだな?」
「はい、その姿を見ることができれば後は私が動きを止められます。」
アレが食らった命の中には己の先祖がいる。血が流れており言うなれば、魂の情報の一部が吐いていると考えられる。
「吸血鬼を殺し方は二つ方法があります。」
一つはその身を神の下により天の裁きを受けさせる方法。
もう一つは核と呼ばれる心臓に匹敵する部分を壊すこと。その場合に必要なのは
「その者の真の名前、そして銀の弾丸を打ち込む事です。ドボルは前者の方法を発展させた物になります。」
後者の方法で重要なのは、対象の真名。
「名前とはその物体命を縛る呪いとも言えます。アレの命の一部となっている先祖の名前は真名には及びませんが動きを止めるにはじ十分の効力を持っているはずです。」
だがその声色から察するにこの計画が容易くはないという事が計り知れる。手がかりは彼女だけが見えている縁の糸だけ。
ソアレさんが再び自分の手元を見た時に眉を潜める。何かを辿るように視線が窓へ行き二つの方向に見てそして何かに気がついた。
「エンデヴァー!すぐに出れますか!?」
「どうした?」
「娘さんは別の場所にいるようです、理由はわかりませんが糸が別の方に伸びているのです。そしてアレも彼女を探しているように蠢いている。」
太陽は空の上にいる。もしかしたら何かの罠かもしれない、だけど今ならアレよりも先に見つける事ができれば。
「アレの計画を破綻させることができる!」
「ッ!」
「焦凍ぉ!待て!」
その言葉を聞くや否や、轟くんは立ち上がり部屋を飛び出していく。彼には妹さんの場所はわからないはずだ。

ーなんか黒い糸が見えるー

違う、彼にはソアレさんの個性の影響で吸血鬼との糸が見えていた。ならばそれよりもずっと近い所にいた彼女との縁もきっと見えていたに違いない。
「僕たちが追います!二人は黒い糸の方をお願いします!かっちゃん!」
「俺に指図するな!」
部屋を出ると乱暴に開け放たれた窓が目に入る。
周りに散乱する書類からここから外に出ていったのだろう。
「今ショートくんがここから飛び出して言いたんだけど何があったんだ!?」
「どけモブサイド共!」
「すいません!詳しい事は後ほどあると思います!」
エントランスまで降りている時間はない。
そのまま窓枠に足をかけて外に飛び出す。
外は寒風が吹いていた。
太陽はまだ空に居るのが視界の端に入っていた。



記憶から引き戻された後。
目が眩んだような、脳みその中を垣間さわれたような不快感に襲われながらも自分の視界にはさっきまでなかった二つのものが見えていた。
それは糸で、一つは黒くて虫のように蠢いていた。
もう一つは薄い水色の糸。それはなぜか黒いやつよりもはっきりと見えて不思議と握った感覚あるように感じた。
ソアレと名乗った軍人が語る御伽噺のような信じられない本当の話。それを聞いている間もそれは俺の周りに揺蕩っていた。
ー娘さんは生きていますー
もしかしたらとそうだったらいいなと思った。
太陽を壊すだなんてどんな三流小説の内容だそう言いたかった。
そんな事のために凪は連れ去られたのか。
ーきっと人は神様と呼ぶでしょうー
B級映画よりもくだらない。
バカみたいな目的のために。
ーしょうと!こっち!ー
凪は……。

「轟くん!」
無我夢中で揺蕩い伸びている糸を追い続けていた自分後ろから爆音とそして緑谷の声が聞こえた。
「お前らなんで」
「なんでじゃねぇんだこの半分野郎!自分が何やってんのか分かってんのか
「今はそばにいなくても妹さんを探しているなら近くまで来ているかもしれない。ちゃんと考えないと、何が怒るかわからない相手なんだ。」
轟くん気持ちはわかるけど冷静になって。下手したら何もかもが台無しになる。緑谷達の言葉に頭が冷えていくような、鼓動が落ち着いていくそんな感覚を感じ。ようやく自分が冷静でなかったことに気がつく。
「悪い、二人とも」
「で、まだその糸は見えてるのか」
「あぁ、さっきよりも薄くなってるが見える。この方向を真っ直ぐ向かって伸びてるみてえだ」
「確かこっちの先は確か……。」
その時だった。
耳につけていた通信機から入電の時になるノイズがなる。

