標的08 共闘 | ナノ

標的08



翌日、予定通りソラを迎えに行き、3人で並中に向かう。日曜日だけど雲雀さんに頼んで開けてもらったのだ。雲雀さん、なぜか私が頼むと聞いてくれる確率高いんだよねぇ。
そんな風に彼の事を思い出していると、突然ソラが周囲を見渡して私たちの手を掴み、走り出した。

「ソラ!?」
「今は走ってください。一先ず並中に向います」
「う、うん?」

切羽詰まったように走るソラになぜか違和感を感じる。どこか、私達の知る彼女ではない気がするのだ。というかそれより、

「ケンスケ兄ちゃん…?」
「ケンスケ?」

思わず出た名前に怪訝そうな顔をするソラ。私もなぜケンスケ兄ちゃんの顔が出てきたのかわからない。でも、なぜか彼の気配を感じた。こんなに小さな体なのに。

「っぶね」

そんなことを考えている間にも飛び道具が飛んできて私たちの行く手を阻んできた。それをソラのカラスが撃ち落としてくれている。本当にあのカラスは何なんだろうか。どうにかして並中に近づけるように動こうとするがやはり離れている気がする。

「ソラ!大丈夫なの!?」
「どちらかというとあまり良くない状況、です」

そう言いながら少し路地に入った瞬間、予想外の壁があり足が止まる。

「行き止まり?」
「いやぁ、ご苦労様」

こつり、と靴を鳴らしながら歩いてきた赤髪の男。嫌な汗が背を流れた。
ソラも男をにらみつけている。

「随分なご挨拶じゃん、ソラちゃん」
「無駄に走らされたこちらの身にもなってみろ」
「えー?予定通りだったでしょう?」

そう思っていたのに親しげな雰囲気すら感じるやり取りに緊張が走る。
まさか…

「ソラ…?」
「ご協力ありがとう、ソラちゃん」

私達は、騙されていたのだろうか?

「それで?ソラちゃんはどう思うの?」
「何が?」
「この二人、異物?」
「じゃない」
「だろうね」

訳の分からない会話に戸惑う。異物ってなんだ。この人たちは、何だ?

「さて、それじゃ、君たちのリング、ちょうだいよ。そうしたら殺さないから」

突然の要求に思わず言葉に詰まる。この人たちの目的は…私たちのリング?

「このリングで、何をするつもり?」
「そのリングの逸話を知ってるならやる事なんて一つでしょ」
「これは、正しい持ち主が使わないと所有者に不幸をもたらすよ」

その言葉に赤髪の男、赤葉ホムラは目を細めてわらった。

「それはこの世界の住民が使ったからだよ。そのリングの所有権は異世界人であれば誰でも持ってるからね」

へらへらと笑っているように見えて、その目は笑っていない。それが酷く恐ろしくて体が震えそうになる。
それにこの口ぶりからすると、彼もソラも私達と同じ異世界から来た人間だったのだろうか。予想はしてはいたが実際に聞くと戸惑う。

すると突然ソラが口を開いた。

「使用権限が異世界人にあるってのは初耳なんですが?」
「そりゃそうだよ。俺だってつい最近知ったもん」
「ホウレンソウはちゃんとして」
「ごめんよ」

あぁ、本当に彼女は私達の味方ではなかったのかとショックを受ける。だが落ち込んでいる暇があるなら逃げる方法を考えなければ。

「…あなたの願いは何なの?」

葵が尋ねる。

「帰る事だよ」
「…帰る?」

予想外の言葉に驚く。夢小説的な展開であれば帰るために行動する人なんてごく少数だ。ましてや私達からすれば二次元の世界なのだから残りたがる人の方が多い。

「…君たちにはわかんないよ。大切な奴ら見殺しにして、目が覚めたら知らない世界で赤ん坊やってて、自分たちのせいじゃないのに世界の崩壊を防がないと帰さない?頭おかしいんじゃねぇの。ほんとうにさぁ」

