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56


もくもくと雲に乗っていた。ふわふわで柔らかくて暖かい。
そんな雲に乗ってバナナを食べようとしてた。
お空のバナナ。黄色いバナナ。
いただきまーすてちゃんと挨拶して最初の一口を食べようとして。

「起きなさいシロ!」

どこからともなく聞こえてきたナミちゃんの声に、雲から落ちちゃった。



うわぁと飛び起きたシロを見てナミは一つため息をついた。何事だと自分の現状を理解していない彼女の口には涎の跡が少しついており大変よく熟睡できていたことが見受けられた。
「バナナは!?」
「あんた何言ってるの?今から空島に行くのよちゃんと起きなさい」
「空島!メリーは?」
そうだったと目を輝かせるシロはいつの間にかに外に運ばれていたらしくすぐそばの海にはメリー号が新しい姿をしそこにいた。
白い羽に赤いトサカ。まさしく鶏である。
シロはメリー号の姿にふわぁぁと感嘆の声をあげ、両頬に手を当てた。
「か、かわいいい!メリーかわいいー!すごーい!」
「お前はそういうと思ってたぜ!」
大興奮でメリー号に駆けていくシロの反応にウソップは満足そうに頷く。こいつならきっと気にいると踏んでいたがまさか此処まで喜んでくれるとはと嬉しい誤算だ。船に乗り込み早速羽やら、船首につけた意味のあるかわからないトサカと卵のからを撫で回してるシロは未だに興奮冷めやらぬ様子で頬を赤らめて可愛い可愛いと繰り返している。
「あいつあのまま、鼻血でも出すんじゃねぇか」
「とっても気に入ってるみたいね」
「落ち込んでるよりはいいけど……熱出されても困るわ」
メリー号の支度は無事に終了し、あとはルフィを待つだけとなっているため全員が呆れたり、微笑ましそうにという眼差しでシロの様子を眺めていた。

クリケットもその一人で仕事を終えた後のタバコをふかし彼女を眺めていたが不意にハハッと笑い出す。
「おやっさん?」
「どうしたんだまさか傷が疼くのか?」
慌てふためき出すマシラ達をそんなんわけあるかと制しクリケットは吸い殻の山にタバコを積み上げる。
「あの嬢ちゃんは翼がない竜なんだったなと思ってよ」
「えっとそうだけど。それが?」
彼の言葉の意味が読めずに説明を求めるとクリケットは新しいタバコに火をつけた。

「翼がない竜が空を飛ぶなんてーーーーロマンじゃねぇか」

煙が空に上りそして消える。
ケラケラとチョッパーと一緒に船で転げ回るシロの笑い声があたりに響く。
ロマンのある事は良い。胸が躍る。
幻想に生きていると哀れまれても良い。それに見てみろ。
居ないと言われていた人型の竜が自分の元にやってきた。鼻で笑っていた奴らに見せるには惜しいほどのロマンの塊が今そこにいる。これが笑わずにはいられるか。
そう笑うクリケットの声がそれに混じるがすぐにそれがかき消されてしまう。
「そうね、でもあいつが戻ってこないことには何にも始まらないわ!!朝よもう朝!」
予定時間はとっくに過ぎてるのに!と眉を寄せるナミの苛立ちは最もだが。何せ相手があのルフィだ。
そもそも時間を守るという考えはない。
刻々と進む秒針に焦りは募る中ようやくルフィの声が海岸まで届いてきた。
奪われた金塊を背負い颯爽とかけてくる姿にホッと胸を撫で下ろしかけたがその手にある物を見てナミは米神に青筋を浮かべる。
「キャァーヘラクレス!せんちょーヘラクレスとったー!すごーい!」
「お前は良い加減に落ち着け」
ルフィの手にある物を見たシロのボルテージはさらに上がりもう頭から煙が出そうな勢いだった。彼が来たのを確認したゾロがメリー号に乗り込みシロの後頭部を小突くと少し落ち着いたよう口を閉じたがソワソワと体を揺らしている。