ー緊急連絡
ー個性による事故発生
ー近くに待機しているヒーローは出動を求む
ー場所は海岸付近にある森林公園。
「海岸付近の森林公園て……ッ!」
「この先がそうだ!」
徐々に薄れていく糸のずっと先には緑の影が見える。
走る。走る。走る。
寒風に潮の香りが混ざってきて鼓動が速くなる。
通信からの連絡はさらに続く。

ー個性により公園一部区域が氷漬けになった模様
ーそれ以降の破壊活動は報告されておらず。
ーヴィランによる襲撃ではなく、民間人の個性事故と推測される。
ー繰り返す

件の公園はもう目前までに迫っていた。
入り口に到着した際に逃げてきた人達だろうか、数名とすれ違った際に会話の内容をかすかに聞こえてくる。
一瞬で氷が、ホームレスが巻き込まれた、奥の海岸付近あたり。どんどん広がってる。
そして最後に聞こえたのは

「白い髪の女の子」

鼓動が一つ大きくなる。

「轟くん、糸はまだ見える?」
「あぁ、この奥だ」

辛うじてまだ手にある薄い薄氷のようなそれは数度瞬きをすれば消えてしまうだろう。さぁ早くと自分を急かすように真っ直ぐ奥へと伸びている。
本当にこのままいくのがべきなのだろうか、まず逃げ遅れた人がいないか探すのが先ではないのか?だけど、今ここで、凪を見つける事ができなかったら。
足を踏み出せないでいると肩をドンと叩かれた…
「何止まってんだ、さっさと行け!」
「爆豪……。」
「あの軍人の話聞いてなかったのか?今ここでお前の妹捕獲すんのが最優先だろうが!」
耳まで舐めプ野郎かテメェはと舌打ちをした後に俺に背を向けると爆豪は森林の方へと進んでいく。
「被害にあった人の捜索は僕たちに任せて!」
緑谷がもう木々の影に消えていく爆豪の背中を追っていく。二人の行動の意味を理解しありがとうと礼を述べて俺は走り出した。
「取り逃したらブッ殺すぞ!」
「かっちゃん!」
緑谷達の声を背中に受けて奥へと進む。

歩くにつれてに吐く息が白くなるように感じる。
踏み込んでいくごとに周りの木々や植物が白く染まっていき、地面を薄く霜が張っていおり踏むたびにピシ、パシっと音を鳴らす。
そうして進んでいった人の気配がない白い森の奥には海が広がっていた。
太陽はまだ空上っている時間だが、雲で隠れてしまている為か海面は黒い。白い景色の中でその色は一層に濃く深く見え周りはそれ以外の色はない。
人の姿がないか周囲を見回すと一匹の蝶が目の前を横切る。
「アサギマダラ……。」
越冬に遅れたのだろうか、黒白の中をただひたすたに舞う浅葱色に目を奪われて。右へ左へ揺れながらゆっくりと宙を舞うそれを追って息が止まった。
何故ならそこには人がいたから。真冬の季節だというのに薄い病院着のようなものしか身に纏っていないその人は護岸柵の前で海を見ているのかこちらに背を向けており、自分に気が付いてはいない。冷たい潮風がその人の白く長い髪は揺らしている。
糸はもう俺の手にはなかった。
だけど、うん。
きっとそうだ。
この人がそうだ。
一歩、一歩と吸い寄せられるように足を進める。
声をかけようにも言葉が出てこない。
会いたいと思っていた。
ずっとずっと会いたかった。
話したいことがたくさんあった。
それなのに今は何も出てこない。
残り数歩といった距離まで近づいて足を止める。
ようやく俺の存在に気がついたのか、その人物はゆっくりとこちらを振り返った。

「あっ……。」

俺は凪の笑った顔が好きだった。
アイツの目は何時もキラキラしていて。
笑った時、一段と綺麗に輝いているようで、神様がこっそり宝石で作ったんだって本気で思ってた。

「凪……だよな?」

目の間にいるその人は、何も言わずに人形のように無機質な瞳で俺をただ見ていた。

もう一度だけ凪の笑顔が見たいそうずっと思ってたんだ。