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その子の瞳とても綺麗な
翡翠色をしていたんだ。





轟炎司は何時だって自分の選択を後悔したことはなかった。
どんなに非難されようと、一度決めた事は最後まで貫きとおすのがこの男の性分だ。
例え、妻に止められようとも。
例え、息子に恨まれようとも。
それが己の求める物に近づけるのならとその声を聞くことなく彼は今まで歩いてきた。
今も選んできた選択に後悔はした事はない。

【お父さん】

否…訂正しよう。
一度だけ、そうただ一度。
轟炎司は己の決めた選択が本当に正しかったのだと言い切れない事があった。


*

「残念だけど僕には君の望む答えは返すことができないな」
幾重にも重ねられ、後ろから頭部を狙われながら男はごめんねと軽く言葉を返す。それは心からの物でないなんて事は赤子でもわかるもので、エンデヴァーの苛立ちに拍車をかける物だった。
そんな言葉を聞くために自分は膨大な手続きや書類と戦ったのではない。そう喉元まで来ていた言葉を飲み込みエンデヴァーはもう一度防弾ガラス越しに居る男、AFOを見据えた。
「あのテロ事件に関与していない?嘘も休み休み言ってもらいたい」
「僕だって嘘は嫌いだよ。だから正直に答えている。僕はあの事件を計画していない。」
僕はその目的も知らない。ゆっくりと子供に言い聞かせるようにはっきりとAFOは微笑みを浮かべる。
あろうことか自分からも質問をして良いかと吹っ掛けてきたのだ。付き添いでいた刑事がもう辞めておこう。奴に遊ばれているだけだとエンデヴァーに耳打ちをする。
エンデヴァーはその助言を聞かずに彼に質問を許した。彼はどんな些細な手がかりでも欲しかったのだ。

「エンデヴァー…トロッコ問題て知ってるかい?」
「何が言いたい」
「知らないのかい?結構有名な奴なんだけどさ
線路を走っていたトロッコの制御が不能になった。このままでは前方で作業中だった5人が猛スピードのトロッコに避ける間もなく轢き殺されてしまう。この時たまたま君は線路の分岐器のすぐ側にいた。君がトロッコの進路を切り替えれば5人は確実に助かる。しかしその別路線でもB氏が1人で作業しており、5人の代わりにB氏がトロッコに轢かれて確実に死ぬ。さぁ君はトロッコを別路線に切り替えるかい?」
「それを聞いて何の意味がある。」
「嫌だなぁ、ちょっとした好奇心だよ…。」
まるでお茶会をしているようにAFOは楽しそうに笑いを漏らす。
ケラケラケタケタ耳障りなそれはすぐに収まり、AFOはないはずの目で射貫くようにエンデヴァーを捕えた。

「だって君はあの日に似たような選択をしたんだろ?」

*

あの日エンデヴァー、轟炎司は一つの選択していた。
一つ目は、離れたところで起きているテロ活動の鎮圧に向かう
一つ目は、近くの大病院の災害救助に向かう

二つ同時に起きている事件に対して自分の身体は一つ。彼の判断は早かった。
今もなヴィランが活動している現場へ向かったのだ。
病院には娘の凪がいる事はサイドキックに判断を迫れらた際に一緒に伝えられ初めて知ったのだが、それをふまえた上で彼は病院を選ばなかった。
それは何故か?
己が向かっている現場は今もなおテロ活動が続いているためこれからさらに多くの死者が出ると推測したためである。
夜の帳を駆けるていると煙が至る所で上がり。きな臭いが轟炎司の鼻に入り込んでくる。
眉間の皺をさらに深くし足を速めていると視界の端に例の大病院が見えた。
建物からも黒い煙が見え所々の窓から普段見えないはずの赤い色がチラチラと瞬いている。
その光景は後ろをついてくるサイドキックも見たようだ。本当に良いんですか?と言いたげに彼のヒーロー名を呼んだ。
しかし、轟炎司が振り返る事も無くまっすぐに前を走る。
「あそこには他のヒーローが向かっていると通信が入った。余計な事は考えるな、今やるべき正しい選択をしろ」


轟炎司は何時だって自分の選択を後悔したことはなかった。
この時も正しい選択をしたと信じていた。

『轟凪さんのご遺体と思われる物が発見されました。』

一度だけ、そうただ一度。
轟炎司は己の決めた選択が本当に正しかったかと後悔した事があった。

*


「後学のために教えてほしいな。自分の娘の命よりも、大勢の赤の他人の命を選んだその心境ってどんな気分?」
「貴様…ッ!」

「見つかったの【右の小指】だけだったんだってね?」

部屋に怒号が響く。
椅子がなぎ倒され、部屋の温度が体から出る炎によって急激に上がる。
防弾ガラスへと向けた拳が届く前にエンデヴァーは傍にいた刑事に羽交い締めされてしまう。

「お前!!何故!!!見つかったのが右の小指と知っている!!!」
「あ、公になってなかったんだっけ?うっかりしてた」

これ以上はまずいと判断され扉が開いて外に待機してた警備員も加わりエンデヴァーは部屋の外へと連れ出されそうになるが。
荒れ狂う獅子のように彼は抵抗しAFOに吼え続けた。
ガラス越しに見える光景を楽しむようにAFOは見つめている。
「君も一応一人の父親何だねぇ、意外だったよ。面白いものが見れたお礼に一つ教えてあげるね」

【ずっと仲良くしている人がいてね、その人最近子供を連れてるんだ。】


*
轟炎司は何時だって自分の選択を後悔したことはなかった。
それが、妻を傷つけることになろうとも。
それが、息子から恨まれることになろうとも。
何時かきっと彼女たちも気が付くと思っていた。
自分の判断が正しかったのだという事に。

否…ただ一度。
轟炎司は己の決めた選択が本当は間違っていたのだと絶望したときがあった。

それは

『轟凪さんのご遺体と思われる物が発見されました。』

手渡されたそれを見た時だ。
DNA鑑定もしたそれは間違いなく己が娘、凪の物だった。

【お前が殺したんだ】
誰かがそう自分に囁いてくる。
周りがそう己を責めてくる。
今もずっとそう自分の耳に呪いのように吹き込んでくる。

違う。

【俺が殺したのだ。】
囁いているのは自分だ。
責めているのは己だ。
今もずっと違う選択をしていればともう一人の自分が、己を焼き殺してくる。

もう間違えてはいけない。
もう判断を誤ってはいけない。