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55


月がまだ空に登っている時刻。
半壊とかしていたクリケット邸の横でメリー号は着々とその姿を変えつつある。
小休憩をしに来たウソップは家の中で座り込むチョッパーに視線がいく。
「シロ寝てんのか?」
「ううん、起きてる」
ゆらゆら体を揺らしているチョッパーの腕の中にはひしとしがみついているシロがいた。顔は彼のもっふりとした毛皮に埋めいているために見えないが時折、鼻を啜る音が聞こえてくる。
「なぁ、シロそろそろチョッパー貸してくれねぇか?」
「ヴヴン゛」
「まだだめかぁ」
いやいやと言うようにチョッパーを掴んでいるシロの手がギュッと強くなった。作業は間に合わなくはないが、メリー号の頭部を裂かれてしまった点を含めかなり終了時間はかなりギリギリになると予想されている。
一人でも手は多いことに越したことはないが、今のシロの状態を見るに無理やり引き剥がすのは気が引けてしまう。
突然の襲撃にあってからずっとこの様子のシロにチョッパーは同い年位のはずなのに酷く幼く見えてしまう。もそもそと自分の毛並みをいじるシロの頭をチョッパーは宥めるように撫でた。
「シロ、黄金はルフィが取り返しに行ってるんだから必ず戻ってくるよ」
「……」
「だから俺もみんな手伝いに行ってもいいかな?」
「……」
しかし、シロからは何の返答はなかった。もしや寝てしまったのかと思いチラッと下を見ると、其処には顔を横に向けたシロが何も言わずにポロポロと涙を流しているではないか。その様子にギョッ目を見開いた。
「うぇあっ?!ご、ごめん!ウ、ウソップ!俺なんかまずいこと言っちゃったかな!?」
「いや、お前のせいじゃねぇよ」
「そうなのか?シロもしかして、どこか痛いのか?苦しいのか?」
「んそう言うわけでもないと思うぜ。コイツのこれは」
何と説明すべきか、こう言うのは俺に向いてないし多分チョッパーも無理な類だろうとウソップは参ったと頭をかく。正直シロが寝てくれるのが一番の最善ではあるがこの様子ではそうなる気配はない。
「おチビちゃんまだ起きてるの?」
いっそ抱っこ紐を付けてチョッパーには作業をしてもらうかと思案していた時。救いの手が二人にやってきた。
「ロビン」
「航海士さんから様子を見てきてと言われたの」
船も何とかなる。黄金も絶対にルフィが取り戻してくるだから問題はシロの方だと空への航海に向けて準備を進めていたナミがそう渋い顔していたのだ。
「如何にもこうにも、ずっとこの調子でよ」
「急にまたシロ泣き出しちゃったんだ」
「あらあら、お目目が真っ赤。」
可哀想にとシロの目尻をロビンの細い指が撫でる。それがくすぐったかったのかシロはうぅんと目を細め彼女を睨むが。八の字に眉を下げたまましょぼしょぼとした表情で見てくる様子にロビンはだたふふと微笑むだけだった。
「おチビちゃんのことは私に任せて、二人は船の方に行って」
「え、でも」
「大丈夫、多分寝たいのに寝付けないだけだと思うから」
「そう言うもんなのか?」
「小さい子は皆そう言うものよ。さぁ、船医さん達を行かせてあげましょう」
チョッパーの腕の中にいるシロの脇に手を入れてロビンは自分の腕の中に移そうとすると。意外にもシロは抵抗する様子もなくするりとチョッパーから離れ、身を任せるように彼女の腕の中に収まり。腕をロビンの首に回すと落ち着く位置に頭を預けた。
もっと抵抗をするかと思っていたウソップ達はその様子に思わず「おぉ」と感嘆の声をあげる。
「すげぇなロビン!」
「そんな大したことじゃないわ」
「悪りぃ、あとは頼んだ」
そのまま外へ補強作業に向かうチョッパー達を見送る。そして部屋にはロビンとシロだけが残された。                                                                                       
外からは金槌を振るう音と話し声が聞こえてくる。それらがよりこの部屋の静寂さを際立たせる要因となった。

「怖かったわね」
シロの背中を撫でる手が少しだけ遅くなる。自分の言葉を肯定するように首に回っていた腕に力が入ったようで耳がグズっと言う音を拾った。
「こう言う時は眠った方がいいの」
「……。」
「ずっと泣いてるとお目目が溶けちゃうわよ」
未だに数粒の雫が流れているシロの頬を撫でると。涙のせいか少しカピカピとしておりそのまま目元を拭ってやると今度は背けられることなくシロは身を任せている。しばらく時間が過ぎた頃にシロが不意に何か呟いた。
「どうしたの?」
「……ない」

ー怖くて寝れないー
ー目を閉じると怖いのが見えるー


「あの子の中にある傷に響いてる」そう最後にこぼしたナミの言葉の意味をロビンは知っていた。隠すのも誤魔化すのも上手くなっているだけで自分にもそしておそらく他の仲間達にもあるのだろう。シロはまだ誤魔化すことが上手くできない。
だからこうなってしまっているのだ。
グスッグズっと鼻を啜る音が大きくなる。

ロビンは自分の腕にいる小さな竜をギュッと抱きしめた。

「なら一緒に楽しいことを考えましょう。」
「たのしいこと」
「えぇ、楽しいこと。おチビちゃんはお空に行ったら何をしたい?」
「……バナナ」
「バナナ?」
「おさるにあげるバナナ探す」
「それは素敵ね」

お空のバナナ、どんなのだと思う?雲の木になってるの。雲で出来てる木なの?お空だから雲だよ。じゃあ地面も雲で出来てるからふわふわで気持ちよさそうね。乗れるんだよ。食べたらどんな味がするかしらね。甘いと思う。どうして?ふわふわだよ、サンジの作るケーキのクリームみたいに甘いよ。じゃあコックさんにケーキ焼いてもらいましょうか。クッキーにつけても美味しいよ。そしたらとっておきの紅茶を淹れて一緒にお茶しましょう。ナミちゃんも。えぇ一緒に。チョッパーも。もちろんよ。みんなでお茶する。そうねみんなで一緒にお茶会しましょうね。

「……する」
「楽しみね、早くお空にいきましょう」
「う……ん」
「眠ったらすぐよ」
さぁ目閉じてとうつらうつらとし出したシロの瞼を閉じるように手をかざした。彼女の手に従うように瞼は閉じる。先程のように暗闇がシロを包む。

ー大丈夫、怖くないー

耳元で誰かそうが囁いた気がした。
大丈夫、平気、怖くない。強張っていた体が緩んで行き暗かった景色が次第に変わっていく。
ふわふわとした白い雲が現れてシロを連れて出した。
白い暖かなそれに身をゆだねると柔らかく彼女を包み込んでくれる。
ふわりふわりと体を委ね、ついにシロは意識を手放した。



腕の中からスピスピと寝息が聞こえる。
ロビンはそっとその頭を撫でた。

「ひとりぼっちは怖いわよね」

外からは変わらずに金槌の音が聞こえていた。
彼女の言葉を拾うものは誰もいないまま。
夜は明けていくのであった。


おやすみなさい、いつかの自分と一緒に