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溶けて融けて解けて見えた先





本部からMへ
本日付で貴殿をチームδへの赴任を任命する。
チームδは作戦名【V】を遂行する上で、最も危険な部隊となる心としてかかるように。
祖国に陽が昇る事を胸に

〈Mから本部へ〉
了解した。
祖国の為、任務遂行に尽力する
祖国に陽が昇る事を胸に

本部からMへ
任務開始は三日後、現地にて他のチームδの隊員と合流するように。検討を祈る。
祖国に陽が昇る事を胸に

〈Mから本部へ〉
作戦開始から五日、無事に目的の場所に潜入を果たす。チーム全員が目標を視認に成功。今のところ警戒されている様子はない。
二日後また連絡をする。
祖国に陽が昇る事を胸に

本部からMへ
チームδ全員の生存確認を完了。司令官Sから君たちに伝言がある。
目標Vの言葉を聞きすぎてはいけない。
以上。
二日後の連絡を待つ
祖国に陽が昇る事を胸に

(Mから本部へ)
Vのアレは予想よりも早く進んでいる。早急に作戦開始を求む。
祖国に陽が昇る事を胸に

本部からMへ
了解した、しかしドボルの準備は完了していない。あと二週間はかかる。
祖国に陽が昇る事を胸に

(Mから本部へ)
隊員H、Aとの連絡が取れない。

本部からMへ
残りの隊員で任務遂行するように、生存確認は此方でする。
あと十日でドボルは完了する。
祖国に陽が昇る事を胸に

本部からMへ
隊員M定期連絡を求む
ドボルの準備完了まで残り七日。

〈Mから本部へ〉
R以外の仲間がいない。

本部からMへ
至急現状報告を求む

本部からMへ
M、どうなっている

本部からMへ
M、応答をしてくれ

〈Mから本部へ〉
Vノ声、がアタマにコビリついて…いr
アの人はと、ても…素晴らしい


【本部から総司令官Sへ】
作戦V遂行チームδ全員との連絡が途絶える。
目標Vは拠点を変えた模様。未だ所在は掴めず。
作戦Vの事実的失敗を報告する。

【総司令官Sから全部隊へ】
ドボルの準備は完了。
我々は必ずあれを撃ち落とす。
目標Vを発見次第、作戦は再び開始する。

祖国に陽が昇る事を胸に。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

この研究所には幾つかの規律がある。

一つ、出口の扉は無断で開けてはならない。
一つ、研究員は許可無く外部との連絡をしない。
一つ、研究員同士はAからZのアルファベットで呼ぶ事。

一つ、研究員はワラキアの同伴以外で研究対象【マザー】に接触してはならない。

規律を破ったものは一切の温情が無くそのまま廃棄となる。男は廃棄となった者達を何人も見送ってきた。馬鹿な者、愚かな物と心の中で笑いその処分を担うこともあった。彼がこれまでに廃棄したのは全部で7人。男が5人、女2人をその手で廃棄しており、男はその事に何も感じることはなく。それ所かワラキアの研究の邪魔をした彼らに怒りを持ったくらいだった。
そうして10年の時を過ごしていた男は今は研究施設の古株の属しており、ワラキアの信頼をもらう程にまでになっていた。

「私はこれから死柄木弔と会ってきます。凪の様子は貴方に任せました。アレの処置は全て済んでいますがまだ不安定のようです。」
「かしこまりました。お気をつけて」
「何かあれば、すぐに連絡を。頼みましたよM」

黒いコートを羽織ったワラキアを見送ると男、Mは踵を返して廊下を戻る。目的の部屋には数多くの電子画面がありそれら全てが一つの生命体の情報をあらゆる視点から観測していた。
Mは一番大きい画面の前に立ってその電子版に並ぶ文字列を読み上げる。
「マザーブレイン、固体名『凪』」
この施設で名前があるのはたった二人。
一人は研究長のワラキア。そしてもう一人がこの凪と呼ばれる研究対象だ。此処では名前を持つことは規律違反とされるほどに重要な物と扱われている。名前を持つことをゆるされている凪はそれだけ特別な存在と言うことだ。
「相も変わらず、泣いたままか」
観察用につけられたカメラからMのいる部屋の画面に今の凪の様子を送信されており。部屋の隅でしくしくと泣いている様子が送られてきている。