「ルフィ急げ!」
ああ!とルフィが飛び乗り、ようやく全員が揃い船は慌ただしく出港を始める。
此処から先はマシラ達の案内で空島までの航路を目指す。
クリケットとはここで別れる為、シロは手すりの上に顔を覗かせた。
「黄金卿も空島も過去に誰一人ないと証明できた奴ァいねぇ!バカげた理屈だと人は笑うだろうが結構じゃねぇか!ーーーそれでこそロマンだ!」
「ロマンだー!」
「金を……ありがとうよ…。お前ら空から落ちてくんじゃねぇぞ!」
そう言って彼はメリー号を見送る。シロはクリケットが小さくなるまで大きく手を振り続けた。
おじちゃんバイバーイ、手紙書くねー!と小さく聞こえる彼女の声にクリケットはただタバコに火を灯す。
「ロマンじゃねぇか……本当によ」




森から取ってきたサウスバードをいじり倒しながらも順調に船を進めていたのが三時間前。
現在メリー号の全歩には真っ黒な雲【夜】が現れ彼らを待ち構えていた。
一秒ごとに天候は変わり、波がメリー号を襲う。
そんな中シロは海底から聞こえてくる何かの音を聞いた。
「?なんだコポコポ言ってる?」
「ん?どした」
「せんちょー、なんかコポコポ言ってる」
「そうかなんも聞こえねーけど、よく聞こえたなぁ」
こんな波の中、ザプンとメリー号が波に揺れて大きく傾く。思わずよろけるシロの体をルフィが支えた。
マシラとショウジョウの会話からして【突き上げる会流】が予想通りの大きさであることが読み取れ二人の興奮は徐々に上がっていく。
「いよいよだねせんちょー!」
「ワクワクすんなァ!」
キラキラと目を輝かせているシロ達だがその周りはそれどころではなかった。
波は徐々に高くなり水飛沫で服はびっしょりと濡れており、メリー号の先には大きな渦潮が姿を表して船を今にも飲み込もうとしてる。
「そのまま流れに乗れ!!逆らわずに中心まで行きゃなる様になる!!!」
マシラの言葉を聞いたときにはもうメリー号は何十倍、いや何百倍もある大きさの渦紙をの流れるその身を委ねていたのだった。
「飲み込まれるなんて聞いてないわよォ!!!」
「大丈夫だ!ナミさんロビンちゃんシロちゃんは俺が守る!!」
「こんな大渦初めて見たわ」
「やめだ!やめやめ!引き返そう帰らせてくれぇぇ!!」
「観念しろウソップ。手遅れだ二人すでにノっちまってる」

「いくぞー!空島ーーー!!」
「えいえいおーーー!!」

拳を掲げるルフィとシロの意思は固いようだ。どんなに大きな海王類が波に飲み込まれていくのを見ても引き返すという選択はもうないらしい。武運を祈るとばかりに離れていくマシラ達に二人は大きく手を振った。

「じゃあなおめぇら!後は自力で何とか頑張れよぉ!!」
「送ってくれてありがとなー!」
「バイバーイおさるー!」
ありがとうとにこやかに言葉を送る二人の隣ではウソップ、チョッパー、ナミが断末魔をあげている。彼らをさらに絶望に落とすかのように空が夜へと変わる。
「引き返そうお前ら!今ならまだ間に合う!」
死んじまう、空島なんて夢のまた夢だとウソップは必死にシロとルフィの説得に試みる。
「夢のまた…」
「夢…」
二人がウソップの言葉を反復しそうだよなと大きく頷いた。本当に説得がうまくいったのかとナミは目を輝かせるがそう上手くいくなんて事はない。
「夢のまた夢の島!!こんな大冒険逃したら一生後悔すんぞ!!」
「せんちょーロマンだね!」
「あぁ!シロ!此処から見たこともねぇ冒険が待ってるぞ!」

いくぞ空島!
二人の眩しい顔にもう誰も何もいうことはできなかった

いざ夢の島