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54


夜の帷はまだ開ける気配はなく、太陽は未だ眠りに落ちている。
ロビンとゾロは会話らしい会話もなく森の中を歩いていると獣の声に加えて仲間達の叫び声が耳を掠めた。
「あら、また叫び声」
「何やってんだあいつら…。情けねぇ」
無謀にも自分に襲いかかってきた虫を斬り伏せたゾロは刀を収めて再び歩き出す。ただの鳥を捕まえるだけの事かと思っていたがここまで手間取るとは誤算だったと苛立たし気に舌打ちをした。それが聞こえたのだろうか、前方を歩いていたロビンが足を止めてるゾロの方へ顔を向ける。
「何だよ」
「まだ夜明けまでには時間があるわ、落ち着いて探しましょう。」
そんな様子じゃ見つけられるものを見つけられない。焦れば思考も視野も狭くなってしまうと続けるロビンの至極真っ当な言葉にゾロはただ眉間の谷を深くさせるだけだった。ロビンはゾロがこうも焦れているのには思い当たるものがある。クリケットの家に置いてきたシロの事だ。
「よっぽど心配なのね、おチビちゃんの事」
「……何のことだ」
「この船で一番気にかけてるのは、航海士さんでも船長さんでもない、剣士さんあなたでしょう?」
メリー号でのとシロのお茶会の際、彼はその腰の刀の斬撃が届く距離で腰を下ろしていた。彼女の頭を撫でる時、柄に指を這わせているのが視界に見えた。シロは気が付いていなかったが、あれは分かりやすい牽制だ。
ーまだ自分はお前を信用していないー
そう言いたげな彼の行動は全部見えていた。
「今あの子のそばには誰も付いていないだから早く戻りたいんでしょう?」
クリケット達は危害を加えないだろうだが、この島が安全とは言い切れない。何が起こるのかわからないのだ。
全部見透かしているような目を向けるロビンにゾロは内心で舌を打つ。
「…シロは、ルフィと同じくらい。それ以上のバカが付くほどに警戒心がない。それに対抗する力もねぇ。」
シロは自分に向けられる殺意に対しての警戒心はあるだが。人間が持つ特有の悪。私利私欲に塗れた悪意というものに疎い。目を離した隙にその悪意の餌食になってしまうなんてことなくはないのだ。シロは自分につけられた価値と言う物をちゃんと理解仕切れていないし、身を守る術もちゃんと持ってはいない。だからきっと丸呑みにされてしまえば最後、シロは簡単に死んでしまうだろう。
それこそ、階段で転げ落ちる様にあっさりと。簡単に。
「BWにいたお前ならオレ達よりもよくわかってんだろ」
「えぇ、そうね」
人を人と思わない者のが蔓延る裏側の汚さを、恐ろしさをロビンは身をもって知っていた。
「今のおチビちゃんは危険すぎるわね」
「なら話は終いだ。さっさと鳥を捕まえて戻るぞ」

再び歩き出した二人の間でもう会話が交わされることはなかった。シロと言う共通の話題がなければ今の彼らで弾むものなど何もないのである。
月が煌々と輝く夜空に断末魔のような叫び声と奇妙な鳥の声が響いてた。