この状態になったのは三日前からだ。
数ヶ月前と見た物と同じに様子にこれでは前に戻っただけなのでは危惧していたMを横にワラキアは満足そうに微笑んでいた。
「漸く、凪は私の求めるものになったわ」
「つまり、完成したということですか」
「えぇ、自己確立を最低限に収めたまま。脳の活動率が最高水準を確したまま覚醒を続けている。マザーブレインとして最高の状態よ」
「では漸くチルドレンとの接続に移れるのですね」
「でもその前に片付けて起きたいことが幾つかあるの。用無しの物達との縁を切らなくちゃ。」
それが一番面倒くさいのよねとワラキアはハァとため息をついた。しかしその毒々しいほどに赤く塗られた唇は弧を描いたままである。実際のところはそんなに手間とも思ってはいないのだろう。
「此処の場所は彼らに知られている訳でもないのでこのままでもいいのでは無いのでしょうか?」
研究施設はこちら側が招かなければ決して辿り着けることができない。何故ならこの施設は絶えず海底を泳ぎ続けている。太陽を嫌う彼女に取って光も届かない海底こそが安住の地であった。外に出る時には出口の扉である転送機能で座標を表示させて無理やり地上の扉に繋げる形をとっている。
Mの発言にワラキアはポケットから携帯を取り出して首を振った。
「だめよ、ちゃんとお礼は伝えないと。他人に感謝して生きるのが長生きのコツなのよ。…でも今はちょっと忙しいそうだけどね」
彼女の持つ携帯の画面にはメッセージが開かれている。

『貴方のおかげで義燗を捕獲することができました。
情報提供感謝いたします。 
                    四ツ橋主税』

「客を売る売人はいないけど、売人を売る客は…いるのごめんなさいね。貴方のおかげでとっても研究が進んだわ」
ありがとう。
中身のなんてないそんな言葉とともに、ワラキアはある男の連絡先をためらう事なく削除して携帯をしまう。
「このまま、残りの人達もうまく消えてくれたら嬉しいのだけど難しいでしょう。近々私から接触してきます。」
「あまり無理はせずに」
「本当、老体は労ってほしいわ、最近の若者はしぶとくて嫌になっちゃう。この子然り…あの男然り。いつまでも本物に敵わないオニイチャンに縋り付いて」
本当に面倒な人間。
オニイチャン。
それはマザーブレイン;凪にとては無くてはならない物だった。記憶を消して、自我を消しても彼女の脳から消えることがなかった。たった一つの名称。
オニイチャン。

ーノイズー

Mは凪の紡ぐその音を彼女の口から聞くよりも前から聞いていたように思えた。だがそれはどこで?
オニイチャンッ…ヤメ…テ
ーノイズー

「M?どうかした?」
思考が止まっていたのか、ワラキアの呼びかけにMは我に返る。今脳内で掠めた光景はいったい何だったのだろうか、だがそれを彼女にいうのはどうしてもダメだと本能が告げてきている。
何もと首を振るとMは業務に戻りますね取り繕うのだった。映像には凪がか細くその目から涙をこぼし続けていた。だがその口からは以前のようにオニイチャンを求める言葉が出ることはない。



Mの指に連動して、電子版は表示を変えていく。
凪の現状を箇条書きでまとめたメモの画面で、彼の指は止まった。観察記録の一部として保存されていた物だった。

『覚醒を始めて72時間経過。
脳波異常なし。
泣くという感情行動未だ止む気配なし。
以前のようにオニイチャンと呼ぶ様子は見られていない。
自己確立も未だ上がる兆しはない。
時折、何かを探すような動作が見られる。
一時間に一度自分の瞼を撫でる様子を観測。
オニイチャンにされていた動作の名残りの記憶と予想。
後日消去を推奨。』
オニイチャン。
そこに書かれている言葉は三日前からMの中で違和感として存在しているものと同じもの。
自分はそれを聞いていた。その言葉を聞いていた気がする。ずっと前に、自分はこの言葉を。

ーノイズー
ニイサン…オニイチャン…オモイダシテ
ーノイズー

誰かに言われていた。
そんな筈はないここで自分はそんな名称を与えられていない。だからそんな言葉をもらう筈はないのだ。いや、待て。
自分はいつからこの研究施設にいただろうか?

