で、なぜか私も、タテコモリ現場に急行する羽目になった。のである。

なんで? って私が訊きたいわ。だって行って私に何ができると言うの? 言葉巧みに説得するのも、強行突入して何人だかわからない相手をふん縛るのも、当たり前にできない。ははぁさては律と神崎さんの素晴らしい手並みを見て学べってことだな? と思ってみたものの、


『あ。それいいね。連れてってイイ?』


という声には明らかに、「この何も知らない新人を何かに利用してやろう」という考えがにじみ出ていた。いや、私に利用価値があるなら喜んで使われるけど。私に多大な不利益が出ない場合のみだよ。そして神崎さんは平気で「じゃあとりあえず君が囮になって」みたいな、多大な不利益が出る提案をしてきそうだよ。

不機嫌王子が「朝食べてないから低血糖でしんどい動けないもう行きたくない」とのたまったのでパン屋に寄った、せいで、現場到着は大いに遅れた。マンション前の路上は避難住民とパトカーに溢れ、いかにもものものしい雰囲気で思わず唾をのんだが、緊張しているのは私ばかりに見える。律と神崎さんは堂々とパトカーの群れに近づき、頭を寄せて話している制服警官たちに臆せず話しかける。立て篭もり対策会議に乱入してきた若者2人に一時場はざわついたが、彼らが身分を明かしたのか、すぐに資料みたいなものを一緒に見始める。混ざるべきなのか迷っているうちに、制服警官ズの輪から戻ってきた神崎さんが、当たり前のように私に差しだしたのが、


「……何ですコレ」

「拡声器。正式にはトランジスタメガフォン。マイクロフォン、増幅回路、トランペットスピーカーで構成した、音声を増幅して出力してくれる機械だよ。ていうか重いから早く受け取って」

「いや、知ってるし。後半は知らないけど。これをなんで差し出すの? っていうことですよ。それがわからないと受け取りませんよ」


私も一応彼らの傾向対策を多少学んできたわけで、ここでこれを受け取ったが最後、何かを承諾したことにされそうな悪寒がするのだ。神崎さんはそういう人である。両手を後ろに回し、受け取らない意志表示をしたら舌打ちされた。やっぱり何かさせようとしてましたね。


「一応相手も人間だし。話も聞かず一方的に叩き伏せた、ということになるとマズいらしいのね」


一応って。そんな悩ましげに髪をかき上げながら「叩き伏せる」とか言わないでほしい。ていうかやっぱり、律と神崎さんだけで立て篭もり犯を叩き伏せることは可能なの? そういうポテンシャルなの?


「で、ここからこの拡声器で犯人に投降を呼びかけてほしい、ということなの。でもまぁ、やりたくないじゃない? このギャラリーよ? 一挙一動が注目される中で、気の利いた説得をするだなんて至難の業じゃない?」

「自分たちだって嘘予告だと思ってるからこっちに任せてきたくせにさ。完全には任せてくれないで人のやり方にグチグチ注文つけてきて、鬱陶しいったらないよね。犯人の説得を快く引き受けてくれる新人がいなければ、もうキレて帰ってたところだよね」

「い、いや。いやいや」


オーケー1回話を整理しよう。このマンションに立て篭もり犯がいて、爆弾を仕掛けたと言っているが多分嘘である。なのでさっさと突入して捕まえたいが、万が一爆弾が本当だったりして甚大な被害が出た場合、「強行突入がこの結果に繋がった」とされるとマズい。ので、一応説得を行い、「一生懸命呼びかけましたが膠着状態が続いたのでやむなく突入しました」と、したい。

おお。察しも要約能力もひどい私にしてはいいまとめじゃないですか。

ただ問題はアレだね。なんだか2人ともその説得を私にやらせようとしてることだね!






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