act.03 カイエンパンザマスト | ナノ

act.03


ゆっくり目を開ける。

「…知らない天井だ」

体を起こすと見慣れない部屋なため少し戸惑う。

「蛇?」
【なんだ】
「状況分かってるんだよね?教えて」

尋ねると溜息をつきながらも教えてくれた。

【シンタローを庇って撃たれたのは覚えているな?残念ながら、あの後あいつも別の奴に打たれた。まぁ予定調和だろうな。で、結局二人そろってメカクシ団の奴らに治療がてら運んでもらってここにいるって訳だ。わかったか?】
「…そう」

頑張ってみたが無駄だったようだ。
少しながらショックを受けていると再び蛇の声が響いた。

【……私は命を無駄にするような奴が大嫌いだ。他人を助けたいなら自分も生き残れる方法を探せ】
「…っ蛇だって」

感情が高ぶって蛇を責めようとするが続きが浮かばなかった。なぜか彼女も同じように自分の命を雑に扱った時があったように思ったのだ。
言葉に詰まっていると突然近くで悲鳴が上がり思わず布団を払いのけ、声のもとに走る。

「大丈夫!?」

走りこんだ先で見えたのは縛り上げられたシンタローだった。つまりあの悲鳴はマリーだったのだろう。

「…えっと、通報する?」
「お前までやめてくれ!!」

その流れで始まった突然の仲間の恥さらしゲームは、キドがカノに蹴りを入れたことで終了。しかも、秘密を聞いてしまったという事で私とシンタローもメカクシ団に入団することになった。私自身は大歓迎なのだがシンタローは動揺で頭が回りすぎてしまっているようだ。頭が良すぎるのも考え物だよね。ちなみに私は怒涛の展開に微妙に頭が付いて行ってなかったりする。
あと、ついでと言っては何だが、私はメカクシ団のコントのようなやり取りやマリーとセトのほわほわ空間が、生で見れるなんて昔は思ってもみなかったから少し感動してしまっていた。
まだヒビヤとコノハとは会えていないが全員が集まる日が楽しみで仕方がない。






遊園地へ行くはずだった予定は、シンタローが先に飛び出してしまったことで変更となった。日が昇る中、フード集団は道を歩く。

「セイハさんは予定とか大丈夫だったんですか?」

モモに問われて頷く。

「私もたまには遊びたいからね」

受験生だけど…。今日という日を逃す方が余程損をする!

その後、メカクシ団がどういう集まりなのか、マリーが入団した経緯等を話したあと、初代団長についての話題が出る。ふと、2年前の彼女の笑顔が頭をよぎった。
赤の似合う女の子。

「どんな方だったんですか?その人」

エネの質問にカノが考えるように夕焼け空を見上げた。

「んー…馬鹿みたいに、良い人だった、かな。怒るとすっごく怖かったけど」

茶化して言うカノに対しキドが冷静に突っ込む。
昔よく怒られていたという事からか、寒気がする、と腕で体を抱きしめるカノの姿に思わず笑いがこぼれそうになる。

「そんな怖い人だったの?」
「そうだな…強いて言えば、強い人だったかな」

そう、強くて優しくて、そして…

「セイハ?どうかしたのか?」

キドに話しかけられ頭を横に振る。

「なんでもないよ。少し、思い出していただけ」






【赤の似合う女の子、か】

宿主たちの会話についこちらも引きづられてしまった。何でこうも赤い色の似合う子ってのは強いんだろうね。…そして、

【馬鹿みたいにお人よしなんだろうな】

結局あいつが中心にいるからあのメンバーはまとまっていた。私はあくまであの子たちの戦う理由になっただけなのかもしれない。

【いや、違うな。全員が全員、戦っていたんだ。だから強かった。全員でちゃんと一つの部隊になれていた】

きっとあれは誰か一人でも違う人間がいたら成り立たなかった。私が生きて終わることはできなかっただろう。身内贔屓上等だ。あいつらは全員が〈オレ〉にとってのヒーローだったんだから。

そこに居られたのが〈オレ〉だったことだけが少し、気に食わないが。

【それを選んだのは私なんだけどもね】

それでも、人の心と言うのはままならないものなのだ。







「如月です。歳は16歳です。如月です。歳は16歳です。…」
『妹さん、緊張しすぎですってば』
「だってぇ…初代団長さんだよ?失礼があったりしたら…」
「そんなに固くなられちゃ、相手も困るって」

がっちがちに固まっているモモちゃんの背中をさすってやる。

「だーいじょうぶだってー。如月ちゃん、そんなに緊張しいじゃあライブとか大変なんじゃないの?」
「毎回、出番前は吐きます」
「…なんか、ごめんね」

アイドルの衝撃的事実にカノは一瞬固まり、誤魔化すように笑った。

「私も練習しとこ。如月です。歳は16歳です。如月です。歳は16歳です」
「…お前、それ意味ないぞ」

なぜモモちゃんの紹介をしているのか…。かわいいけども。





しばらく歩けば目的地にたどり着いた。私も何度も来た、親友のお墓。
マリー、モモの順に挨拶するがモモは見事に噛んだ。本当に兄と同じで緊張しいだ。

「ここでミスるの!?」

それな。と思わず同意しながらも墓前にしゃがむ。

「…久しぶりだね。ちゃんと、約束を果たしに来たよ」

その言葉に全員首を傾けるのに笑いながら皆に向き直る。

「改めまして、初代団長と縁があってNO.iやってます。間宮セイハです」

生ぬるい、夏らしい風が吹いた。




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