×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -





全部持っていた女の子





ー許されぬ許されぬ。
ーその罪は許されぬ。
ー贖罪を。
ー己が身に流れる血が産んだ罪への償いを。
ーあの獣を救ってしまった先祖の罪を。

ーその背に背負って歩んでいけ。


きっとそれは、親切心だったのだろう。
その行動が、後の世の厄災になるなんてこと誰が予想したであろうか。
我一族の先祖にいたある娘。
その娘は神を信じていた。
毎日の祈りを欠かさず、日々の暮らしの中でも神への感謝を忘れない。村一番の信仰深く献身的な信者であった。だからこそ、娘は清く正しく生きていた。
人に、そして何よりも自らが信仰している神に恥じない生き方をただひたすらに歩んでいた。
そして、何の因果か。
それとも神の思し召しなのか。
娘はソレを見つけた。
出会ってしまった。
ただそこにいるソレ。
生きているのかも、死んでいるのかも分からない。
ただ命をすすっていたソレを娘は見つけてしまった。
見てしまった。
「まぁ、貴方はだれ?」
何を思ったか娘はソレに手を差し伸べた。
「こんな暗いところで何をしているの?」
彼女にはそれ以外の選択が浮かばなかった。
全ての物を愛しなさい。
全ての命を慈しみなさい。
そう娘は教えられてきた。
だから知らなかった。
「私を呼んでいたのは貴方?」
「YaAaaatooO kI TATAaaaa」
この世には奈落がある事を。
深淵の底のようにどす黒い悪がある事を。
「hARaahetTa」
「どうしたの?お腹が空いているの?」
「kuwasEroO」
「私、林檎を持っているの貴方にあげるわね」
「oRE,WataSI,kuiTAAInoWa」
「え…」

「oMあEda」

もしかしたら、最初から呼ばれていたのかもしれない。
誰よりも神を愛していた娘。
誰よりも加護を賜る事ができていたかもしれない娘。
その命はきっと、他の何よりも、誰よりも。
ソレにとっては馳走で、喉から手が出る物だったのかもしれない。

あの娘が神を信仰していなければ。
あの娘が見つけていなければ。
あの娘が手を差し出さなければ。
あの厄災は、ケダモノは、

仄暗い地下から出てくることはなかったのかもしれない。

ー贖罪を。
ーこの罪の贖罪を。
ーだからこそ私は歩きます。
ーあの獣を見つけた先祖の罪を背負って
ー数多の命を背負って歩きます。



呼んでいる。チルドレンが呼んでいる。
凪はゆっくりと閉じられていた瞼を開けた。長い時間光を浴びていなかった瞳を慣らすように数回瞬かせる。彼女は乱雑に積まれたガラクタの山の中にいた。
底冷えする気温から凪を守るためにかけられていたボロボロの毛布を取り払う。立ち上がりガラクタの中を進んでいき凪は外に出た。
寒風が吹き、敷き詰めるように地面を覆っている落ち葉をさらっていく。
薄い病院着のようなものしか身につけていないのにもかかわらず凪は寒いとも暑いとも感じなかった。それを不思議だとも思わずに凪は寒風に髪を揺らされながらただ空を見ていた。
厚い灰色の雲がそこにあり、太陽は居ない。
「IかNaいtお」
呼ばれている方へ、自分を呼ぶ音の方へと向かうべく彼女は歩き出した。
しかし、数歩歩いた後にそれは止められてしまう。振り返るとボロボロの服装した老婆が自分の腕を掴んでいた。
「どこへ行くんだい?駄目だよ!外は危ないよ!お家に帰ろう!」
■■■■と一緒にいようねと老婆の細く骨張った手からは想像もできないくらいに強い力で凪の腕を離すまいと握っている。
「……。」
「お願いだよ!お願いだよ!もう■■■■を置いていかないでおくれ!」
泣きじゃくるように自分の腕に縋り付く老婆を凪はただ見つめ、悲痛に叫ぶ声を聞いて彼女はただ邪魔だなと思った。
自分はいかなけらばならない所があるのに。この声の所にいかなければと脳が欲求しているのに。どうしてコレは邪魔をするのだろう。
老婆の声を聞きつけたのか二人の周りに人の気配が集まってきた。何やら遠巻きに観察して事の次第を伺っているようだ。
「ねぇ?いい子だから一緒にお家に帰ろうね!?」
邪魔だと思った。
コレは障害物なんだと脳が結論を出した。
「■■■■が守ってあげるからね」
早く速くはやくハヤク行かないと。
あの声の、音のところへ逝かないと。だからコレは退かさないと。
「……tい、gあU」
ピキパシと周りが霜が落ちる。
辺りの空気が白さを増す。
「……え?」
それにお前は
「■■■■jNあい」

