act.07 サマータイムレコード | ナノ

act.07



「私たちが殺されるぅ!?何考えてんのあのくそオヤジぃ!!」

貴音の悲鳴のような声に思わず苦笑を浮かべる。蛇を抜かれれば死ぬのはここにいる全員に一致している弱点だ。
走る間にカノが自分の持っている情報を告げていく。マリーが蛇の女王であることも。そしてそんな重要なことを黙っていたカノに対しキドは一か月間風呂掃除の刑に処していた。その言葉にカノがどこか嬉しそうだったのは気のせいではないだろう。




螺旋階段を下っていく中で貴音を呼び辛そうにしていたモモに対し、エネで良いと言ってくれたので私も便乗させてもらった。
そしてモモちゃんが、エネにコノハと話をしなくてもいいのかと聞いていたがあまりの違いように戸惑っているようだ。
ちなみにあなたもエネと貴音でかなりキャラは違う。

「しょうがないでしょう!?あれになってるときはめっちゃ気分良くなってるんだから!!」

うん、ごめんね。傷をえぐってる感が半端じゃないや。

「そういや、あいつ来てないの?」
「そういえば見てないっすね」
「な、なんか予想付きますけどね…。お兄ちゃんヘタレだし」

モモの言葉に皆で苦笑を浮かべてしまう。フォローの入れようもない。

「いや、どうかな。何か知らんがあいつは来そうな気がする」
「そういう展開好きだからでしょう?全員集合!みたいな」
「別にそういうわけじゃ!」

キドの言う通り、彼は来るはずだ。こちら側の切り札を携えて。
すると前方を走っていたモモが声を上げた。

「団長さん!前!!」

言われた通りに前を見れば拳銃を構えた男たち3人。殺意高いよ…。

「全員止まれ!両手を上げて大人しくしろ」

と言っている間にコノハが彼らの目の前に立っていた。そして一瞬のうちに伸してしまった。

「ぅえぇ!?いきなり突っ込む!?普通!?」
「やっぱりあれ遥じゃないぃ…」

よ、容赦ないわ…。
思わず視線が遠くを向いた。

「どちらにせよ、ここで止まるわけにはいかんから、な」

キドがコノハの横にたどり着いた瞬間、残っていた男たちは私たちを見失ったらしい。キドの能力だろう。

「危ない!後ろだ!!」

男達の中で一番後ろにいた奴が突然叫んだ。
それに反応し、振り返るがいたのは紛れ込んでいたカノ。

「奪う!」

そして入れ替わるようにモモが視線をマリーに向くように目を奪った。

「合わせる!」

最期はマリーが目を合わせたことでフィニッシュ。

「よーし、いっちょ完了」
「見事なお点前で」

固まっているのを不思議がるようにエネが男の顔をつついているとカノが困ったように声を上げた。

「いやー、エネちゃん何もしてないじゃん、あとセイハちゃんとセトも」
「しょ、しょうがないじゃないっすか!俺の、そういう感じじゃないんすから」
「いやいや、私はやれなくもないけどどう考えても過剰戦力でしょう?オーバーキル良くない」
「言うようになったね、セイハちゃん」
「すっきりしたんで」

私やセトに続けてエネも弁明をする。

「私だってこういう野蛮なの苦手だもん。か弱い女子だし?」

と言った傍から気絶したと持っていた男がエネを抑え込んだ。それに対しめちゃくちゃ抵抗するエネ。更に暴れないようこめかみに拳銃を突き付けられたがエネの体からガクン、と力が抜けた。
それを見て今のうちに耳を塞いでおく。
何やら通信機に変な音声が入ったようだ。男は通信機に気を取られている。

しばらくの間の後、めちゃくちゃでかい音がその通信機から響き渡った。
それをもろに食らった男はもちろん平衡器官をやられ座り込む。転がった拳銃を握ったエネは、閃光の舞姫の名に恥じない見事な制御で男の腹部の服や靴などをぶち抜いた。

ちなみに全員引いた眼をしたのは仕方のない話だと思う。






その後しばらく走り続けるがなかなかつきそうにない。次を曲がったところがあいつの…と言っていたカノだがあったのは壁だった。

「壁だな」
「壁ですね」
「壁じゃん」
「壁」
「壁だねぇ」

冷や汗をかきながら弁明タイムに入ったカノ。
最終的にマジ謝りになった。ちなみにエネは入れそうなところも電波もないとのことで能力は使用できない。
そしてカノがひらめいたのはヒビヤの能力が千里眼ではないか、という事。

