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53


空島への出港を明日に控えた一同は、クリケットの家で前夜祭の真っ最中であった。
とっぷりと夜も更けているが宴は終わりを迎える様子はない。サンマ料理に程よく腹が満たされたシロは次第に船を漕ぎ出していた。

「なんだ嬢ちゃんもうお眠の時間か?」
「…んくないー」
まだ宴するとモニョモニョと唸るシロの頭は左右前後と揺れている。
「明日は空島に行くんだ今のうちに寝とけ寝とけ」
「空についたら寝てる暇なんてねぇくれぇのハラハラが待ってるぞ」
「ん``んグゥ…」
「往生際が悪い子ね…。」
ナミがその手にあるグラスを取り上げて軽く押すと彼女は逆らうことなく床にコロンと転がると瞼を閉じた。しかし、寝苦しいのか左右に寝返りを打つが落ち着く場所が見つけられないのかシロはむくりと起き上がるとかぶっていたキャスケットを掴む。
「あっ…!バカ!」
シロの頭には竜の角生えている。普段はそれを誤魔化す帽子は船外では絶対に取らないようにしてるのだが。今は眠気の方が勝っているらしく躊躇うこともなく帽子を脱ぎ捨てると再び床に寝転がった。今度はたちまち眠りに落ちたのか寝息が微かに聞こえてくる。
「あのこれはえっと……」
クリケット達を悪人と思うわけではない。だがシロの正体を知られるのはまずいと思ったナミは何か言い訳を考える。だが、幾らザルの彼女で酒が入った頭では思考がうまく働かないようでとっさに出てくる言葉がない。
その間もクリケットは心地良さそうに眠るシロの頭をじっくりと観察しなるほどなぁと酒を煽る。
「これが人型の竜か実物は初めて見たぜ、確か新聞にも載ってたな…。」
人型の竜について新聞のゴシップ欄に記載されていたのを見た事がある。クソがつくほどに金持ちが所有する施設が人型をオークションで競り落とした。そんな井戸端会議の前座になるかもわからない他愛もない話である。文章はこう締め括られていた。

ー落札額は数億ベリーは下らないと予想される。あらゆる可能性を持つその人型竜の価値はそれほどと言う事なのだろうか。

「「「数億ベリー!?」」」
「んん〜」
シロは一つ寝返りを打つ。体を丸める姿はただの子供にしか見えない、その気の抜けた顔をしている彼女にこいつのどこにそんな価値があるんだと聞きたくなるほどである。
「なんだよお前ら、そんなにハラハラして。まるでこのガキンチョがその竜だって言うのか?」
「ウキキ、そんな…。」
馬鹿なと笑うマシラ達へ誰からも返答がなくい。もうそれが答えと言っていいだろう。
「「マジか」」
「なんだお前らこいつを攫ってきたのか」
「違う!話せば長くなるんだけど、私達は保護したのよ」
ナミの言葉にクリケットは嘘を感じなかった。シロと彼らとの関係は日中のやりとりでわかっており、保護をしたと言うのは本当の話なのだろう。
「こいつがどんなやつかなんかはオレ達には関係のないことだ。詮索も何もしねぇよ」
「さっき新聞にもって言ってたけれど…。他に何で知ったの?その施設が発表した研究結果についての論文?」
「オレはそんな眠くなるようなもんは読んでない。書いてあったのさノーランドの日誌に」
クリケットは日誌のあるページを開いてロビンに差し出す。
ここだと見せられた日付にはこう知るされていた。




1122年5月18日
 
この日見た光景を私は忘れることは無いだろう。

気候が安定してきており島が近い事が予想されるため我々は、甲板から島の影を探していた時のことである。北西側の空からこちらに向かってくる飛行物を捕らえた。
最初は渡鳥の群れと予想していたが、それにしては向かってくる速度が速すぎる。
船員に警戒体制の指示を出し私は飛行物の正体を探ろうと空を見据えていた。
 
