佐川組からの帰り道も、すんごい落ち込んで歩いたな。


そう思い出して、いっそう情けなくなった。そりゃ新入社員には失敗はつきものだし。誰だって、私この仕事向いてないかもとか、辞めた方がいいんじゃないかとか、一度は思うくらい失敗して大きくなるんだろうけど。私のしてる失敗って、なんかそういうのとは、次元が違うような気が。する。

身を守る力もないのに、中に入りたがって仲間に怪我させるとか。
説得力あるわけないのに、人に信じてもらえた気になって、怪我どころでない危機を招くとか。

何だろ、でしゃばりなのかな。私は。力も知識も何もないくせに、でしゃばるからダメなんだろうか。「自分で責任のとれない優しさなんて甘さでしかない」。神崎さんの声が耳に残っている。その通り、なのだろう。その通りだ、と思ったから、こんなに心を締めるのだ。私は甘いだけ、誰にでもいい顔したいだけ、なのかもしれない。


カツカツ、足音が遠くから聴こえる。この言葉を放った当人、神崎さんは、私が歩く片側一車線道路の、真反対側を歩いている。つまり2人連れが、車1台分のスペースを空けてそれぞれ塀沿いに歩いているわけで、傍から見たらかなり異様だと思う。ちなみに私は歩行者が歩くべき側を歩いているので、交通ルールに背いてまで私と距離をとっているのは彼の方である。

何だろう。話しかけてくれるなという意志表示なのか。連れだと思われたくもないとか。ありえる、と思うと申し訳なさに肩が竦む。

神崎さんが、もうこの子と働くのイヤって佐伯支部長に言ったら、私はクビなのかな。佐伯さんは自分が雇った私に責任を感じてそうだし、ホイホイ辞めさせはしないだろうけど、でも、やっぱり古株支部員の意見の方が大事だろうし。辞めさせられるのはやだな、と思う。でも嫌だと思う気持ちが、慣れてきた日本支部への愛着なのか、また就活するのが嫌ってだけなのか、よくわからない。

しかし車道を挟んで窺い見た神崎さんの横顔は、怒っているとか、呆れかえっているとかとはまた違う気もする。遠い目をして、考えているような、疲れているような(疲れさせた原因の一端が自分だと思うと、肩身が狭いのに変わりはない)。塀から張り出した枝の木漏れ日が、白い頬に、金の髪に落ちている。新緑の季節の、薄緑の影。陰翳がよりいっそう気怠げに、儚げに彩る横顔を見ているうちに、


「……なに、考えてますか」


我知らず、唇を動かしていた。

ゆるりとこちらを見る顔に、やはり疎ましがる色はない。それどころか私の存在さえ忘れていたように、声をかけられて初めて思い出したように何度か瞬きをする。何て言った? と問い返すように小首を傾げる。ちょっと意地悪そうに笑う表情ばかり見てきた彼の、無防備な幼い視線に少し胸が跳ねた。

足を1歩斜めに踏み出してみる。車は来ないし。やっぱりこんなふうに離れて歩くの、落ち着かないし。イヤならイヤと、言ってくれればいい。ちょもちょも道路を横断して、神崎さんの後ろに着く。首を巡らせ、視線で追いはしたものの、彼は何も言わなかった。また沈黙が流れる。2人連れが、2人縦に並んで、黙々と歩く。いや、これはこれで。気まずいわ。舌打ちでもしてくれたら走って反対側に戻るのに。







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