「それ使ったら一発じゃん!早く使ってよ」

エネがヒビヤの頭を撫でながら言うとヒビヤもやる気を出したらしい。集中し始める。が、気合の入れ方が失敗しそうな感じである。そんなことを小声でセトと話す。

「聞こえてるよぉ!!」

セトと私のやり取りとそれを諫めたモモちゃんの声にキレ気味で反応するヒビヤ。マリーにはむくれられてしまった。ごめんね。
その後、のぞき見し放題とか、女湯、とかぬかしやがったカノとヒビヤは思い切りモモちゃんに殴られていた。

「冗談だって…」
「い、たった…」

頭を押さえつけていたヒビヤの動きが止まる。どうやら見えたようだ。

「見えた!!真下!ここの真下になんかテレビだらけの部屋がある!」
「本当か!」
「おおー!そこだよー!いやぁ、やってみるもんだね」

お前は反省しろ。

「でも真下って言ってもどうしたら…」

エネが考え込んでいるうちにコノハが動き出した。

「あ?あんた何やってんの?」

床を触っていたコノハが拳を振り上げる。

「まさか…」
「真下」

ひびの入る床。皆で思い切り悲鳴を上げた。




なんとか全員無傷でたどり着いた先は大当たり。楯山ケンジロウがモニターの前に座ってこちらを見ていた。実際の中身は冴える蛇なわけだが。

そしてつらつらと告げられる昔ばなし。小さな化け物が、幸せな世界を、大好きな友達と再び会う世界を望むがゆえに繰り返される悲劇の話。

「願いが叶うと、蛇である俺の精神は消える。かと言って願いを放棄することなどできない。ならばどうするか、馬鹿なお前らでもわかるよな?」
「願いを叶えずに何度も繰り返す」
「ご名答」

カノの返答に満足気に笑ってから、ケンジロウはガチャリと音を立てて黒光りする拳銃をコノハに向けた。

「そういやお前も俺と一緒だよな?お前の主の願い事ももう叶っちまうだろう?友達と過ごしたい…だったか?どいつもこいつも馬鹿みてぇに同じようなことばっかり願いやがる。お前、もう消えるぜ?」

皮肉を多分に含んだ笑みに狂気を感じ、ケンジロウをどうにかしようと相談する。その一瞬の隙にエネに向かって銃弾が放たれた。
それを飛び出したコノハが庇い、腹部を抑えながら膝をつく。

マリーの悲鳴が響く中、近づいてきたケンジロウから現れた蛇がコノハを包み込んだ。

「コノハ!!」

思わず叫ぶ。
コノハはもがきながら黒で塗りつぶされ、それと入れ違うようにケンジロウは倒れた。
依り代を変えたのだ。

「な、なんなの…?何が起こってんの?これ…!」

貴音の声のあと、現れたのはコノハの2pカラーのような男だった。いわゆるクロハだ。

「ハハハ、やっぱこいつの体は最高だぜ」

彼はケンジロウの持っていた拳銃を拾い上げる。

「こんなものに頼らなくても、お前らを嬲り殺すことが出来るからな」

そりゃそうだ、身体強化の能力を持つ、醒める能力の肉体なんだから。
震える声でマリーが尋ねた。

「さ、さっきのこ、コノハ君はどこに…?」
「消えたよ、きれいさっぱり跡形もなくなぁ!」

返ってきた返答は非情な現実だった。
そして次の瞬間、真っ先に気付いたキドが声を上げる。

「皆!今すぐ離れろ!!」

しかし次の瞬間にはキドの腹部にクロハの重すぎる拳が入り、異常なほどに吹き飛んだ。キドはその先にあった水槽に叩きつけられ水槽は砕け散り、中にあった水がキドを飲み込む。

