×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -





混濁の海馬





―守り切れるといいな……また会おうぜ


ドロリと自分の姿を何かは消え失せたそうだ。
作戦の為行動を共にしているトゥワイスから俺の消滅をしらされる。
思っていたより持ちは悪かった。
「もうか弱ぇな俺」
「馬鹿言え!!結論を急ぐなお前は強いさ!この場合はプロがさすがに強かった」
そう考えるべきだ!さっきは雑魚だの弱いだのほざいていた口から、逆の言葉言っている。
どいつもこいつもまともな奴がいねぇ。トゥワイスの言葉を遮りもう一度自分を増やす事を命じる、この作戦にはプロが出て来られてはかなわない。
何にしても足止めは必要な事だ。
「ザコが何度やっても同じだっての!!」
任せろ!!こいつの本心は何処にあるんだか。
ガスと青い炎に包まれる森に眼を移す。これだけ燃えてれば決して寒いとは思わないだろう。だが、目の届くところに居ない事に一抹の懸念が胸の奥に燻る。
―大丈夫―
凪は俺の手をとり。
―ちゃんとお兄ちゃんの所に戻ってくる―
そう答えた、だから何も心配することも何もない。無いはずなのだ。
たとえここに本物【轟焦凍】が居ようとも、凪はこの腕の中に戻ってくる。
ならこの言いようのない懸念は一体どこからくる?

ひらりと場に似つかわしくない蝶が視界の端を横切った。


*
―なんでだろう―
知らないところに来ていた。
トガちゃんとお兄ちゃんたちと外に行っておいでと言ってくれたから。
―なんでだろう、頭が痛い―
でも二人とも大事な用があるから一人で森の中を散歩をしてた。
前は一人が嫌いだった、暗いところも。だけど今は平気。
お兄ちゃんが待っていてくれるから。
―なんでだろう、手が震える―
だから蝶を追って、星を眺めて歩いていた。
キラキラして、ふわふわしてとてもきれいで楽しかった。
そしたら、大きな音が聞こえてきて、気になったからそっちに行ったら。
―なんでだろう、目がチカチカする―
向かったその先の道のその先に、暗いし煙で良く見えなかったけど。
お兄ちゃんたちと居た黒い人と男の子たちの影が見えた。誰か見たらすぐその場を離れるようにいわれていたのに。
どうしてか足が動かなくて、どうしてだろう
「手数も距離も向こうに分があんだぞ!」
その子の影から目が離せない。

―貴方はだれ?―

呼吸が荒くなる、うまく息ができない。頭の奥がずきずきとしてくる。
此処に居ちゃいけない。早く離れないとそう思うのに体が震えて動けない。
知らない、私あの影の事知らない。
―【ノイズ】――
脳の奥で誰かの姿が見えた。

知らない、わからない。
そのはずなのに。

―【ノイズ】――
誰かが私の名前を呼んでいた。

涙がぼたぼた出てくる、目の奥がチカチカする。頭を押さえて、地面に膝をつく。
その間も爆音と何かがぶつかり合う音が聞こえる。

―【ノイズ】――
誰かの手が私の手を握ってた。

地面についた手の周りからパキリパキリと凍っていく。
「寒い」
上手く制御できなくて、吐く息が白くなる。追っていた蝶がひらりと寄ってそして。
そのまま凍って地面に落ちた。
「寒いよ」

―【ノイズ】――
『凪が早く良くなるおまじない』誰かがそう笑ってた

視界の端から黒い大きな影が彼らの方にやってくる。
周りの木々も玩具みたいになぎ倒されていて、このままじゃきっと私も飛ばされてしまう。がくがくと震える体を無理やり起こしてふらふらともと来た道を戻る。
さっきまで何とも思わなかったこの場所が今は怖くてたまらない。
周りの影がぱくりと自分を飲み込んでしまうのではないか、そう思えてならないのだ。
「怖いよ、お兄ちゃん」
早く名前を呼んで、早くおまじないをして。
そうしないと。
私の何かが壊れてくそんな気がしてならない。
「助けて」

