「おはようございまーす」

とりあえず時間を朝に遡る。
数日前のチンピラ×5絡まれ事件後、私の出勤定時は9時になった。30分以上連絡なしに遅れたら過保護心配性支部長から電話がかかってくるので、二度寝・寝坊癖がなくなったよ! やったね!

9時に行っても、大体佐伯さん・刃心くん・律の3人は揃っている。刃心くんなんかすでにソファで眠っている。住み込みかと思ったがそうでもないらしく、わざわざ家を朝早く出てきて、職場で寝ている。それが許されている。カオスである。

さらに型破りなのは神崎さんで、まずこの人には週3、4回しか会えない。前佐伯さんの言っていた「休みすぎだと上から注意がくる」に該当するのでは、と思ったが、「正当な病欠なので、上にはなんとかごまかしている」らしい。まぁ見るからに病弱そうだし。そしてその週3、4回の出勤も、昼過ぎくらいにのそのそ来るのが普通……だったのだが、今朝は珍しいことに私の数分後にいらっしゃった。くっしゃくしゃの髪とひどい顔色と、必要がなければ話しかけたくないような不機嫌面を携えて。


珍しく朝から全員集合している支部内に向かって、窓辺に立った佐伯さんが、


「立て籠もりが発生しているそうです」


と、世間話のように言った。

タテコモリ。目出し帽の男が、銀行内で天井に空砲を撃つ姿が思い浮かんだ。タテコモリ。はぁそりゃ大変だ。でもちょっと野次馬根性が。ニュース見たいなあ。
それだけのことを思う間、別に誰も何も言わなかった。周りを見渡せば刃心くんは夢の中なので、それ以外の3人に向けられた言葉なのだろう。誰も何も言わないので、はぁ、大変ですね、と間の抜けた相槌を打ったら、にっこり笑われた。いや。かっこいいけども。


「大変ですね。ぜひ解決に行きましょう」


だから! そういうのは、「便利屋や興信所めいた仕事」の域を超えてる!


「そんなの、むしろ私たちが請け負っていいのかしら」

「マンションに爆弾を仕掛けたと言ってるそうなんですが、」


爆弾?
肝が冷えて、不謹慎な浮つきを恥じた。さすがに刃心くんも薄く目を開けて、眼球がこちらに向くのが見える。が、アイパッドだかスマフォだかを操作していた神崎さんは「たかがその程度のことで自分が朝早く呼び出されたのが我慢ならない」と書いてあるような渋面で、嘘でしょ? と冷めたふうに尋ねる。


「はい。非常に信憑性が低いと判断されたので、現場付近の君たち行ってみてくれる? と」


なんて軽いんだ。私が知らないだけで茶飯事なの? 魔都東京コワイ。不審げな顔をしていたりっちゃんが軽く頷き、そう、誰が行くの、と仕事モードで言う。爆弾発言(文字通りだ。初めて文字通りの意味で「爆弾発言」って使った)が嘘だったとしても、一応立て籠もり現場であるのは事実なわけで、そこに行くのに何の抵抗もない、のかなぁ。ヤクザの事務所に正面から殴りこめるぐらいだから、それより少数であろう立て籠もり犯なんてヘノカッパみたいな感じなのか? いやでもりっちゃんは20そこそこのうら若き乙女だし、さすがに彼女を行かせたりは、


「今考えてるのは中山さんと、」


したよ! 20そこそこのうら若き乙女、立て籠もり犯と対決しに行かせたよ!
しかしりっちゃんはわかったわ、と軽く了承し書きかけだった書類をまとめだす。い、いいの? 恐くないの?


「神崎さーん」

「ヤダよ……対話しない人間に会いたくもない……」

「話し合う気もない人間だから貴方なんですよ。貴方の大好きな『適材適所』ですよ。ていうか朝呼ばれたときから薄々わかってたでしょう」


しかも相方は神崎さんらしい。あの、神崎さんって私が言うのもなんだけど、超弱そうなんだけど。ガリガリだし。顔色悪いし。週4ペースで病欠だし。佐伯さんと刃心くんは先日のアレでそれなりの物理的強さが証明されたけど、この2人の戦闘力は未知数である。
女の子+病弱男VS立て籠もり犯(人数・装備不詳)。不安すぎるカード。あっもしかして2人とも凄腕ネゴシエーターだったりするの? 力じゃなく言葉で解決する感じ?


「あ、あの、おふたりで行くんですか? 立て籠もり現場にですか?」


さすがに、我がことではないながら不安が拭えず、デスクに戻りかける佐伯さんに言うと、え、行きたかったですか? という謎のキラーパスを出された。なんでだよ! 行きたくねえよ! 職場にもう少し馴染んでたら頭をかきむしりながら三村ばりのツッコミを披露したところだが、そうじゃなくて、と曖昧に笑って濁そうとする、


「あ。それいいね。連れてってイイ?」


のを、遮られた。低血圧不機嫌王子の、邪悪な企み声に。






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