髪をぐしゃぐしゃと掻きまわした後こちらを暗く濁った目で見つめてきた。

「何で俺らがこんなことしなきゃなんないんだよ」

狂気を孕んだ目に後ずさる。その時に一瞬みえたソラの目は、凪いでいた。

「ソラちゃんもそう思うだろ?アリスを殺したんだもんね」
「…生憎、オレには後悔の感情は残ってない」
「…は?」

その言葉に赤葉の表情が抜け落ちる。しかしそれよりも先に突然辺りが霧に包まれ始めた。

「…霧?」
「あんたは今、何にも見えなくなってるんだな」
「どういうことだ」
「言葉の通りさ。だからこそ、こんな初歩的なことにも気づけない」

パチン、と指を鳴らす音が辺りに響いた。






指が鳴った後、霧が晴れて立っていたのはパーカーのフードを被った制服姿の少女だけだった。

「…幻術か。道理で俺がちゃん付けで呼んでも怒らないはずだ。…で、本当のソラちゃんはどこかな?」
「さぁ?今頃あの二人とランデブーでもしてるんじゃないか?」

元々暗い環境なのと、フードで影になっていることが相まってはっきりとは見えないが、少女の口角は上がっている。

「つまり、あの子もグルなわけか」
「そういうこと」

明るい声で答えてくる間も、彼女は自身の手の中で真っ白な刀身の刀を躍らせていた。

「あの子に協力者がいるなんて意外だな」
「したくて協力してるわけじゃねぇけどな」

忌々しいとでも言うように舌打ちをした少女。思ったよりも仲が悪いようだ。だが、そんな相手と手を組むなんてソラちゃんは何を考えているんだろうか。

「それで?あの子はどうしてこんなことをしたのかな?君の入れ知恵?」
「オレの入れ知恵と言えばそうだよ。だがこの作戦自体を考えたのはあいつだぜ?何だかんだ言ってあいつの方がオレに比べれば頭脳派だからな」

随分と互いの事を知っているような口ぶりだがいつの間にそこまで関係を深めたのか。
誰か一人と密に関係を持っているなんて報告、今の今まで一度だってなかった。

そこまで考えて頭を振る。今更過程を考えても仕方がない。今はとりあえず目の前の標的を始末することが最優先事項だ。その後はいくらでもどうにかなる。

「…俺の目的を邪魔するなら、容赦はしないよ。さっさと終わらせてもらう」
「……あまり舐めない方がいい。オレも私も、騙すのは得意なんで、な!」

ぶわりと吹いた風で真っ白な髪が舞い、金属同士がぶつかり合う音が響いた。







「!?」

指が鳴る直前に後ろから黒い布を掛けられた上、強い力で引っ張られた。あまりの早業に悲鳴を上げる暇すらない。一瞬の不快感の後、引っ張る力が緩む隙を狙って勢いよく振り返る。

「誰!?」
「私です」

先ほどまで私たちの前にいたはずの少女が後ろにいることに驚き戸惑う。だがそれ以上に周囲の光景が変わっていることに戸惑った。布を被せられた一瞬で一体何があったのか。

「ここ…、並中?」

葵の言葉にハッとなる。確かに並中の校舎内だ。

「どうして…?」
「少し、ずるをさせて貰いました。一先ずは時間稼ぎができるはずです」
「時間稼ぎって…私たちがここにいることは分かっているはずでしょう?」
「はい。でも、悔しくて仕方がありませんがあそこに置いてきた奴は少なくとも実力は信用できます」

本当に悔しいのか顔がゆがんでいるソラ。こんな表情初めて見た。
だがまだ信用はできない。あのやり取りから察するに、元々赤葉とは協力関係だったのだろう。

「私、ソラの事信用できない」
「でしょうね。重々承知しています。実際、ホムラがあなた方のリングを使おうとしていると知らなければ最後まで付き合うつもりでした」
「…ほんとに繋がってたんだね」
「互いにこの世界に来た経緯も原因も同じですし、帰還条件もほとんど変わりませんから」
「ほとんど、ってことは多少は変わるの?」