そして見えてきたのは、竜の群衆だった。
一面を覆い尽くさんばかりの数の竜が空を渡っていたのである。数にしておおよそ100頭はゆうに超えるであろか、様々な種の竜が一同に空を飛んでいることに私は驚きを隠せなかった。
古来から竜はそれぞれの種族がはっきりと分かれている。単一種で繁殖を繰り返してきおり、自分の近くに別種の竜がいるものなら必ず争いが起こすものだ。これは、どの生物の本にも載っている言わば常識の様なものだ。このように多種類の竜が群をなして空を渡っている姿など今まで聞いた事も見た事もない。
陽に反射する彼らの鱗は煌めいており、まるで空を宝石で覆い尽くしたかの様で息をすることさえ忘れてしまうほどだった。
驚くのはそれだけではない、先頭を飛ぶピジョン・ブラットのような紅竜の背に何と人影が見えたのである。慌てて望遠鏡を通してみるとそこには間違いなく人が立っていた。いや、人に似た何かと言った方が良い。
その者の頭には二本の長い角が生えており。民族衣装を思わせる服を身に纏い杖を持つその姿は神話の神を彷彿とせ、この群れを引く長なのだろうと直感した。その者から目を離す事ができないでいると不意にこちらを向いたのである。
気のせいではない確かに望遠鏡越しにいる私を見ていた。その瞳孔は龍の目の様に細長く、爛々と輝いていた。睨まれた蛙の様に固まっている私に興味を失ったのかその者は数度瞬きをすると顔を前に戻して杖を前にかざした。それに呼応するかのように周りの竜が吠え出してさらに上空へと飛び立行きその姿はやがて見えなくなってしまう。
時間にして2、3分程であっただろうか。もしかしたらもっと短かったのかもしれないあの光景は我々の脳裏に焼きつき永遠に忘れる事はないだろう。
彼らはどこから来たのだろう。そしてどこへ向かったのだろう。
それを知る事はできない。
我々の船は偶然かはたまた必然か群れが消えていった方角へと船を進めるのであった。

いつの日か、再び合間見れる事があれば。
その時はあの者と言葉を交わしてみたいそう思うのだ。

モンブラン・ノーランド 



「すごい竜の群れだって」
「400年前、屠龍花の養殖がまだ成功していなかった頃じゃないかしら?」
「ああ、だからノーランドはその光景が見れたんだ。」
数も種類も激減しており、人から隠れるのように生息の仕方を変えてしまっている今ではありえない。だから竜は珍しく。人型の竜は希少とされているのだ。
「ノーランドはその群れが飛び立った方へと船を進め数日後にジャヤに辿り伝いた。」
もしかしたら彼らは黄金の鐘の音に引き寄せられたのではないか。そう考察できるのはノーランドがジャヤに到着した日付に綴られている文章にある。
『森の奥から聞こえる奇妙な鳥の鳴き声と大きなそれは大きな鐘の音だ。巨大な黄金からなるその鐘の音はどこまでもどこまでも鳴り響き。あたかも過去の都市の繁栄を誇示するかの様であった』
聞き入ってるのはノーランド達だけでなく島に生息する物全てが魅了されている様だったと続けられいる。
「我々はしばしその鐘の音に立ち尽くした!!」
その言葉と共に再び宴会は盛り上がりを見せる。そしてクリケットが取り出したのは彼の10年間の成果である金塊たちであった。
中でも一際目立つのは妙な姿をした鳥の像。この鳥は今でもこの島の森に生息をしているらしく。ノーランドの日誌にも奇妙な鳴き声をすると記載されている。
名前をサウスバード。その名の通り南を向く習性を持っており昔の船乗りには方角を示す指針として重宝されていたという。ここでクリケット達は重大なことに思い出した。
「お前ら今すぐ南の森へ行ってこの鳥を捕まえてこい!!」
「何言ってんだおっさん?」
「いいか、よく聞け!明日お前らが向かう【突き上げる海流】はこの岬からまっすぐ南に起こる。そこへどうやって行く?」
ここは偉大なる航路に浮かぶ島。一度海を出てしまえば方角なんてものはわからなくなってしまう。だからこそこの海ではログポーズが必須なのだ。しかしルフィ達が明日向かうのはただの海流の発生場所。磁気なんてあるはずもない。
「だからこの鳥の習性が必要なんだ。」
夜明けまでに件の鳥を捕らえてこないと。念願の空へ行く方法に立ち会う事もできなくなってしまうと衝撃の事実を告げられたルフィ達は慌ただしく森へ向かう準備を始める。
「おいシロはどうする?」
「無理に起こすのも可哀想だから置いて行きましょ」
「つーか、こんな騒ぎの中でも寝てんのかこいつ」
「日中沢山歩いたから疲れているのよ」
ウソップに頬を突かれてもシロは軽く唸るだけで目覚める様子はない。どうやらかなり熟睡をしているようだ。クリケット達に預けておけば大丈夫だろうとシロを残して彼らは森へと向かう。明るい時は何とも思わない森が、夜になると途端に不気味さを帯びてルフィ達を待っていた。
早く捕獲しようと思う彼らであるが目標の鳥はそんじょそこらの鳥と違う知能を持っている事を知らない。あたりに響く奇妙な鳴き声はルフィ達を嘲笑っているように響いている。
その森に叫び声が追加されるのは数分後のことであった。

