標的07 夢うつつ | ナノ

標的07


「おはよう!」

突然鳴った呼び鈴に、玄関の扉を開ける。そこにいる人物を見て思わず目を瞬いた。
護衛の任務を開始して1週間ほどたっているが初めての事だ。

「…お二人とも、現在ご自身がターゲットになっているという自覚はおありでしょうか」
「すみません…」
「反省しております…」

部屋に招き入れ正座で説教をする。小学生に説教される女子中学生二人の図は中々にシュールではなかろうか。
しかし、もしもがあってはこちらも困るのだ。一応ダスクに監視をさせているが、もしもはいつだって起こりうる。
反省している様子も見られたので説教を終了し、二人に足を崩させた。足が痺れているようで面白いほど反応が良い。

「それで、何の御用で?」
「そう!これ!一緒に行こう!!」
いち早く立ち直った葵が、ぱん、と音を立ててチラシを広げる。そこには『挑戦者求ム!優勝者にはケーキバイキング無料券をプレゼント!』という文字が踊っていた。

「商店街でシューティングゲームの大会をやるんだって!それでね、このケーキバイキング8人までOKなやつなんだよ」
「だからソラも協力してほしいなって」

どこのケーキバイキングか見ると有名ホテルのものだった。ふむ、それは気になる。どちらにせよ私が参加しなくてもこの子たちは行くのだろうから参加してしまった方がいいか。

「いいですよ。エントリーは…10時までですね。準備するので少し待ってください」
「やったー!」







商店街にきっちりした服で行くのは浮くため、手持ちの青いブラウスの上に白いセーターを着て、更に上にウールの黒いコートを羽織って、黒いスキニーで合わせた。襟シャツって落ち着くからすぐ着てしまうのだ。ちなみに髪は相変わらずあの髪紐でポニーテールにしている。

「わ、思ったより人すごい…」
「ね…」
「あちらが受付みたいです」

そう言って指し示すと二人は受付に向かって歩き出したのでその後に着いていく。受付を終えてルールの紙を受け取る。
挑戦は1人一回までで、スコアが最も高かった人が優勝だそうだ。シューティングゲームが有名な会社の新作発表も兼ねているからここまで人が集まっているのだろう。

「あれ、3人とも来たのな」
「…けっ」
「あ、本当だ!」

どこでも現れるボンゴレ3人衆に対して嬉しそうに挨拶する護衛対象2人の後ろからぺこりと会釈する。この中では俄然獄寺氏が有力候補だろう。

「あ、何にも聞かずに連れて来ちゃった…。ソラはシューティングゲームはやったことある?」
「ほんの少しだけですね。リアルでもあまり得意では無いですし」
「あ、そっか、本職の人だったね…」

遠い目をされてしまった。解せぬ。

『番号をお呼びします。お手持ちの番号札と交換でチャレンジが出来ますので番号札を紛失しないようご注意下さい…』

アナウンスが響く。続々とチャレンジャーがテントに入っていった。公平になるよう未チャレンジャーにゲームの様子が見えないようにしてあるのだ。

「あ、呼ばれたのな」
「無様な結果晒したらただじゃおかねーからな!」

激励を掛け合うボンゴレファミリーを傍目に辺りを見渡す。ホムラは来ていないようだ。

「ソラー、私も行ってくるね!」

そう言って祈がテントに入るのを見送る。数分後には肩を落として出てきて、入れ替わりで葵が入っていった。なお二人とも結果はお察しである。

「では、いってきます」

そう声を掛けて入り、ルールの説明を聞いて拳銃の形をしたコントローラーを手に持つ。
スタートの文字とともに引き金を引いた。





結果はなかなか惜しいところまで行った、とだけ伝えておこう。流石に実戦とゲームでは異なるところがあり、私の反応速度にゲームが付いていかないのだ。そこのズレによってミスがいくらか出てしまいトップには立てなかった。その辺りの修正を上手くやったのが獄寺氏だ。
つまるところ優勝は獄寺氏だった。

