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―過去を無きものなど誰にもできはしない!!!
―この戦争の上に立ち!!!生きてみせよ!!!!


―【アラバスタ王国よ!!!!】―


終わりなんてくるのだろうかそう思っていた戦いが今終結した。
天からはとめどなく雨が降って己の頬を濡らしていく。
その中に一つだけ暖かいものがあった。今まで耐えていたそれをもう止める事はしない。
何故なら己は、国はもう自由なのだから。


*

さわさわと気持ちのいい風がカーテンを揺らして流れてくる。
そしてベットに眠るシロの前髪をくすぐる様に揺らした。乱れてしまったそれをビビは指で軽く整え、額に濡れタオルをのせる。
静かに呼吸だけを繰り返しているシロはあれから一度も目を覚ましていない。チョッパーの診察ではもう気が付いてもおかしくはないという事でビビを含め他の全員が彼女の目覚めを待っている。
「あのねシロさん、ルフィさんが目を覚ましたのよ。他のみんなもとっても元気なルフィさんに驚いてたわ。きっと厨房は大賑わいよ。」
ビビはベットにそっと頭を置いてシロを見ながらそう口を開く。彼女の言う通り、つい先ほどルフィが大けがしていたとは思えないほどの勢いで飛び起きた空腹だと言って騒いでいたのだ。今頃食堂で大騒ぎをしているに違いない。
皆に先に行くように伝えて、ビビはシロの部屋に立ち寄ったのだ。
「皆楽しすぎて歌ったり踊ったりしてるのかもしれない。シロさんもお歌とか好きよね?きっと一緒参加すれば楽しいわ。」
その先言葉は言えない。お願いだから早く目を覚ましてなんて言葉を簡単にはいえないでいる。
シロが今生きている事は奇跡に近いのだ。痛みを与えられ、猛毒に侵され。彼女は死の世界に足を進めていたのである。もう少し遅ければその門を潜り抜けていたのは間違いなかった。
今は、少しずつこちら側に戻ってきている。だから急かしてはいけない焦ってはいけない。そう自分に言い聞かせビビはシロの手を握った。
「昨日テラコッタさん達にお願いして昔着ていた服を出してもらったの。ナミさんと一緒にシロさんに似合いそうな服を沢山選んだのよ。」
メリー号でした彼女との約束とは違うが沢山服を選んで今は丁寧に荷物にまとめられている。
ビビはその中でも水色のワンピースが似合うと思った。ナミの選んだ黄色のパンツともぴったりで一番に着てほしいと話していた。
空のような水色と眩しい黄色はシロの黒髪に似合うだろう。きっと彼女も気に入るはずだ。それを身に着けて自分達に見てみて誇らしげに胸を張って見せれくるに違いない。
『ビビありがとー!』
そうほころぶシロの顔が目に浮かんだ。


風がまた吹いてビビ達の髪を揺らす。
日が落ちてきた。食堂の方から賑やかな声が聞こえる。
そろそろ窓を閉めようとかとビビが顔を上げた時にシロの手が微かに動いた。慌ててシロに呼びかける。
「シロさん、シロさん。聞こえる?」
焦るな、慌てるなと脳内で己に言い聞かせ、ビビはシロの傍で何度も名を呼び続けた。
どれくらい経っただろうか。本当はまだ秒針は一周もしていないのかもしれない。
何度目かの彼女の名前を呼んだ時、その頭から生えている角が微かに光った。

そして、シロがゆっくりと瞼を開いたのだ。
数回瞬きを繰り返してその瞳はビビを映す。
「シロさん、私が解る?」
「ビ…ビ?」
「そうよ…っ!よかった気が付いて…。本当に良かった。」
何処か苦しかったりしないかと話しかけるビビにシロはそっと手を伸ばす。そして彼女額の右側をそっと撫でて痛くない?と呟いた。
「悲しくない?痛くない?」
慰めるようにビビの頭を撫でるシロはもう嫌な事全部終わったねと良かったねと目を細める。
ビビは堪えきれずに彼女をぎゅっとだきしめた。
「もう大丈夫、皆のおかげよ。ありがとうシロさん!」
「がんばったねー。」
良かったね良かったねと抱き絞めてくるビビにシロはそう言って彼女の背中を撫でる。自分がその後にどれくらい寝ていたのかを聞いて驚いたのはそれからすぐ後の事で。
起き上がったシロのお腹からそれはそれは、盛大な音がなり二人して笑うのはもうちょっと後の事である。


*

騒々しい部屋への扉を開けると中に居た全員が入って来た人物を見て動きを止めた。
「皆おはよー!」
ビビに連れられて大食堂に来たシロはいつも通りにそう挨拶をする。しかし周囲の反応が何時もと違うようでどうしたの?と首を傾げた。
ガタンッと何処かの椅子が倒れた。ガシャンと何処かでカトラリーが落ちる。ジャバジャバと水がこぼれるような音がしたと思ったら麦わらのクルー全員が立ち上がってシロに走り寄った。
「シロあんた歩けるの!?大丈夫なの!?」
「うわぁシロ〜!!起きたのか!?歩けるのかぁ!苦しくないか!?気持ち悪くないか!?」
「シロも目が覚めたのか!なら一緒に宴しよう!アラバスタのメシはうめぇぞ!!」
「おま、おまえ!俺たちがどっっだけ心配したと思ってるんだ!のんきに起きてきやがってよかったぜ本当に!」
「よがっだぁよがっだよぉシロちゃん!!!」
「思ったよかげんきそうだなお前」
うわぁとナミを筆頭にチョッパー達に抱き着かれウソップやゾロに頭を撫でまわされ、もみくちゃにされているシロの元にコブラが歩み寄ってきた。
「よかった。目が覚めたようだね」
「あ、おじさんおはよう!おじさんも元気そうだね!」
一国の国王にそう呼称する子供に周りの兵はギョッとする。コブラは良いのだと言いたげに周りに目配せをおくった。
「もう体は大丈夫なのかい?」
「大丈夫だよ。お腹がすごく鳴ってるくらい」
「そうかならたくさん食べないといけないね」
コブラは笑みを浮かべそれでは一緒に食事をしようとシロに手を伸ばし、彼女もその手を握った。

*

「シロが目が覚めた記念に宴だァー!!」
グラスはまたもう一度天に掲げられたのであった。


「シロゆっくりよく噛んで食べるのよ。」
「食べていいのは芋か柔らかいパンとスープだからねシロちゃん」
「ナミちゃん、このお皿に置くと消えるんだよ!面白いね!」
「は?…ッて!ルフィあんた何盗ってんのよ!」
「下ろすぞクソゴム!!!!」

「コブラ様楽しそうですね」
「本当に賑やかな食卓だからね」