ぺしんと弱い音とは裏腹に、彼女の声ははっきり空気を震わせた。


「え?」


と言う私の声はバカみたいに響いた。セーラー少女は私を――さっきまで背中にすがりついていた私を――青白い顔ながらも意志の強い目で、睨む。壁にもたれかかった刃心くんを不気味そうに見つめ、振り払われた己の手を見つめている佐伯さんを嫌悪に満ちた目で、見る。
え? どういうこと? 何が起こってるの? パニックなのはわかるし。今出てきた、武器持ちの佐伯さんのこと、すぐに味方って信じられないってのなら、わかる、けど。「味方と信じられない」どころか、明確に「敵」と見なしてるような。この状況は何なの?


「警察が使っている、若者ばかりの武装組織」


たどたどしい口調で、彼女が言う。武装組織、なんて、中学生だか高校生だかの子の口から発せられるのはものすごく違和感がある。しかし、彼女の次の言葉はもっと私にとって衝撃的だった。


「超能力者でしょう」


何の感情も読み取れないふうに、振り払われた手を見つめていた佐伯さんは、ここでようやく少し目をすがめた。彼のこの顔結構恐いのだが、彼女は臆さず睨み返す。なに、それ。と思わず口が動いたのは、彼女のあんまりな行動が頭にきたから……だったのだが、声には憤慨より当惑が色濃くて迫力がなかった。


「人に害を及ぼす、閉じ込めておくべき、人種」


だって、私がいまだに微妙に信じきれてない超能力を、偶然会ったこの子は知っている。ごくナチュラルに受け入れて……はいないからこんなこと言うんだろうけど。もしかして私が知らないだけで、超能力は密かに世の中に浸透していたりするの? 知る人ぞ知る、みたいな? はは、そんなまさか、と胸のうちで笑い飛ばしてみるもののその胸の底がざわざわと落ち着かない。

一連の流れも少女の敵意も張りつめた空気も一向に気にならないらしい(もはやすごい)刃心くんが、退屈したようにゴキゴキ首を鳴らし、それをしおに長いこと跪いていた佐伯さんも立ち上がった。その動きを追って首を反らす彼女の、きっとした瞳とは目を合わせず、


「では本物の警察に保護してもらって下さい。場所を伝えておきます」


とだけ言った。その声に、例えば震えとか何か取り乱した様子だとかを探したけど聞き取れなかった。ただ疲れたような、うんざりしたような色が微かに感じ取れるだけで。

そりゃあ怒られても泣かれても、私にはどうしていいか、どんな言葉をかけていいかわからなくて戸惑うだけだろうに、なぜかそうしてほしかったように思えて仕方がなかった。





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