『この森を荒らすやつは殺してやる』



時は少し巻き戻り、ルフィ達が森へと飛び出してすぐの頃。
「ロマンじゃねぇか」
ぷぅぷぅと寝息を立てるシロを見てクリケットはそう呟いた。メリー号強化をするために準備をしていたマシラとショウジョウが彼を振り返る。
「おやっさん?」
「どうしたんだ急に?」
「今自分の前には伝説とも言われる様なやつがいるんだなと思ってな」
嘘つきと呼ばれた先祖の日誌に書かれていた存在は正直、黄金都市よりも信じられない物であった。新聞のあれもフェイクニュースだろうと気に求めていなかった。
そんな存在が目の前にいる。夢物語の生き物と言い続けられたそれが今居るのだ。
これをロマンと言わずして何という。
「まぁこんなにちんちくりんとは思わなかったがな」
彼の言葉に違いないと笑っていると、シロがムクリと起き上がった。まだ開き切っていない目であたりを見回した彼女はルフィ達は何処と尋ねる。サウスバードを捕まえに行ったと言われたシロは置いて行かれたと口を尖らせてしまう。
「一時間もすれば帰ってくるから大人しく待ってな」
クリケットがむくれるシロを宥めていると外が少し騒がしくなった様に感じた。シロも外の音が聞こえたのかルフィ達が帰ってきたと立ち上がって扉の方へ向かう。サウスバードは賢い鳥だ。いくら何でも帰ってくるのにはあまりにも早すぎる。
つまり、家の外にいるのは違う人間だ。
「嬢ちゃんっ!扉を開けるな!マシラ!ショウジョウ!」
「おう」
「ガキンチョこっちに来な」
「おじちゃん?おさる?」
ショウジョウに手を引かれた彼女に代わってマシラが扉のノブに手をかける。先程までの陽気な雰囲気から一点した彼らの様子にシロは戸惑いを隠せていない。
「どうしたの?」
「オレ達に客人がきただけだ。嬢ちゃん…坊主達が帰ってくるまでここに入っててくれないか?」
そう言ってクリケットが指差したのはラグの下にある床下収納の扉であった。そこを開けるて中に入っているの酒や食料を全て出すと。彼は未だに現状が飲み込めていないシロを抱えて有無を言わす暇もなくそこに入れた。

「いいか?あの坊主達が戻ってくるまで大人しくここにいるんだ。いいな?」
「おじちゃん?何が起きてるの?」
「絶対に何があってもここから出てくるんじゃねぇぞ!?わかったな!?」
「っ…!わかった…。」
鬼気迫る様子にシロは小さく頷く。
「悪いな暗いかもしれないがちょっとの辛抱だ…。」
クリケットが扉を閉めると中は真っ暗になってしまい、シロは身を震わせる。床の木々の隙間から音が漏れてきてクリケット達の話し声が微かに聞こえてきた。

「おやっさん」
「今度は本当に金塊目当てのやろうみたいだな」


ロマンのクソもない客人たちだ