「団長さん!!」
「キド!!」
「おまえぇ!!」

怒りから我を忘れて突撃したカノは何か障壁のようなものに阻まれ、吹き飛ばされる。その直後、マリーを守っていたセトの首を掴み上げるクロハ。再びマリーが悲鳴を上げた。

「フィナーレだ女王。さあ、もう一度楽しい日々へ戻ろうじゃないか」
「ま、まりぃ…」
「さぁ!!」

クロハに煽られ、マリーの力が暴走する。モニターや施設が爆発し、セトの声は届かない。

「マリー、ちゃ…」
「駄目だ、マリー…」

マリーに呼びかけるが、皆の蛇は抜き取られていく。

「はは、ははは!そうだぁ!それでいい。もう一度初めから繰り返すんだ。終わることのない、最っ高の悪夢を!!」

セトの蛇がマリーの元に戻った瞬間、マリーが絶叫を上げ、世界に亀裂が生じた。

「やだ、終わらせたくない。みんなと一緒に過ごしたい。もう一度…、もう一度…!!」

泣きながらそう叫ぶマリーに最初に声をかけたのはやっぱりセトだった。

「マリー、大丈夫っす。怯えなくても」

痛いであろう身体を起き上がらせながらキドやカノも言葉を紡ぐ。

「そうだぞ、マリー。俺たちはずっと一緒だ。さよならなんてするわけないじゃないか」
「そうそう、あいつのいう事なんて、聞いちゃだめだよ」

モモはエネに肩を支えられながら声を張り上げる。

「みんな一緒だよ、だから大丈夫」

クロハが戸惑いの声を上げる。時間が戻らないことに動揺を隠せていないのだ。
代わりとでも言うように、部屋の明かりが少しずつ消えていった。その先に見えたのは、二つの赤。

「シンタローが教えてくれたの、私の力を。人に心を伝える力だって。目を掛ける、あったかい力」

アヤノが確かに、そこにいた。

「最後の蛇!なんでこんなところに!?それにお前が!なぜそんなことを知っている!?」
「お前に奪われた、全部の世界の記憶だ。ずっと前の世界の俺たちが隠した。マリーに生まれたこの力を」
「何だと!?そもそもそんな大量の記憶をどうやって再生すると…」
「生憎だったね。まさか、記憶消去の能力を記憶操作の能力にマリーが作り変えてるなんて思わなかった?」

ゆっくりと歩みを進め、アヤノの隣に立つ。そう、私の能力は最初は消去だけだった。でも、焼き付けたものを再生する機能が必要だと気付いたマリーとシンタローは私の能力を作り替えたのだ。まあ、そんなことを知ったのはついさっき、ソラが名前を教えてくれた時だったりするのだが。

「…っ邪魔を!するなぁぁぁぁ!!」

飛び掛かってきたクロハは何かに押し付けられるように地面にはいつくばる。
遥が押さえつけてくれているのだろう。

「くそが!全ての蛇が揃ったところで…今の女王に操れるわけが…!」
「俺のすべての記憶、全てはこのためにあったんだ。セイハ!アヤノ!」
「うん、全部読み上げるよ」
「大丈夫、全部伝える」

目の奥が熱くなる。大丈夫。もう、彼女はいないけど、使いこなせる。だってこれが私の本来の力の使い方だから。

「やめ、やめろぉぉぉぉ!!」
「来い!」







その後、カゲロウデイズの中に入った私たちはクロハの最期を見た。命の代わりになって消滅する彼の最期は、存外あっけのないものだったように思う。
そして、暑い暑い夏の日は、まだもう少し続く。

「皆遅いねー」
「ねー」

アヤノと二人、並びながら笑い合う。あの時はこんな日々が返ってくるとは思ってもみなかった。大好きな親友と、また肩を並べられるとは思っていなかったのだ。

「わり、遅れちまった。…って、お前らだけか」
「へへ、あれ?そっちこそ一人?」
「ああ、モモの奴は準備に時間が掛かってるとかで、先に行けとさ」
「女の子だねぇ」
「いいなぁ、妹。可愛いよねぇ」
「生意気なだけだぞ」
「つぼみはいい子だよぉ」

方や嫌そうな、方や嬉しそうな表情で告げてくる対比っぷりに笑う。

「しっかし暑いな…」
「んへー、真夏日だもんね…」

汗をかきながら三人でアヤノを中心にベンチに座る。木陰がある分マシではあるがそれでも暑いものは暑い。

「マジきっちぃぜ…帰りてぇ」
「えーもう?まぁたそんことばっか言ってー」
「貴音さんに怒られるよー」

それはめんどくさいというシンタローにまた笑う。

「そういえばセイハには兄弟いたっけ?」
「ん?あぁ…」

言葉を紡ごうとしたとき、貴音さんの声が響いた。

「おーい、なぁにハーレムしてんだー?」
「ほーんと、こんだけ暑いってのに、勘弁してほしいよねぇ」
「うぇぇ?そんなんじゃないってぇ!ね?セイハ!!」
「そうだねぇ、どっちかって言うとアヤノとシンタローがいちゃついてたね」
「セイハぁ!!」

むくれるアヤノをおいてみんなの方へ向かう。アヤノはシンタローを呼んでから私に追いついた。

「そう、さっきの質問だけど」
「ん?」
「いたよ、暑い暑い夏の日に出会った、優しい優しいおねぇちゃんが」




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