ーノイズー

いつから?10年前、日本に拠点を移す時には此処にいた。それより前からだろうか。自分は確かに此処に望んで足を運んだはず。その目的はと思い出そうとすると霞がかかったように脳が思考を止めてしまう。私は俺は、ワラキアの研究のどこに惹かれたのだ?

ーノイズー

居ても立っても居られずにMは部屋を右往左往と彷徨う。次第に頭に流れる砂嵐と耳鳴りとも取れるノイズは大きくなっていた。自分に何が起きているのかわからず彼はデスクに倒れ込む。その拍子に置いてあったタブレットの一つが床に落ちて画面にヒビが入ってしまった。それを拾い上げるために伸ばしたMの手がタブレットの画面に触れる。タブレットはスリープしていたようでその拍子にパッと液晶に光が灯った。
「…ッ!」
映し出されたものにMは息を呑む。
そこにあったのは絵だ。
子供がクレヨンで書かいたような稚拙なそれは、赤と橙で書かれた大きな丸。
以前凪が一心不乱に書いていたもの。
それを見たワラキアの顔が曇ったのをMはよく覚えていた。
憎々しそうにそれを見て彼女はこう口にしていた。
「太陽」

ーノイズー
ニイサン、二人でゼッタイにセイコウサセヨウ
ーノイズー

誰かにそう言われ、Mは頷いた。そして何かを口ずさんだ。
その者と一緒に。
ーノイズー
アレは…そうだ
ーノイズー
ソコクに……ガのぼ…る
ーノイズー
「ソコクにヒがノボるコトをムネに」

その瞬間脳内に嵐が吹き荒れる。砂嵐の中に流れるのは夥しいほどの記憶の断片。それは夢でもない、幻想でもない。男が体験してきた確かな記憶の断片達だった。そうだ自分は、自分たちは太陽を胸に此処にきた。仲間達と共に、此処の研究を阻止するために。
ワラキアの殲滅を胸に此処にきた。
自分はMチームδのコードネームだった。
本名はミルセア。
仲間が徐々に消えていく中、最後まで残ったRと共に作戦を遂行していた。そこからの記憶がどうしても思い出せない。
Rはロクサーナは妹だ。
妹は今どこにいる?それよりもまずは本部との連絡を取らなければ。
M、ミルセアは震える足に鞭を打ち立ち上がり首の裏を叩く。
彼の個性は通信。
自分が作成したアンテナが置いてある場所にメッセージを送ることができる。その対になるアンテナを持っていれば受信も可能なのだが、今彼の手にはない。
ミルセアは届いている事を信じてメッセージを本部へと数度に渡って送り終えると迷わずに凪がいる部屋へと向かった。

彼女は無機質な部屋の隅でうずくまっており、ミルセアに気がつくことはない。
「キ…キコえますか?ワカリマスか?」
まだ脳内の嵐は止んでおらず言葉が震えている。その不協和音に凪は顔を上げた。その目に以前のような光はなく。
あぁワラキアに弄られたのだと思った。
きっと自分よりも酷く記憶を、脳に手をつけられてしまったのだろう。

