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荼毘






男は、心のどこか、何かが満たされるようなものを感じた。
この感情を何というのかどう表すものかはどうでもよかった。
ただ、
自分の腕の中に居る彼女が、満たすものだという事だけわかっていればそれでいいと思っていた。
彼女、凪は先程まで泣きじゃくっていたが、今は静かに寝息を立てている。
その頭をそっと撫でてみる。
自分とは違う白く細い髪は引っかかる事無く指を抜けていく。すぐに起きる気配はなく、自分の服をしっかりと握っている。
【会いたかったよ】
心の底から求めていたものに会えたその声は何とも筆舌に尽くしがたい様々な感情を携えていた。

これは何というのだろう、喜びだ。
彼女にとって、己なくてはならない存在になった。
凪が凪であるために自分はもっとも必要な。要石になったのだ。

これは何というのだろう、愉悦だ。
今、彼女に必要なものはお前じゃない。自分なのだ。
凪はお前のことなど何も覚えていない。

轟焦凍。お前は凪には必要ない。
ああ、笑いがこみあげてくる。
こんなに楽しいことはない。

ざまあねぇな。轟炎司。


*
凪を静かに寝台に寝かせてその部屋を出ると。
女が一人近づいてきた。
名前は何と言ったか忘れたが国際指名受けている奴だ。
コイツが凪今日まで生かした人物でもあり。あのような姿にした人物でもある。
この女の目的はただ一つ

己の探求心を満たす事だ。
全てはそれだけの為の事。なんて強欲な女だ。
だがそのおかげで、あいつは今生きている。ならば、こいつの行為など自分にとってはどうでもいい。
「まさか、本当にうまくいくとは思わなかった」
これで新たなデータが取れる、そう礼を述べ自分に約束の報酬の件を話してくる。
望みは何?と問いかける女に一歩近づき、
すぐさまそいつの首をつかむ。
俺の行動にコイツの部下の奴らが動揺しざわめきだす。女は片手をあげ制止させた。

「凪を寄越せというのならそれはできない。」
そうすると、今の段階だとあの子は死ぬわよと平然に答える。
どうやら考えていたことは読まれていたようでその返答に軽く舌打ちをする。
「この数分で随分の入れ込みようだけれど。あの子とどんな関係?」
私そっちにも少し興味がわいたわ。
首をつかんでいた手に少し力が入る。チリチリと温度が上がる。
こいつもそのことに気づいたようで少し顔が強張った。
「俺の要求は3つある。」
一つ、凪と俺の関係を金輪際詮索しない事。
二つ、お前と凪は後日敵連合に入る事。
三つ、お前の研究で凪が死ぬようなことがあれば。

「俺がお前を殺すぞ」

その場にいる全員が黙り込む。自分はそこまで気の長い方じゃない。
はいと言わなければ何人か消し炭になると告げる。
女は少し考えてから、わかったと返事をしたところで手を放してやった。
「その敵連合というのはそのAFOのところの子の事ね。前々から話はもらっていたし、構わないわよ」
死んでまで知りたくもないからもう聞かないし最後のは心配いらないと自分にそう告げる。
凪は自分にとっても大事な子だから、貴方とは
「とても良い関係が築けそうね」
これからもよろしくとこちらに手を差し出す。その手を軽く一瞥し、そのまま出口へと向かう。
後ろで小さくため息を吐く音が聞こえ、自分を呼び止める声がする。
「お互いまだ名乗ってなかったわね。ワラキアと言うの」
貴方のお名前は?これから長い付き合いになるのだから、それくらいは聞いても良いのではと女は何を考えているか読めない笑みを浮かべる。
「荼毘だ。」
今はそれで通してる。また来ると良い今度こそ出口へ向かう。食えない女だ。

外へ出ると太陽は少し傾いていた。
ワラキアの言葉を思い出す。
【今の段階では】あいつから引き離すと凪は死ぬ。
つまり、
【ある段階まで】いけば死ぬことはなくなるという事だ。
ならば自分はそれを待とう。
その時が来るまで、大人しくしていてやろうではないか。
それが凪にとって最善ならば。
「気は長い方じゃねぇがな」

久遠の時でないのならいくらでも耐えられる。