オレと私が再会したのは私が護衛対象と接触した後、買い出しに行ったときにまで遡る。
夕暮れ時はどうにもセンチメンタルになって嫌だ。思わず溜息を吐きそうになった瞬間、右手にかかっていた重さが軽くなり驚く。
「っな…」
「よう」
なじみのある体格の自分そっくりな白髪の女が私の買い物袋を持っていた。
「お、まえ…何で」
「なんか迷子みたいな顔してたから」
何を企んでいるのかと一先ず睨みつけるが気が抜けて肩をガクッと落とした。
『オレ』がそこまで深く考えてるわけがないんだよなぁ。
「おや、あっさりしてるな」
「…精神的に不安定になっていたのは事実だからな」
「珍しくしおらしいじゃないか」
周囲から見ればただの姉妹だ。『オレ』の方が姉に見えてしまうのが悔しくてたまらないが今は仕方がない。
「それで、何の用だ」
「少々厄介なことになっていてなぁ。今回だけ、手を組まないか?」
「それによって生じる私の利益は?」
「利益、と言われるとないかもしれないが、手を組まないことで不利益は生じるだろうな。例えば、元の世界に帰れなくなる、とか」
その言葉に『オレ』を見上げる。その目は細められているが嘘をついているようには見えない。自分の事だ。一番わかる。
「何でそんなことが言える?」
「赤葉ホムラが黒い狐と接触した」
「……お前、知ってるのか?あの狐の事」
「あぁ、見ていたからな」
KHの時、黒狐に憑かれた少女と私の戦いを高見の見物していたわけか。
「趣味が悪いぞ」
「それ、ブーメランになるってわかってるか?」
そうだ、こいつ私だからブーメランじゃん。
はー、と思い切り溜息を吐いてから尋ねた。
「それで?どうする?」
「何をすればいいんだ?」
「手、組んでくれるんだ?」
にやにやする自分の足を蹴り、前を歩く。
「はっきり言ってほんの数回会って連絡取り合っただけの相手よりも長い時間一緒にいる自分の方が信用できるのは当たり前だろうが。それにな、向こうが私を信用してないのにこっちだって信用できるわけがないだろう」
気付いていた。ホムラはずっと私の事を監視して部下に報告させていたことを。最近はあかこちゃんやお狐ちゃんとも連絡が取れなくなっていることから考えてあの子たちはこの世界に侵入できなくなっている可能性がある。そして、その隙をあの黒狐に狙われた。
恐らく、ホムラはもうかなり精神的に来ている。
「私は先が長いし、お前の事もあるからまだ先を急いだりはしないが、あいつはもう目的が目前まで迫ってる。その状況で異物だと考えていた存在が異物じゃない可能性が浮上した。そんなん、焦るだろう」
「そらそうだ」
私達を追い越した車の風で二人の白と黒の髪が舞う。こうやって見るとつくづく正反対な二人だ。
「…私は、お前が嫌いだ。笑っていられたお前が嫌い」
「オレもお前が嫌いだよ。泣いて、蹲ってばかりだったお前が嫌い」
それだけ言ってそれぞれの場所へ向かって自然と逸れる。別れの挨拶は要らない。どうせまた会うのだから。
嫌いで、羨ましかった。あんな時でも笑っていられた強さが。
嫌いで、妬ましかった。あの時、素直に感情を吐き出せた弱さが。
でも、今はいらない。
機械のようになる強さはいらない。
その場を動けなくなるような弱さはいらない。
目的を果たすために、今はこのままでいい。
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