一瞬言い淀んだがソラは口を開いた。

「ホムラはこの世界に滞在している期間は長いですが、条件を満たせば帰ることが出来るはずです。でも私は、この世界での条件を満たしても、また別の世界に飛ばされます」
「帰れないの?」
「いつかは帰れます。…帰らなきゃいけない」

きゅっと唇を噛んだソラ。だが私の後ろを見て何やら目を見開いた。

「何してるの、君たち」
「ひ、雲雀さん!?」
「来たならちゃんと入校許可証もらっておいてよ」

そう言いながら私の手に名札ケースに入った入校許可証を落とした。

「あ、ありがとうございます!」
「別に…。それより、君、僕と戦おう」

戦闘態勢に入ろうとした雲雀さんとソラの間に滑り込む。

「こ、この子まだ小学生なんで!!」
「流石に雲雀さんとやるのは早いと思います!!」
「………」

長く感じる見つめ合いの後、溜息を吐いて彼はトンファーを下ろしてくれた。

「…今日はなんか疲れたからやらないでおいてあげる。だけど今度会ったら…かみ殺すよ」

彼の姿が見えなくなった瞬間、ふぅ、と肩の力を抜く。

「こわ…」
「今日は特に好戦的だったねぇ…」
「助かりました。ホムラとやり合う前に体力消費はきつい」
「ひとまずツナたちと合流しよう?」





「葵!祈!」
「ツー君!」

校舎に近いグラウンドでボンゴレチームと合流する。『オレ』が幻術で周囲を騙している最中に連絡を入れていたのだ。

「よく撒けたな」
「大嫌いな協力者の力を借りました。ですがそのままこちらに連れてくると思うので、ここで迎え撃ちたいです」
「作戦、立ててないの?」
「大筋しか立てていません。ですがまぁ、あいつの思考、行動は私が誰よりもわかります」
「お前にそんな相手がいるなんて意外だゾ」

沢田氏の質問に答えるとリボーン氏が意外そうに返してきた。確かに、私は基本的に門外顧問のメンバーとも一定の距離感を保ちながら任務にあたってきた。そんな奴にずぶずぶな相手がいるなんて知ったら意外にも思うだろう。

「誰よりもわかる相手で、誰よりもわからない存在ですよ」

そう言った瞬間、激しい殺気がこのあたり一帯を包んだ。

「何!?」
「なんつー威圧感だ…」

「…おい、あまり派手に動くなよ、オレ」
「指図すんな、私」

私の横に勢いを殺すように着地したオレに声をかけると反抗的な声が返ってきた。

「本当に仲悪いんだねぇ」

へらへらと笑いながら現れたホムラに全員が戦闘態勢になる。

「ソラちゃんでぎりぎり俺を相手できるくらいだから君らじゃ相手になんないよ。それに俺、リングさえもらえれば何もしないよ?」
「ちゃんを付けるな。…ホムラ、私達の帰還条件、覚えてる?」
「異物の排除、だね」

それがどうした?とでも言うように首を傾げるホムラ。

「彼女たちは異物ではなかった」
「そうだね」
「…もう一つ、原作になかったもの、あるだろ」
「…それがどうかしたの?」

すぅ、と表情が抜け落ちたホムラに舌打ちする。この状況、見覚えがある。

「あの野郎…」

以前KHの世界で、黒い狐に憑かれていた少女と同じ状況だ。
次の瞬間ふわりと体が浮き、直後に私がいた位置の地面がえぐれていた。

「ほんっと、馬鹿力だな、あの男」
「予想外なんだが」

自分に姫抱きされる日が来るとか思わなんだ。
そのまま『オレ』が少し距離をとった位置で私を下ろした。

「さぁて」

互いに己の武器を構える。真っ白な刀身と真っ黒な刀身が陽の光を反射して輝く。

「「最悪な共闘といきますか」」





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