誇大妄想 | ナノ




Whose are you...?

帰ってきて部屋の扉を閉めるなり、中禅寺は関口を背後から抱き締めて項にキスを落とした。

「疲れてない?」
「帰ってすぐそれかよ、ってちょ、触るな」
「デートの最後はやっぱコレしなきゃ終わんないだろ」
「だから脱がせるな!」

ぎゃあぎゃあ喚きながら二人で狭い風呂に入り、上がってから二人で選んだ映画を見た。それから中禅寺のコレクションから選んでまた見た。
家にあるDVDはほぼ全て中禅寺の趣味で、なのに呆れるほどぐちゃぐちゃなジャンルに知らず笑みを溢す。とはいえ、五分の一は妖怪関連だが。

「ねぇ、このドラマ続きあったよな?」
「うん?あるけど、まだ見るつもりかい?もう十一時半だぜ」
「どうせあと二話しかないんだろ、見ようよ」

仕方ないなあと嘆息すると、見たいくせにと返される。図星なので何も答えない。了承の代わりに隣に座る関口を膝に載せる。関口の腹の前で手を組むと、関口はデッキまで手が届かない。

「ぐ、うー…くそ、調子乗んなよ、中禅寺いやちゅーぜん☆JIのくせに」
「調子には乗ってないし人の名字を変な発音で呼ぶなよ。いいだろ、また明日で」
「や、だあ!今見たいーっ」
「子どもか君は。我慢くらいしたまえよ、たった5、6時間寝るだけじゃあないか。何が不満なんだ」
「寝たら忘れるから!ってか君も見ていいって言ったくせに!」
「駄目なものは駄目。これ以上画面と向き合ってるとまた頭痛に泣くぜ」

だから、と耳の後ろに吸い付いて痕をつける。
もうベッドに行こうと甘い声で吹き込めば、素直にこくんと頷いた。


「今日──榎さんに妬いただろ?」
「ち、違──ん、ぁ」
言い訳なら聞くぜ、と囁いて耳殻を舌で弄る。服に侵入しようとした手は阻まれた。
「こ、こわかった、んだよ」
「こわい?」
ふるふると小刻みに震えながら横を向く。中禅寺に背を向け、関口はぼそぼそと言った。

「君が離れていったら──ぼ、僕には何も残らない。全部を許して、認めてくれたのは君だけだから──」
なんということだ。
と中禅寺は密かに嘆息する。関口の自虐思考は、日常のふとした瞬間に不意に息を吹き返すのだ。

「え、榎さんなんかと比べられたら──、か、勝ち目なんて無いじゃないか。僕、僕は、その、君に見えるものすべてに、や、妬かざるを得ない──」

成程、それで。日中の態度にも得心がいった。
中禅寺は一人納得する。
「君の僕への評価は随分低いらしいね」
「ち、違う」
「それとも低いのは君の自己評価?でも君の自己卑下は、裏を返せば君を選んだ僕に対する不信感だろう。そんなに僕は信用出来ないかな」
関口は反論の言葉を失って黙り込んだ。否定も肯定も、辿り着く答えは同じ。
ベッドの中、関口を背後からぎゅうと抱いて、中禅寺は尚も言い募る。

「僕が君を選んだのは愛情なんかじゃない。そのことは君も善うく知っているだろうに。僕を君に繋ぎ留めるのは、僕のエゴと、×××だ」

昂っていく感情に反して、声は低く掠れ、音を失う。
溜息に似た吐息で囁けば、甘い歔稀が耳朶を擽った。厭だ、と関口は中禅寺の腕の中で身を捩る。
向き直った関口の瞳を、覗き込んで中禅寺は微笑んだ。

「だから僕には、君しか居ないんだ。」

黒曜石の瞳が揺れる。闇を切り取った硝子のような、この瞳が中禅寺は好きだ。

「…も、もう…これ以上、頭の中を、君でいっぱいにさせないで、くれよ…」

中禅寺の胸元を握り締め、服の皺を目で辿るようにしながら関口がこそりと言った。緩む口元を隠しもせずに、中禅寺は関口の頭を自分の胸に抱き寄せる。
「させるさ。僕以外のことを考えられないくらい、僕でいっぱいにしてあげる。だから、」
柔らかな短髪に鼻先を埋め、とびきりの甘い声で。

「僕の心も全部、君で埋め尽くしてくれよ。」


I'm yours,

you're mine.



Fin.
鮒目様へ。

H23.10.25.
H23.11.02.贈呈

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