標的10 それぞれの道 | ナノ

標的10



「お世話になりました」
「ご迷惑おかけしました」

見送りに来た祈や葵たちに対して空港で挨拶する。

「今度はどこへ行くの?」
「本部に戻って辞職届だして、ボスに殴られて、特攻隊長に三枚卸にされて、王子にナイフ刺されて、赤ん坊にお金たかられて、おっさんボコり返して、オネェと料理してから地元に帰るよ」
「思ったより忙しいね…」

誰が誰だかわかったらしい沢田たちは苦笑いをしている。本当にこいつ、ヴァリアーの幹部候補だったんだなぁ、と改めて思いながら私も笑って聞いていると蒼禅は?と山本に尋ねられた。

「私も、挨拶して、辞職届出して雲隠れ。もう、二度と会う事はないと思うよ」
「裏社会にいた人間がそう簡単に隠れられると思わない方がいいぞ」

獄寺の言葉にうなずく。幼いころから社会の暗い部分を見てきた彼の言葉は重い。
だが、はっきり言って私達にはもう関係のない話だ。

「いろいろと伝手はあるんだ。もう、俺も皆と会う事はないと思う」
「そっか。短い間だったけど楽しかったよ」
「私も楽しかった!…あ」

祈が突然声を上げた。何事だと首を傾げると今度はうーん、と悩み始めてしまった。何なんだ。

「…あー、ソラさ…ケンスケ兄ちゃん…我孫ケンスケって知ってる?」

予想外な名前が出てきて驚く。珍しすぎる苗字だ。そう簡単に同姓同名が現れるとは思えない。

「中学の名前って…」
自分が通っていた学校の名前を言うと肯定が返ってきた。

「…彼は、元気にしてた?」
「うん。元気そうだったよ」

ああ、ああ、無事だった。本当に生きていた。
泣きたい気持ちになるのをこらえる。

「…ありがとう。その言葉を聞けただけでやっていける」
「う、うん?」

そろそろ時間が近づいてきていることに気付き、改めてお礼を言って歩き出す。
先ほどは本部に顔を出してからいくと言ったが本当は違う。
イタリアについた瞬間、私達は消されるだろう。そういう物語だから。

どちらにせよ、ホムラはリングの影響をモロに受けているし、私も実は影響を受けていたらしい。この状態のまま世界を渡ることは危険であり、一度肉体を捨てる方が安全だと判断された。物騒な話だが世界が変わるから魂を移し替えることくらいは造作もないとか。普通に怖い。

「さんざん殺して来たっていうのに、いざ自分が殺されるとなるとやっぱ慣れないね」
「むしろ死の経験がある方が恐怖増えないか?」
「言えてる。…そっか、ソラちゃんも死んだことあるんだっけ?」
「しかも自分に殺された経験もある」
「その辺ホント詳しく教えてくれない?情報が錯綜しすぎてわけわかんないよ」

必死に尋ねてくるホムラに笑いながら彼の前を行く。

「そういえばホムラ、自分の事ちゃんと褒めてあげなよ」
「ん?」
「16年とその前と、よく頑張りました」
「……待って、惚れそうだからやめて」
「うわ、ロリコン?」
「台無しだよ」

思わず声を上げそうになるのをこらえているとふてくされたような声が聞こえたが無視する。そしてぽつりとつぶやく。

「…アリスに会ったらよろしく伝えておいて」
「うん、もしソラちゃんが先に会ったらその時はよろしく」
「ああ」

互いに違う場所へ向かう。行先は同じでも、タイミングはずらした。一緒に動くには不自然な組み合わせだから。
これでもう、私が任務を終わらせるまで彼に会う事はないだろう。

「またね、赤」
「健闘を祈るよ、蒼」

そうして私たちは人ごみに紛れていった。










「ご苦労じゃったの」

からからと風車が廻る境内で真っ白な着物の少女の声が響く。

「オレはオレがやりたいことをやっただけだ」

随分と長くなって邪魔な白い髪を払いながら答えると着物の少女…白華は苦笑した。

「ふふ、そうか。それにしてもよく気付いたの。蒼がリングに呪われていたこと」
「自分の事だからな」

初めてこの世界に『私』が落ちた時、夢の中で遭遇したものがリングの呪いだ。あの時は小烏が見せないことで完全に取り込まれることを防げたが残滓は残っていた。赤葉は見てしまったがために呑まれたのだろう。

「お主は変わらず放浪の旅か?」
「…あいつが行くところに行くだけだ」

どうせオレ達は離れる事なんてできないのだから。







「して、蒼。感想は?」
「ヒーロームーブ面倒ですね」
『はっきり言いますね、蒼』

白華様とお狐ちゃんに苦笑された。だが事実だ。
普通に考えてまず行動が制限される。情報がものをいうため拘束される時間が長いのは何かと面倒だ。それなら自由に足のつかないように動き回りたいのが本音である。

「そのあたりは好きにしなさい。だが、無理はしないように。今回はあくまで特例であって本来死亡処理は出来ん。注意してくれ」
「はい、わかっています」

私の答えに白華様は頷き、お狐ちゃんを手招きした。

『今回の件、赤が黒狐に憑かれたのは異物が二つあったことが原因でした』
「リングは確かに二つあったが、それが?」
『いえ、あのリングは二つで一つの異物です。それよりも前にあの世界に来ていたものがいたんです』

その言葉に驚き目を見開く。

「そんなことがあるのか?」
『ええ。しかも、その異物は何者かによって除去されていました。本来赤が除去する予定だったものが別の存在によって除去された。それにより、彼にかかっていた結界が強制的にはがされ、呪いの影響を強く受けてしまったようです』

一体だれが…。そう思った時ふと浮かんだ人物がいた。

「マサヤさん…」
「マサヤ?」
「はい。…異世界の人間だとは思ったんですが、嫌な感じがなかったので逃してしまって」
「蒼狐から報告は上がっている。そうか、マサヤ…」

顎に手を当て考え始めた白華様だったがすぐに居ずまいを正した。

「その者の事はこちらで調べておく。蒼、お前にはまた次の世界で異物の除去を頼まれてほしい」
「はい」

さて、次はどこに行くのやら。
少し楽しみに思えて思わず笑った。




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