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ある結末のその先







ぶくぶくぶくと海の中を漂うような夢を見た。
冷たくもなく、暖かくもない水の中私はただ流れに身を任せていた。
静かに静かに海の底へと沈んでいくそんな夢だ。
深海の底についたら目が覚める、そしたら何時ものあの天井が見えるはずだ。
結末はわかってる。
だってこれは幾度も幾十も見ているものだから。

あぁもうすぐ、そこにつく。

目を開ける寸前に今まで見たことがなかった光が見えた気がした。


*

凪の頭部につけられた機械からは安定した周波が書き出されている。
ようやく様態が落ちつたようで、ワラキアは一息をついた。
雄英生が強化合宿をしていると言われている場所への動向を許して送り出したのが約二日前。
凪は想像もしていなかった姿で返ってきた。
「強制的に眠らせた」
あんたが渡したやつでな、荼毘はそう言って眠る彼女の前髪を軽く撫でると連合の拠点にしているバーに戻っていった。
彼の話を聞くに凪は片割れを見つけてしまったのだ。
ハッキリとした姿でも、その顔を見たわけでもない、でもその刹那の邂逅は彼女の奥底に響いてしまった。
研究者である自分には俄に信じがたい話であるが、双子というのは昔から科学で証明できない不可思議な事が起こるとされている。
もしかしたら、兄との邂逅が凪のなにかを呼んでしまったのかもしれない。
それは深海にいるクジラがエコーを飛ばすように。
彼らにしかわからない、共鳴が起きたのだとしたら、
それが彼女の記憶、自我を呼び戻すものだとしたら
それは何としてでも対処すべきことだ。
だってそんなことになったら何もかもすべて水の泡だ。
私が捧げてきた那由多もの時間が。
ガリっといつの間にか噛んでいた親指の爪が割れ、少し平静を失っていた事に気が付く。
落ち着かるように一呼吸置く、そして今しがた目を覚ました凪の傍に向かった。
「あなたは何を見てきたの?」
その問いにしばしの間があったあっと彼女はそっと口を開いた。

「わからない」
何を見たのかも誰にあったのかも、わからない。
知らないはずなのに、なのになぜか涙がでた、胸がずきずきした。
なんでかわからなくてすごく怖かった。
頭の奥のすごく隅で誰が私の名前を呼んでいた、顔も姿もわからないのに私はその人に会いたかった。
すごく会いたくてしょうがなかった。
ねぇ、先生、あれは私にとって何だったんだろう。
そう言葉を紡ぐと凪はこちらを不安そうに見つめてくる。
その眼は何かに怯えるように、何か答えを求めるように私を見ていた。
彼女はまだ答えに到達していない、その事にやった心の底から安堵する。
「それはね凪きっと」
ならば軌道修正【塗りつぶす事】は簡単にできる、
「貴方には何の意味もないものよ。」
彼女の手綱はまだ私が握っている。凪の運命は私の手の中なのだ。
自分の返答に彼女は少し驚いたようで少し眼を見開く。
「意味がない?」
「そう、必要のないもの、夢のような」
取るに足らないものだったのよと彼女の頭をそっと撫でた。

貴方はただ夏の夜の夢を見ただけなの。

部屋の隅にあるテレビからは、
世間一般で言う英雄の頭を下げる姿が映し出されていた。

*



世界が変わるのはどんな気分?
続くと思っていた平和が崩れるて行くのを感じた時足が震える感じがしないかった?
でもそれが歴史なの、そうやって人々はこの世を生きてきたの。
自分達には関係のない蚊帳の外の物語じゃなのよ。
私はその光景を見てきた。
何度も何度も、何十年も何百年も、歴史が動く瞬間を、
秩序が崩れていく光景を見てきた。
この光景はいつ見ても、
「心が躍るというのかしら」
高揚感が溢れてくる。
少し年季の入った画面の向こうには、己の研究の賛同者であるAFOと崩壊した神野の町。
そして彼が放った一撃を受け止めた
平和の象徴、人類の味方、オールマイトの
情けない姿【真の姿】がそこにあった。
どちらが有利とはいえない、両方擦り切れてる。
身体が、魂が今にも吹き消えそうな風前の灯火だ。
この戦いが終わるとききっと彼らは終わるだろう。ならば見届けよう、
「顔を上げなさい死柄木弔」
ちゃんとその眼に焼き付けなさい。AFOの個性と黒霧の個性によって転送されてきた先がまさか自分の施設だったとは、聞いていなかった。部屋の壁にもたれ俯く死柄木弔を見る。
「時代が動くようだけど、貴方はそれに身を任せるの?それとも貴方が動かすの?」
そのまま子供の様に蹲っているつもりなのか。
「黙れ、殺すぞ」
彼はふらふらと立ち上がると、一歩、また一歩と画面の方へと近づいて、床に腰を下ろした。

彼の中でも何かが崩壊し、そして何かが生まれたようだ。

その日の夜AFOに会った年のワインを開けた。癖がつよく、飲めたものではなかったが