「ど、ういう、これ、」


意味のない言葉を口から漏らし続ける私を、いくつもの顔が見る。子供の顔が。

全て、同じ、顔が。

最初、子供の1人が顔を上げたとき、あかりちゃんの姉妹なのだと思った。だから似ているのだと、薄暗い中ではそっくりに見えるのだと、思った。思おうとした。2人、3人、顔を目に入れていく度、その縋りたかった常識的な解決は粉々に砕かれていった。その場にいた7人の子供は、全員、私がさっきまで一緒にいたあかりちゃんと、同じ顔をしていた。


「な、なんで、いや……!」


同じ顔に見つめられる、根源的な、悪夢のような恐怖。やめてやめてやめろ見ないで、頭の中で本能的な自分が叫んでいる。今すぐ走ってこの場から逃げ出したい、恐怖心からも、冷静な判断としても、そう思うのに。足が動かない。関節が痛い。腕も足も。頭が熱いようでかき回されているようで上手く思考ができない。おねえちゃん? 恐怖で半泣きの私を、不審そうに、あかりちゃん――一緒に来た、オリジナル? の――が覗き込む。その両肩を掴んだ。今の私には一番確かな存在だった。


「ねぇこれなにどういうことなの? あの子たちは誰、何なのっ!?」

「なに怒ってるの? みんなあかりだよ? みんなあかりになって、ずっと一緒にいてくれるんだよ」


私を煽ったりからかったりしているわけではなく、本当に戸惑っているように、彼女は言う。なんでだ? おかしいのは私なのか? 何ひとつ意味がわからないのは私だけなのか? 


「なんで……なにそれ……意味わからないよ、全然わからない、」

「おねえちゃんにも言ったでしょ」


私より先に冷静さを取り戻したらしいあかりちゃんが、諭すような口調で言う。ものわかりの悪い生徒に言い聞かせるみたいに。


「『みんなあかりみたいな子供になって、ずっと一緒に遊んでくれたらいい』って」


ベッドの中で彼女と交わした会話が蘇った。言った、かも、しれない。でもそんなの、ただの戯言だ、言ったかどうかさえ忘れてしまうような、子供の戯言。願ったから実現するなんて、そんなことありえるわけないのに。


「おねえちゃんも、いいって言ったでしょ」


だってこんな、こんな想定誰がするっていうんだ、文字通り全く同じ姿、同じ存在になってって意味だなんて、そしてそれができるなんて、思うわけがない。わかってたら、いい、なんて言うわけない。頭に言葉は渦巻くのに、それが上手く口から出てこない。この子にわかるような表現が思いつかない。
そもそもわからせてどうなる? そっか、みんなを子供にするのは悪いことなんだね、じゃあ元に戻すね。なんてなるわけない。虚しくぱくぱく口を開け閉めする。


「ずっといっしょにいるって、言ったもんね?」


頭が。回らない。脳内が茹るみたいにあつい、かき回されてるみたいにグラグラする。脳だけじゃない、皮膚も、髪の毛の1本1本まで、あついようなかゆいような痛いような、気がする。朝から感じていた関節の熱のような痛みのようなそれが、体中に広がったみたいで、体が作り変えられてるみたいで。

こわい。

こわい? なんで?


「いいって、思えてきた?」


ずっとここで暮らす。子供になって。

それの何がいけないんだろ、と思った。余り始めた袖を、あかりちゃんと同じくらい、鎖骨辺りまでになった黒髪をいじりながら、考える。さっきから足元で断続的に鳴る音がうるさい。考えるジャマだ。マナーで鳴り続ける携帯を蹴飛ばした。ぶかぶかになった靴まで跳んで、あかりちゃんの1人が笑った。笑った。私も笑った。楽しい。もともとからいた、あかりちゃんが、私の顔を覗き込んで嬉しそうに言った。


「ほら、もう、」


ひとたび、何が悪いのかわからないって、思ってしまったら。私の体も意識も一気にとけて原型をうしなって混ざっていく。私。わたしって、なに? なんだった?


「おねえちゃんも、わたしだよ」


どうでも、いいか。






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