3.たどたどしい恋だった 毎日、毎朝。 ほんの十数分の逢瀬。 なぜか、少しずつ物足りなさを感じ始めている、泰裕との時間。 「水戸部は選択、何にした?」 冬の冷たい空気でかじかんだ手に息を吐き掛けていたところに、この質問。 「――選択?」 俺よりも少し背の高い泰裕を見上げながら問い返すけど、答えはもらえず、代わりに両手を握られた。 温かい、ぬくもり。 「水戸部、手ぇ冷たいな」 向けられるのは、いつも変わらない、優しい笑顔。 「………離せよ」 「どうして? 温めてあげるよ」 「〜〜〜……」 ドキドキと。 心臓が指先に移動したのかと思うくらい、血管が大きく脈打つ。 泰裕から伝わる体温。 それだけでも充分熱い気がするのに、自分の内側から派生した熱が、指先から全身に回って、体全体が熱く火照る。 きっと、俺、顔、赤い。 「……っ、選択の、話じゃ、なかったのか……?」 見られないように顔を俯け、話題を元に戻す。 手は――握られたまま。 嫌なら振り解けばいいのに、それができないのは――? 「そうそう、理科の選択、何にした?」 ドキドキする一方で、このぬくもりに、心地よさを見つけてしまったのは――? 「………福井は?」 なんとなく、自分が先に言いたくなくて、泰裕に先に言わせる。 「俺? 俺は生物」 「……俺も」 一緒だ……。 嬉しくて、たったそれだけのことで浮かれてしまいそうになる。 最近の俺は、ずっとこうだ。 泰裕の言葉や行動、仕草。それらすべてにドキドキしたり、嬉しくなったり、ちょっと落ち込んでみたり。 これじゃまるで―――。 でも、その答えを出すのが怖い。 俺の中の何かが壊れてしまいそうで。 「社会は? 何にした?」 俺にとっては聞くのが怖いそんな質問も、泰裕はあっさり口にする。 少しでも、接点が多いことを期待してしまうから。 もし違ったら? 落ち込んでしまうかも。 そんな自分が怖いんだ。 だからやっぱり先に言わせる。 「………福井は?」 「日本史」 「………俺も」 社会も、一緒。 すごく、ほっとする。 理科も社会も選択が一緒なら、もしかして来年、同じクラスになれるかも。 ささやかな期待に、泰裕の声が重なった。 「同じクラスに、なれそうだな。――なれるといいな」 そしてまた、あの微笑み。 「………うん」 一緒だといい。 高校最後の一年間を、泰裕と一緒に過ごせたら―――。 「温まった?」 泰裕の手が、確かめるように俺の手を、指をきゅっと握る。 「………うん」 離れていく体温が寂しいなんて。 離してほしくない、なんて―――。 俺は、どうしようもなく泰裕に惹かれていく自分を、もう自分では止めることができなかった。 END 2008/06/02 [戻る] Copyright(C) 2012- 融愛理論。All Rights Reserved. |