*
「轟、どうした。」
障子は後方の森の方を見ている轟に声をかける。
常闇の暴走を爆豪、轟の両名で鎮静させ、敵の目的の一つとなっている爆豪を護りつつ一同は担任であるプロヒーローの居る施設に向かう事となった。
今さっき行われた、安全に最善策で爆豪を送り届けるかと話している間も彼は何度かそちら側に目を向けていた。もしや敵の気配がしたのかと自分も索敵をしてみるがそのような気配はしない。
「さっき、誰かが居た。」
気がしたからとなんとも曖昧な様子だ。ただの動物かそれとも煙で木々の影がそのように見えたのかそんなところだろと常闇が言う。
それよりも、早く爆豪を施設へと緑谷の声に一同は歩き出した。
轟は最後にまた森の方に眼をやり、そして皆に続く。
(お兄ちゃんて呼ばれた気がした)
この世に居ないはずの妹がそう呼んでいる気がしたのだ。

彼が見ていた森の奥の方で凍った花が風に吹かれてパキリと崩れた。

*

渡我が自分のノルマを回収できずに通信連絡があった場所へと足を進めていると、
前方に見知った後ろ姿が見えてきた。
意気揚々と声をかけようとしたが、その人物凪の様子がおかしい。
今にも倒れこんでしまいそうで、慌てて駆け寄り体を支える。
「凪ちゃんどうしたんですか?何があったんですか?」
まさかヒーローに遭遇したのかと思ったが、見たところ怪我している様子はない。
凪は渡我の事がちゃんと認識できていないのか。頭を押さえながら「あなたは…トガちゃん?」とたどたどしく言葉を紡ぐ。
「そうです、トガです凪ちゃんのお友達のトガです」
頭が痛いの?と彼女の様子から原因を探る。夏だというのに凪の呼吸はマスク越しでも白く、触れている体は驚くほど冷たい。
良く見ると所々霜が降りているようでこのままでは彼女が凍死してしまうと考えた渡我はこの状態を打破できるであろう人物の元へと急いで彼女を連れていくことにした。
「早くお兄さんの所に行きましょう」
その言葉に凪は「うん」と小さく答える。細い彼女の体をしっかりと支えると渡我は向かう足を速める。
「凪ちゃん、私気になる子ができたんです。恋バナ聞いてください。」
だから早く元気になってくださいね。ガサガサと進んだその先に目的の場所があった。
そこに居たのはトゥワイスと荼毘しかまだ居ないようで
「あれ?まだこんだけですか?」
それはそれでいいかと早く凪を彼の元へと連れていく。荼毘も渡我の声にこちらに気がついたようで、彼女に血の採取数を確認しようと近寄り、そして彼女が抱えている人物に気が付く。
「イカレ野郎、どういうことだ。」
「わかりません、私が会ったときにはもうこんな状態でした。」
渡我が凪にお兄さんですよと声をかける。ふらつく頭を上げ視界に荼毘をとらえると、ふらふらと手を伸ばしそのまま彼に倒れこでしまった。
「凪どうした何があった」
腕の中で震えている彼女を抱き込むように抱え、つけているマスクを外すと予想通りその顔は酷く顔色が悪い。
「何だ何だ凪ちゃん具合悪いの!?元気そうだな!!」
「静かにしててください、凪ちゃんの頭に響いちゃいます。」
静かにしてる!派手に行こう!うるさいです!、騒々しい二人のやり取りの中、凪が荼毘の服をぎゅっとつかみ彼を呼ぶ。
「帰ろう、此処は嫌。怖いよ」
「凪何を見た、誰かに会ったのか?」 
「煙の向こうに知らない影を見た、わからないのに頭が痛くて息が出来なくて」
何故だかわからないけどすごく怖いの、そう凪は彼に訴える。帰ろう、早く帰ろう、此処に居たくない。うわごとのようにそう訴える姿に荼毘は先ほどの懸念はこれだったのかと納得がいった。顔も姿もしっかりとは見ていないようだがこの影響とは考えが甘かった。
アレ【轟焦凍】は思っていた以上に彼女の中に居続けているようだ。
自分もアレがいる所から一刻も早く凪を連れ出したかった。お兄ちゃんと彼女が自分を呼ぶ。名前を呼んでとおまじないをしてと己を維持するためにこれ以上壊れないように凪は荼毘を呼んだ。
「一緒に帰ろう。大丈夫だ。」
何もかもからお前を守ってやる、そう言っておまじないをする。それと同時にワラキアから念のためにと預かっていたスイッチを押した。
彼女の頭にある装置のもので、強制的に凪を眠りへと落とす。
「あ……」
完全に意識が落ちる寸前凪が空を指さした。

「お兄ちゃん。ちょうちょ」

落ちてきたのは、ひらりとまう蝶には似ても似つかない忌まわしい者たちだった。