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贋作





「おい、ふざけるな、俺はちゃんと言われた通りにしたじゃねぇかよ!」
そう吼える男があの子の居る部屋から連れ出されて行く、これで4人目。どうやら今回も彼女の『お兄ちゃん』にはなれなかったようだ。
廃棄が決定となった男に歩み寄りごめんなさいねと声をかける。
「貴方は役不足だったみたい。ところであの子何か言ってなかった?」
もうこれに価値はないが何か少しはこちらの役になるようなものを置いていってほしい。人を連れてくるのも処分するのも無料ではないのだ。
私の言葉が気に障ったのか、男の顔に青筋が浮かぶ。そして知るかと唾を吐いた、どうやら自分の立場が分からないほどの低能だったようだ。
それならもういいと取り押さえている者に廃棄所へと伝えその場を後にする。背後から耳障りな断末魔が耳に入っていたがどうでもいい事だ。

彼女、凪が居る部屋に向かう。部屋の中は酷く寒い、壁の所々に氷や霜が付いており、吐く息はたちまち白くなった。
母方の物を強く受け継いだ凪はそのあまりに強力な個性に体が耐えられない。なので今は個性を使わないように【設定】しているはずなのだが。見知らぬ凶暴な人間が来たことにより動揺して、防衛本能で無意識に出たのだろう。
彼女はその中で厚手の毛布をかぶって部屋の隅に居た。
「怖い人が来たみたいね。」
怖かったわねと傍に近づいて、彼女の様子をうかがう。反応が薄く、私をきちんと認識していない。個性を使ったことにより普段よりも脳への負荷が大きく、意識の安定が悪いようだ。
この様子ではしばらくデータが取れない。
あの廃棄物厄介なことをしてくれた。
「お兄さんじゃなかったみたいね、先生また違えちゃった。ごめんなさい。」
その言葉に凪は緩慢な動作ではあるがコクリと頷いた。そしてぎゅっと自分を包む毛布を握り深くかぶってしまうが、
「目が…違う。お兄ちゃんは」
私と同じ色。そう小さくこぼした言葉を聞き逃さなかった。
一人目は彼女の呼び方が違った。
二人目は持っている個性が違った
三人目は『お兄ちゃん』のおまじないを知らなかった。
そして今回は…瞳。
「そお、お兄さんは貴方と同じ色なのね。今度こそつれてくるから」
今日はもう休みましょうと彼女の手をとり寝台へと連れていく。凪の頭に何時もの装置をつけ布団をかけてやる。おやすみなさいとスイッチを入れた、ほどなくして彼女は眠りに落ちていく。
翡翠のような瞳が瞼手で見えなくなったのを見届けそとにでる。
思ったよりも彼女の要石の条件は厳しい、だが多ければ多いほどいい。
真実が多いほど一つの嘘が良くまぎれるのだから。

*
「そういう事でまた誰か紹介してくれないかしら?」
目の前にいるブローカー義蘭にそう告げると、香りのよい珈琲に口をつける。
義蘭はあんたもう駄目にしたのかと呆れたようにため息をつく。
「お金は払っているし、あなたは儲かる。何の問題があって?」
それに元から裏社会でしか生きれない者どもだ、何の影響もない、世間は何も知らずに平穏無事な日々を送っている。
「そのお嬢ちゃんのお眼鏡にかなわなかったからって処分することないだろう。」
「あの子は私の研究のすべて、研究内容を知ってどこかで口を滑らされたら困るもの。それに、私これでも国際的に追われているのよ。」
自衛は過剰なくらいが丁度いいの、女は特にと答えると。義蘭はおっかないと肩をすくめて持っていた煙草に火をつける。
彼から吐かれた煙があたりを包む。
「一人いるな。」
あんたの条件に合いそうなやつが。さすが大物とうたわれるだけの男だ、早速その人間を紹介してほしいと交渉する。

そして後日、研究所に一人の人間がやって来た。
「それで来たのがあなた。」
腕を組み、目の前に立つ男を観察する。
全身の至る所に焼け爛れた皮膚があり継ぎ接ぎのような風貌だ。これが本当に務まるとは思えないが確かに、目は彼女と同じ色をしている。
「あんたの感想はどうでもいい」
さっさと案内しろと見た目通りに、素行がよろしくないような態度だ。一つため息をついて、
今回がだめでもまた次を探せばいいだけの事だ。今までと同じように凪の居る部屋に向かう。
「あなた義蘭からどこまで聞いてるか知らないけど、女の子に会ってほしいの。」
道すがら自分の後ろについてくる男にこちらの依頼内容を説明する。
案内する部屋に居る子に会って少し話をしてほしい。
うまくいけば、その謝礼にあなたの望みをできる限りこちらは叶える。
嘘は言っていない、ただ全ては話してはいないが。
部屋の前で、凪の事前情報を教えようとしたところで「必要ない」と男に遮られる。
「俺の要求は終わってから伝える。」
あんたは黙って見ていろとそのまま扉を開けて足を進めていった。
何とも食えない男だ。
あそこまでの様子だお手並み拝見と行こ、彼に続いて中に入る。

*

「凪あなたに会わせたい人が居るの」
起きれる?と先生の声が聞こえる。ねむいよ。起きたくない。またきっと知らない人。お兄ちゃんじゃない。嫌だな。頭ふわふわする。眠っていたい。
誰か近づいてくる。
「凪どうした具合が悪いのか」
近くで優しい声がした。
―ノイズ―
「今度はどうした、風邪か?それとも胸が苦しいのか?」
お前はすぐ無理をするからとその人は優しく私の頭に触れた。ゆっくりと目を開けると綺麗な色の瞳があった。その眼の色を私は知ってる。
―ノイズ―
「身体冷えてるな、今温めてやる。」
ゆっくりと体を起こす。暖かい手が頬を包む。その手にそっと触れる、この暖かさを私は知ってる。顔も思い出せなくて悲しくて。もしかしてこの人は私の、
―ノイズ―
『お兄ちゃん?』
「あぁ、そうだよ」
その人は、優しく微笑んだ。
―ノイズ―
『凪のお兄ちゃんだ』
―ノイズ―
そう言って私の瞼に口を寄せた。
それは二人だけのおまじない。早く良くなりますようにと願いを込めてする私とお兄ちゃんの秘密のおまじない。
頭の霧が少しなくなる。目から涙が溢れる。やっと会えた、会いたかったずっとずっと寂しかった。
「会いたかったよ」
そういって飛びつくとしっかりと抱きとめてくれた。
「俺も会いたかった。」
これからはずっと一緒だ。

―ノイズ―

それは蜜の様に甘く、毒の様に蝕む、悪魔のささやきであった。