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「お、お、おっきー!!」

シロの叫びは浴室の壁や天井を跳ね返り幾重にもかなる。
嵐のような宴。もはやアレはある種の戦と言うべき食事会を終えた一行はコブラに連れられて王宮の大浴場へと来ていた。
因みに最初にシロは何の疑問も持たずにルフィ達と一緒に男湯への入り口を潜ろうとしていたところをナミに襟首をつかまれると言う出来事が起きていた。あの子が病み上がりじゃなかったらげんこつを落としていたとのちの彼女は語っている。

「シロ―!」
「なぁーにー!」
「こっちの風呂にはライオンが水吐いてるぞーー!!」
「こっちは竜が水吐いてるよせんちょー!」
「すっげーな!」
「すごいねー!」
「ちょっとシロ、じっとしてて髪がちゃんと洗えないでしょう」
暖かな浴室に立ち込める湯気が肌を撫でる。大浴場の洗い場でシロ達は互いの身体を洗っていた。シロは壁の向こうから聞こえるルフィ声に応答をしているとぐいっと真後ろに座るナミに頭を正面向けられる。
シロは、自分の頭を彼女の細い指が泡をきめ細かく立てながら滑る感触にこそばゆさを感じるようでときおり気の抜けた笑い声を出している。
かぽーんと桶を置く音が響き隣からは騒がしい男たちの声が聞こえてきた。

「気持ちいい〜〜こんな広いお風呂が付いた船ってないかしら」
「あるわよきっと海は広いもの」
巨人も恐竜もいた、冬島に桜が咲いた。この世界は広かった自分の想像を2歩も3歩も先を行く出来事の数々をビビは思い返す。
そしてこの小さな竜の子供と出会った時の事も。
ナミに背中をこすられて耐えきれなかったのかついに笑い出してしまっているシロの背中は今も細く華奢であるが背筋に寒気を感じる悲惨さは無くなっていた。いくつもの傷もやがて薄くはなるだろう。もうシロを傷つける者は居ない。彼女は自由なのだ。

「ビビ」
いつの間にかに動かしていた手が止まっていたようでナミが振り返り彼女を呼ぶ。その瞳をみてビビはシロが目覚める前に彼女から言われたことを思い出す。
(ねぇビビ、もしも)
ナミは何も言わずにまた前を向き戻ってしまう。
「さぁ、流すわよ」
「うぇぇ、目に入ったぁぁ」

(もしもあの子が…)
ごしごしと顔を拭うシロを横目にナミとビビも体を流す。頭をふって水気を飛ばしたシロは湯舟に向かおうとするがナミに待ったをかけられてしまった。

「ねぇシロ。今からちょっとお話しましょう」
「今?裸んぼうで?」
「そう今よ。海賊でも何でもないただの人間として聞きたいことがあるの」
ちょっとそこに座りなさいと言われシロは大人しくそれに従う。
見える視界にお山があるなと思いつつもそんな事を言ってはいけないと感じるほどにナミの様子は真剣さを秘めていた。
壁の向こうもこちらの様子が変わったことに気が付いたようで静かになっておりざぁざぁと言う獅子が湯を吐き出す音しか聞こえてこない。

「シロ」
「はい」
「あんたはこれからどうしたい?」
「どう?」
「私はね、正直もうアンタは一緒に航海をする意味はないと思うの…だってシロ、アンタはもう自由だから」
だから航海を続けるのもやめるのも決めていいのよ。ナミの言葉の意味をシロは瞬時に理解することは出来ずにえッと…と言葉を漏らしている。

(もしもあの子が船を降りると言ったらビビお願いだけど助けてあげて欲しい。シロが傷つく目にはもう遭って欲しくないの)
夜も更けた頃にそう自分の頭を下げるナミの姿をビビは鮮明に覚えている。そして彼女の願いも痛い程理解出来ていた。
シロ本人が何と言おうとこの国で下ろしてしまう事も出来たがそれは自分の我がままになる。それは彼女の自由を縛っている事に変わらない。そう理解しているからこそナミはシロに己が行く道を選ばせているのだ。
浴室でこの話をしたのも船長のルフィが安易に口を挟めない場であると思っての事だろう。
実際に男湯からはウソップやサンジに取り押さえられているのだろうかもごもごと唸る彼の声が聞こえてくる。
「ぷはっ、おいナミ!何勝手な事言ってるんだ!シロは俺の仲間なんだからこれからも一緒に冒険するに決まってるだろう!」
「ちょっと静かにしててルフィ!!これはアンタが決めていいことじゃないの!」
「何で!」
「シロは今回死にかけたの!あの時シロにはあたし達と一緒にいるしか生きてられなかった先で起きた事。でも今は違うあたし達と居なくても生きて行く事が出来る方法がシロにはある。」
シロの生きる道はシロに選ばせる誰も邪魔しないで。ルフィも彼女の意見納得したようにわかったという答えが壁を越え湯気を越えて飛んできた。
「シロあのね、今までのように命の危険なんてさらさなくても生きていける方法があんたには沢山あるの…だからこれから先は乗るも降りるもあんたが決めていいのよ」

*

かぽーんと軽い音が響く。先ほどよりもたくさんの湯気が浴室を埋め尽くしている。
誰も何も音を発さない。
全員が一人の言葉をただじっと待っていた。
「えっとね…ナミちゃん」
シロは恐る恐ると言った様子でようやく口を開いた。
「何?」
「私が決めていいんだよね?」
「えぇ、もちろん」
その返答を聞くや否やシロはそっかー!と破顔一笑させナミの手をとる。

「じゃあナミちゃん達と一緒が良い!」

それしか答えは無いというほどに迷いを感じない即答であった。ぶんぶんと手を振られるナミは何でと言いたげに困惑をしている。
「あのね、あのね私もっとメリーに乗ってたいしせんちょー達と冒険したい。あとね色々な所にも行きたい。ご本で読んだんだけどね海の底にも空にも島はあるんだって!ナミちゃん知ってる?見た事ある?」
「それは…ないけど」
「じゃあ一緒に行こう!あ、あとねナミちゃんにこーかいじゅつ教えてほしいのこの前ナミちゃん病気で困ったでしょうだかね私も知ってたらナミちゃんもせんちょー達も困らないよね!」
我ながら名案だと言いたげに胸を張るシロをナミは思わず抱きしめる。馬鹿な子と罵る口ぶりは震えていた。
「此処で降りれば王宮の人たちが助けてくれるし、いい暮らしもできるのに。本当にアンタは馬鹿ね」
「ナミちゃんお山が苦しい」
「何で人が感動しているのに台無しにするのよ」
ぎゅうぅぅと締め上げる音がして苦しいとシロが暖かな浴室に居るのに青くなってきたところでビビに慌てて救出される。
無事に落とされる前に解放されたシロはコホンと咳ばらいをして壁の方に向く。
「せんちょ―!」
「なんだー!」
「これからもおねがいしまーす!!」
「当たり前だ―――――!!!」
ルフィは歓声をあげ壁から頭を出した。それに続いて他の数名も顔をのぞかせる。口々に歓声や喜びの言葉をシロを送り彼女もそれににこやかに手を振り返している。
その様子を微笑ましそうに見ていたビビだがある事に気が付く。

此処は浴室である。

それに気が付き彼女は顔を赤らめ男たちにすぐに戻る様に言うが、彼らは聞こえない人物が半数、聞こえてないふりをしているのが半数であった。

「仕方ないやつらね…」

幸せパンチ!!
一人10万よ