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轟焦凍の決別





神様を信じていた事がある。

「「神さま、おねがいします」」
始めて祈ったは四歳の頃。
お菓子の懸賞品が当たるようにと二人で祈った。
「オールマイトの人形があたりますように」
「あたりますように」
後日家に届いた物を見て本当に神さまは居るのだと喜んでいた。

神様を信じたいと思った事がある。

「おねがいします……」
次に祈った時は一人だった。
静かにじっと祈っていた。
「おねがいします……神様」
「僕に……返してください」
毎日毎日願って理解した事があった。


この世界に神様は居ないのだと。




「轟くん」
横にいる緑谷に呼ばれてそちらを見るとどこか心配そうな眼差しで自分を見ていた。どうやら数度に亘り呼ばれていたらしい。
「悪い、気がつかなかった」
「ううん、大した事じゃないんだ。昨日あの後お兄さん大丈夫だったのかなって」
「今朝、姉さんからラインがきてた。元気に朝飯を食べて学校に行ったらしい」
「そっか、ならよかった」
兄がヴィランに襲われた。親父に恨みを持つそいつの人質に取られていたのインターンに来ていた自分と緑谷そして爆豪の3人で確保、救出をしたのは昨夜の出来事である。
毎日戦闘訓練を受けている自分たちとは違い一般人が事件に巻き込まれればその後トラウマになってしまい、日常生活に支障をきたす場合もある。緑谷が心配しているのその事なのだろう。
「変に気使わせたな。ごめん」
「謝らないでよ、轟くんがちょっと元気なさそうに見えたから何かあったのかなって思っちゃったんだ……」
こちらこそなんかごめんねと居心地悪そうに緑谷は頬をかいている。常々彼の観察力はすごいと思っていたがこうも見抜かれているとなんだか背中がムズムズとしてしまう。
「考え事をしてた。」
「考え事?」
「あの後、夏兄と親父と3人で少し話をしたんだ。」

ー凪の事件についてー

捕物劇の後の事。諸々の手配を警察に任せている時に自分と兄は親父に呼ばれた。怪我の有無などはさっき確認されたばかりで他に何かあるのかと兄と首を捻る。
「家を変えようと思う」
「「は?」」
「今回のような事が今後もないとも限らない。お前達の交通の便を考えた場所に新しく家を建てるつもりだ。そこで冷を、お母さんを迎えてあげてほしい」
家族のことなんて考えたことがないような父親からの提案。家族を思っての最善を考えた末の決断にわかったと返答をすると夏兄は少しおどろしていた。
「焦凍!?」
「反対する理由は俺にはないから」
夏兄はどうだと隣を見た。兄はむず痒そうな、歯に何か挟まったようなそんな顔をしながら俺もないと言葉をこぼす。多分親父の提案だったからすぐに承諾ができなかったのだろう。これで話は終わりだろうと背を向ける夏兄を親父が引き止めた。
「何まだなんかあるわけ?」
「もう一つお前達に言って置かなければならない事がある……あの子の、凪の事件についてだ」

俺はまたあの事件を追っている。

自分たちの周りから音が消えたような気がした。急に脳が考えることを放棄したようにその言葉の意味がすぐに理解できない。
「はっ……何言ってんだよ。あれから何年立ってると思ってんの?今更何を見つけようとしてんだよ。今探しても凪は帰ってこないんだよ。だってあの日に」
凪は死んだだろう。先に我に帰った兄の言葉が周りの喧騒に消えていく。
「忘れたのかよ!瓦礫の下で見つかった指の事!あれしか見つからなかった!DNA鑑定もしただろ!」
「忘れる訳がない」
「ならなんでそんな寝言を焦凍の前で言えるんだよ。わかりきってる事だろ凪はもう……この世に居ないって」
妹はもうどこにも居ない、もう会えない、こんな事は夢であって欲しいと何度も思っていた。何度も願っていた。
「これは、理屈じゃない……ただ俺の、ヒーローをやって来た経験が言っている。」
あの事件はまだ終わっていない。だから俺は諦めない。
そう続ける親父の言葉に夏兄も何も言えなくなっていた。生半可な気持ちで親父がヒーローをしているわけではない事を知っている。だからこそ、凪の事を諦めていないと言う言葉が本気なのだと言う事がわかってしまう。
「焦凍お前はどうする?」
親父が真っ直ぐに俺の目を見ていた。
「えっ……」
「赫灼の習得がインターンの目標だそれを変えさせるつもりはない。だが、事務所には雄英にはない過去に起きた様々な事件記録を残している。だから」
「だから……?」
「焦凍、お前の意思で決めろ」

ー凪【過去】を拾いにいくかをー



「エンデヴァーは妹さんの事をまだ調べていたんだ」
「あいつが言うにはまだ終わっていないらしい。」
根拠はないただの勘といっても良いくらいの物。
だけど否定する程の軽い物ではない、どんな理屈をこねられるよりも納得してしまうその理由に自分はついて行くこうと決めたのだ。
「だから俺も調べる事にした。今まで通りにインターンはこなす。空いている時間に凪を探したいと思ってる」
「轟くん」
「正直あの事件から俺はずっと逃げてたんだ……詳細を見て凪がどんな酷い目にあったのか知りたくなかった。」
片割れがどれほどの恐怖と苦痛を味わったのかを理解したくなかった。己の無力さをこれ以上知りたくなかった。そんな自分勝手な理由で逃げてきた。
けれど、もう逃げ続けていた弱虫の自分とは決別しなければならない。誰かを救えるヒーローになるために。

ー泣くなよ、しょうとー
ー泣いてないもん。ぼく、凪のお兄ちゃんだもんー

妹に恥じないような兄になるために。
目を逸らしてきたあの事件【過去】と向き合いに行こうそう決めた。

ーおねがいします……神さまー

窓辺で祈る行為はもうしない。

ーどうか、僕に凪を返して下さいー

だってもう神様は居ないという事を知っているから。

「俺は俺の手で凪【置いてきた過去】を拾いに行く」


サヨウナラ泣き虫の僕