×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





緑谷出久の願い





「聞いてて気分のいい話じゃなかったな」
悪いと謝る轟君に僕はごめんとありきたりな言葉を返すことしかできなかった。

事の発端は職場体験が終わった六月の始め、今日から一週間前にさかのぼる。
朝のニュースでもうすぐ梅雨入りの季節とやっていて、クラスでもその話が少し上がった。
季節の変化で個性に影響が出る人もいる、その対策方法や天候のが悪い時中でのヴィランとの戦闘ではなど、ヒーロー科らしい話の中。
隣に居た轟君が「もう、そんな季節か」と窓の外をみてポツリとこぼしていたのが耳に入った。
その様子がいつもとなんだか違って見えて。おもわず大丈夫と聞いてしまった。
振り返った彼は何でもないと答えて何事もなかったように席に戻っていったけれど、その時から段々と轟君の様子は変わっていった。
何か思いつめたような顔をしたり、
気が付くと窓の外を見てい事が増えた。
学食でも食事のスピードも遅く、食べる量もなんだかいつもより減っている気がした。
日に日に元気がなくなっているようで。
これには飯田君と麗日さんも気が付いたようで二人が何処か具合が悪いのかと尋ねてみたところ
「別に具合が悪いわけじゃねえから」
気にしないでくれと言われてそれ以上深く聞けなかったようだ。
結局それから轟君に何も聞けなくて、一週間がたってしまった。

学校が終わった今日の下校時間の時間。
飯田君と麗日さんはそれぞれ用事があるみたいで先に帰ってしまい、僕と轟君の二人で帰路についていたら突然の雨が降り出して。
どちらも傘を持っていなかった為近くの民家の軒下で雨宿りをしていると、ポツリと彼は明日学校を休む事を僕に話した。
やっぱりどこか具合が悪いのかと聞いたところ。そうじゃないと返され。
思い切って僕は、
「それは、君が近ごろ元気がない事と関係がある?」
そう聞いてみた。我ながら不躾な質問だったと思う。
轟君は驚いたように僕を見た。その目線にちょっと耐えられなくて、
「もちろん言いたくない事なら無理に言わないでいいし、今の質問はなかったことにしてもいい、ただ元気がないことが心配で、もし何か力になれる事があるかもしれないとおもったわけで、轟君は友達だから、その、君が心配なんだ。
だから出来たら話してほしいかもです。」
と言わせたいのか言わせたくないのかわからない事をぶつぶつと口走ってしまった。
一人で勝手にあわあわとしていると、彼は「お前は俺の家の事知ってるもんな」と
少し考えるように雨が降る空を見てそして。

―明日は妹の命日だ―

そう言葉を紡いだ。
淡々と話すその姿は雨の向こうに誰かを、此処には居ない誰かを探しているようで。

―もう一度凪に会いたい―

どうしようもなく寂しそうな様子だった。
無理に聞いてごめんと謝ってどうしたらいいかわからなくなっている僕を見て轟君は気にしないでくれと言い。今の話は秘密という事、明日の授業内容今度教えてくれないかと頼んできたのでもちろんだと返す。
先生方の話も全部書き留めておくからと言うと。話したことで張っていた気が緩んだみたいで助かると少し笑ってくれた。
そのあとしばらくして雨は止み、僕たちはお互いの家に帰った。
去り際、明後日には、自分は大丈夫になってると言葉を残して。

*

次の日、轟君は宣言通り学校を休んだ。
今日は朝から大粒の雨が降っていて外はどんよりとした空模様で太陽の影も形もみえない。
この雨の中、妹さんのお墓の前で何を思っているのだろう。
自分は双子でもないし、兄弟も居ないから、彼の痛みも悲しみも辛さも解ってあげることができない。
何もできない。
僕は無力だ。

願わくば、この雨が少しでも和らげばいい