「おい…っ?何が起きたんだ!?」
誰が想像できただろうか。
紆余曲折はあったが無事にサウスバードを一羽捕らえたルフィ達を待っていたのは惨状と呼ぶべき光景だった。
数時間前まで宴を共にしていたクリケットやマシラが血だらけで地に臥し、ショウジョウが海に浮かんでいる。彼らの本拠地とされる家も、そしてメリー号もボロボロに前方部分が完全に分断されていた。一眼で何者かに襲われたと言うことがわかる。
「…っ?ねぇシロは?」
荒らされた家の中にも外にもシロの姿がない。まさかとルフィ達の脳裏に最悪の光景が過ぎる。彼らの憂いを祓ったのは虫の息だったクリケットだった。
「だ…だい…じょうぶだ…ゲホッ」
「クリケットさん!」
「ひし形のおっさん!何があったんだ?」
「ゲホッ…嬢…ちゃんは。床下の…収納にッいる…ッ。」
「ナミ!」
「わかった!」
ルフィの言葉にナミは家の中に向かう。クリケットそれを見送りながらも言葉を続ける。
「すまん…おれ達がついていながら情けねェ……ッ」
暗くて狭い場所に入れてしまってシロに怖い思いをさせた。強化させておくはずだったメリー号もさらにボロボロにさせてしまった申し訳ない。息も絶え絶えに話す彼の言葉は謝罪
のみで此処で起きた【何か】を語る様子はない。
「待てって!おっさん!とにかく何があったか話せよ!!」
「……いやいいんだ。気にするなもう何でもねェ……」
「ルフィ!!!シロがいた!」
クリケットをチョッパーに託しすとルフィは彼女の元へ向かう。そこには、床下から無事に発見されたシロがナミに抱えられていた。顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃに濡らし、月夜の下でもわかるくらいに青ざめている。しがみつく様にして彼女の服を掴むシロの手はガタガタと震えておりそれほどまでに怖い思いをしたことが誰の目から見ても明らかであった。
「…シロ。此処で何があったんだ?」
ルフィはナミの腕から下ろされたシロと目を合わせるようにしてしゃがみ怪我の有無を確かめるように彼女の手や頬、頭を撫でる。
「せ、せん。ッちょー… おじちゃッ…んがぁ!おさりゅがぁぁ。」
「おう」
「ひどいごどされでッウエェ。おーごんとられちゃったあぁぁぁあ!うわぁぁぁああああっぁん!」
「!!」
そこまで言うとシロはボトボトと滝のように涙をこぼして泣き出してしまう。両手で涙を拭いなが辿々しく此処で何が起きたのかをルフィ達に話た。

シロを床下に隠したクリケット達を待っていた【客人達】は黄金をよこせと言ってきた。その要望に応えるつもりもない彼等は当然のように却下するとそれならば海賊らしく奪うまでと客人たちは襲いかかってきたのだ。相手はよほど腕が立つのかなす術もなく痛ぶられるクリケット達の呻き声とその客人達の笑い声は暗い床下まで鮮明に聞こえており。シロはただ必死に声を殺しているしかできないでいた。息を殺して、ただひたすらにクリケット達が痛ぶられる音を聞いているしかシロには出来なかった。

「わ、私…隠れでるじができなぐでぇぇッ!おじちゃんだぢがひどい事されでだのに、ウェぇぇぇぇええぇん」
「いいんだ嬢ちゃんそんなのは…おれが隠れてるように言ったんだから…」
「おじちゃんのおーごん盗られちゃったぁあぁああ」
「嬢ちゃんそんなのは…わすれろ…」
忘れろ、あの金の事は。お前らはただ空に行く事だけを考えろ。これは自分の問題だからと踏み込んでくるなと吐き捨てるクリケットの言葉を耳にルフィはあたりを見回した。
ボロボロの家と船。荒らされた室内に転がるのはあの絵本「嘘つきノーランド」の表紙は踏まれたのだろうか足跡がついている。
「うわぁあああっぁぁぁん!」
シロが泣いている。辛くて怖くてたまらなかったのだろう。今もまだ体は少し震えていた。
「おいルフィ…」
ゾロが指した壁に描かれたそのマークをよく覚えている。手伝おうかと尋ねるてくる彼にルフィはこう答えた。

「いいよ一人で」
それだけで、彼が今から何をするつもりなのかは想像できた。
誰も止めるつもりはない。
「シロ」
「ぜんぢょ…うぇっ」
「ひし形のおっさんの言うことちゃんと守ったんだな。偉いぞ」
頑張ったなとルフィはシロの頭を撫でた。

「あとはおれに任せろ。大丈夫だシロ」


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