次の瞬間世界は白く塗り替えられた。

「愛nI iKあナいTお」


チルドレンが呼んでいる。




自分の祖先を食べたからアレはこうなってしまった。それは彼女がここに来た一番の理由なのだろう。
頬に伝う血を乱暴に拭ったソアレさんは個性の使いすぎの為かふらついており側近の人に支えられている。彼女の右手は何かを離さないかのように決して緩むことはない。
その手にきっと彼女の言う「縁の糸」があるのだろう。呼吸が落ち着いてきた轟くんが「それが糸…」とソアレさんの手を見てつぶやいた。
「轟くん見えるの!?」
「なんかわかんねぇけど黒い糸が見えてる…緑谷達には見えねぇのか?」
彼の言う黒い糸はいくら目をこらしても僕には見えることがない。かっちゃんの方へ視線を送ると同じようだったようで軽く舌打ちで返された。エンデヴァーさんも同じようで軽く首を振っており。おそらく轟くんだけが見えている。
「私が個性で長く彼の記憶を見ていたからなのでしょう、その影響だと……。」
少しすればすぐに消えるはずですだと続けたソアレさんは自分の手を見つめながら深く息を吐く。少し落ち着いた様子の彼女にエンデヴァーさんがそれでと轟くんの記憶を見た結果の報告を求めた。見る限り彼女の欲していたものは手に入ったようだ。
「おそらくアレはこの区画の近くにいます。」
「え、そんなに近く!?」
「ならさっさとぶっ捕まえに行くぞ」
立ち上がる僕らを彼女が止めた。
「何も考えずに向かって討伐できるほど、あれは単純ではない。」
我々が所有する兵器を使いますと部下に視線を送る。それに頷くと数名が慌ただしく部屋を出て行った。
「兵器とは?」
「アレを討伐するために作り上げた対兵器です。名をドボル『撃ち落とす者』」
「撃ち落とす者?」
「アレは酷く狡猾で賢く、そして何より己に向けられる殺意は酷く敏感です」
アレの討伐にはその心臓と呼ぶべき核を壊すことですが、その射程に入る前に身を隠してしまう。そうやって今まで生き延びてきたのだ。
だから、アレが殺意を感知する距離の外からの攻撃をするのだという。
「遥か空の上。宇宙との境ギリギリから攻撃を仕掛けます」
おそらくチャンスは一度、だからこそ慎重に事に及ばなければならないと続ける。
「ドボルを先程この区画上空に呼ぶように手配をしました。数時間後には使用可能になるはすです。」
「そんなにかかるんですか」
「高エネルギーを弾にする為に、その補充に時間はどうしてもかかってしまうんです」
コレでも数年前よりも短縮には成功しているというが。その間にそんな化け物がここのあたりで息を潜めて人々を危険に晒しているのではと思うと歯痒く感じてしまう。
「この区画は貴方が担当しているそうですね。しばしの間我々の活動を許してはくれませんか?」
「断る理由はないだが……。その討伐には我々も参加する。自分の担当地区のヴィランを他者に任せっきりにするわけには行かない」
それが許可をする代わりの対価だというかのようにエンデヴァーさんは腕を組んだ。ソアレさんはそこで初めて口籠ったように言葉を詰まらせる。「コレは伝えるべきではないと思ったのですが」彼女はエンデヴァーさんをそして轟くんを見てゆっくりと選ぶように言葉を吐いた。「焦凍君の記憶を見て確信しました。エンデヴァー、あなたの娘は生きています。」
「なっ……」
「その襲撃事件で体の一部が見つかってますよね?おそらく手や、足といった体の末端に属する部分のものが」
「手の指だ……何故わかる」
「アレのやり方です、大きな嘘を隠すために真実に近い嘘を忍ばせる」
その指はおそらくアレが作ったであろう本物に限りなく近い『娘さんのDNAで作った模造品』。鑑定に出してもそれは本物と同じような結果を出す。しかし、精密に作れるのは末端の部分だけ五体満足の模造品は作れない。
「それでも、効果は絶大であるのは、身をもって知っているでしょう?10年前の災害はおそらく、材料確保のためにアレが起こしたこと。一番の目的は、十中八九で」
「娘だというのか」
「えぇ、私の目にはアレのとは別に他の糸も見えています。何がなんでも離さないというかのように絡みつかれた糸が」
衝撃な事実と情報量に脳が熱を持ったように熱いような感覚と身の毛が立つのを感じる。あの惨劇は一人の人物のためにだけに起こされたというのならば。なんて酷くて残忍な所業なのだろう。
「どうして」
妹さんが生きているそう告げた彼女の言葉を聞いて轟くんが言えたのはそれだけだった。
どうして、妹だったのか。
どうして、そんな奴に目をつけられたのか。
どうして、なんで。
そうこめられた言葉に答えられるのはソアレさんの他にはいない。
「運が悪かったとしか言えない」
「たったそれだけか!?それだけの理由で凪が……っ!」
「妹さんは、幼くて、賢くて。そして何よりも強い氷結の個性を持っていた」
アレが求めるものを偶々全部持っていた。
そしてアレが潜む場所に偶々行ってしまった。
全てが偶然のような運命のような出来事の結果。

たったそれだけの事だった。

あまりにも無情なそんな事。認めたくなんかなかった