「オニ■■ャ■に…アイたい。デスカ?」
不鮮明なザラザラとした旋律に凪の脳を震わせた。彼女は数日ぶりに思考を働かせる
「a、アiたイ」
■■■■■にアイタイ。
「ココカラ。デマしョう。イソイデ私のノウガセイジョウうごいているうちに」
凪の手を握るとミルセアは部屋の外を出る。
廊下にもどこにも他の研究員の気配はなく今が脱出の機会だと出口へと歩を進めた。
辿り着いた扉は固く閉ざされており、その横には重厚な機械が備え付けられいる。
それがこの扉を開く操作パネルであった。
「スコシ、待ってte」
ミルセアはパネルを起動させると。そこには座標を指定する画面とパスワードの入力画面が現れた。どこが一番安全な場所につながるのか街中につながればその情報量に今の凪の脳にどれ位のダメージがいくか想像ができない。
考えた末にミルセアがある数字を入力した。数秒後、ピーという電子音と共に扉の施錠が外される。
「サァイってクダさい。ワタシは少しサガシモノヲしてからイキマス。ソトにでタラヒーろー、ケイサツに助けをモトメテソウスレバ」
■■■■■に会エますヨ。
ミルセアに優しく背中を押された凪はおぼつかない足取りで扉をくぐり抜ける。その小さな背見つめながら彼は扉を閉じた。
閉まる瞬間に凪が彼の方を振り返る
「あriガとu」
お礼なんて言われる資格はない。自分は10年君を苦しめ続けてきたのだから。




行けどもいけども、人の気配はない。
あるのは無機質な機械と発行する青白い照明。
「ろ、ロクサーな。ドコダ?」
どこにいるんだと自分の家族を探し続ける彼の耳にカツンというヒールの音が聞こえた。この施設でヒールを履くものは一人しかいない。
アレが、帰ってきた。
此処に戻ってきた。
振り返った廊下の先に女がいた。
「あらあら?少し居なかっただけで随分と様子が変わった見たいだけど何をしたのかしらM?」
ツカツカとミルセアに近づいたワラキアは彼の髪を掴むと顔を間近に寄せる。
「お前、とんでもない事してくれたな。」
「はは…ヨクワカッタナ」
「あれが、荼毘が教えてくれたよ、妹に何をしたってな?。凪から連絡がきたそうだ」
なるほど彼女はそちらに助けを求めたのか、あの女子高生の連絡先を記憶していたのだろう。
「オレが此処にキたのは、オマエのケンキュウを阻止スルタメだった。だからトウゼンノ事をした。」
「なんだ記憶戻ったのか面白い事例だ。だが、あれが完成した今はどうでもいい。」
「ソウカ残念だよ。オマエに一つキキタイ。」

オレのいもうとをどこにやった?

その瞬間、暗い廊下にワラキアの笑い声が響く。
それは実に愉快そうに楽しそうに、そして目の前の相手を嘲笑うかのように高く響き渡る。

「そうかそうか、オマエは全部覚えてないのかならこの10年の功労者として教えてあげようよく聞けM。
否ミルセア・セルトラダート」

お前は随分と私の補助をしてくれた。
助手から、記録、観察そして、規律違反者の廃棄処分。
確か7人処分したな。
最高記録だよ。
カザック・ダルカ
ピーター・ボグダン
ケイム・フィッシャー
トム・ジョンスター
ハイン・ガムシュー
エラ・アルベスク
そして

「ロクサーナ・セルトラダート」
もうお気づきだね?お前が消した。
規律違反者として。
共にきた仲間たちも愛する妹も全部お前が
廃棄した。

ーノイズー
ーノイズー
ーノイズー
オニイチャン…っ!やめて!思い出してっ!
ーノイズー
ーノイズー
ーノイズー

そうか、あれは。
あの言葉は
妹の最後の言葉か。

あは、アハッハはっっっっはっっっははh
おれg、ワタシ、があぁはあk消した消したのか。
あはは座はホアはっはははっははっははははh

「お前も今からそこにいくよ、よかったな、大好きな妹にようやく会えるな」

思考が消えていく。
視界が掠れていく。
暗い海の底で。
太陽も刺さないここで。自分は
消えていく。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(Mから本部へ)
聞こえますか、キコえてますか?
お願いです。誰か聞いてください。
届いてください。
あれは完成しました。
マザーは完成してしまいました。
チルドレンとの接続に移ってしまいます。
私はもうきっともう消えます。溶けて狂って消えてしまいます。
だからどうか、
誰か、助けてあげてください。
Vはいます。

極東の国、日本にいます。

最後にロクサーナ。
あい
して、いるよ。


重い扉を開けた先に見えたの
「うmi」
寒くて黒い夜の海だった