「すごいよ!獄寺くん!!」
「十代目の右腕として当然です」
「スイーツバイキング!!」

テンションの上がっている人達を傍目に周囲への警戒を再開する。テントに入っている間はちゃんとダスクに任せていたので安心して欲しい。うちの子は優秀。

「ソラも一緒行こ!」
「え?」

予想外に声をかけられ戸惑う。いや、行けたら行こうと思っていたがそれは自身で景品を当てた場合だ。他にも誘う相手はいるだろうに。

「私は…」
「行ってこい」

ぱしん、と軽い力で頭を叩かれた。リボーンだ。

「リボーンさん…」
「これも任務のひとつだゾ」
「…ありがとうございます」





今日はひとまず帰ろうと連れ立って歩いていると葵と祈の胸元で揺れるリングが目に入った。

「そういえば葵と祈のリングは特殊なんでしたか」
「え?あ、うん!」
「私達、属性がそれぞれ2つとないものだからね」

そう言って見せられたリングにはそれぞれ薄い透き通った緑のような石と白濁した石がはめ込まれている。
風属性と雪属性。どちらも夢小説ではありきたりな属性だ。

「そういえばソラは何属性なの?」
「…霧、ですね」
「ってことはクロームや骸と一緒なんだ」

そういって振り返ってきた沢田氏。

「そうですね」
「お前十代目に対して…!!!」

端的に答えた私に対して今にも掴み掛ってきそうな獄寺氏を山本氏と沢田氏が宥める。

「落ち着けって獄寺」
「オレはまったく気にしてないからね?ね?」

その光景を無視して思わずといったように祈が口を開いた。

「…ソラって、コミュしょ…」

がば、っと葵が祈の口を抑える。
話を続ける気がなかったから当たり前ではあるが確かにコミュ障かもしれない。振り返ると言葉足らず、コミュニケーションを放棄したがためにこじらせていた経験が多いような気がしなくもない。

「そ、それよりさ!明日はどこ行こっか!」
「…水族館とか?」
「いいね!遊園地もありかも」

露骨に話を逸らされたが、この人たちは狙われているということを忘れているのだろうか。まぁ、今日の様子からして勝手にどこかに行くことは無さそうなので止めないでおく。
下手に動きを制限して鬱憤を溜められるよりは良いだろう。

「ソラはどこに行きたい?」
「私?」
「うん!どうせならソラが行きたい所に行こうよ」

引く様子のない2人にため息を誤魔化すように当たり障りのない事を告げようとして踏みとどまる。

「学校」
「学校?」
「皆さんの通っている学校を、見たいです」

思ったことを告げるといつの間にか私の肩に乗っていたリボーンさんがニヒルに笑った。

「案内してやれ、ツナ」
「オレ!?」
「部下の面倒を見るのもボスとしての役割だゾ」
「だから、オレはボスになる気はないって!」
「いいじゃねぇか、ツナ」

思わぬところから来た沢田にとってのオウンゴール。

「縁の薄い部下にまで配慮されるとは…!流石十代目です!」

追い討ちを掛ける右腕。

「ツーくん!やろ!!」
「…はい」

葵によるトドメでがく、と肩を落とした沢田に申し訳なさが積もる。すまぬ。

「明日、9時に並中の校門前で良いかな」
「いいともー!」

元気な声が響く。それと同時に近くに止まっていた烏に目配せをして仕事を促す。
恐らく明日、任務は終わる。








「おや、随分と不思議なところに辿り着いてしまったようだ」

水の中…自らの精神世界で揺蕩っていた所に響いた低い声に目を開く。

「…随分なお客様が来たな」

ばしゃりと水の中から這い出るとパイナップルヘアーの男が立っていた。

「こんばんは、お嬢さん」
「こんばんは、夢の旅人さん。それで、何の用ですかね」

こちらの睡眠を邪魔しに来たのだ。それ相応の対応を願う。

「歪な気配を感じて来てみたら実際に肉体と精神のバランスが揃っていない人間が居たものですから。そもそも人間ですか?」
「随分と失礼だなオイ」

思わず突っ込むが立ち話もあれかと水面にテーブルと椅子、ティーセットとチョコレート菓子を置いた。

「おや」
「来てしまったのなら仕方ない。少しくらいは情報を置いていってくださいな。…六道骸氏?」
「クフフ、僕の事を知っていましたか」
「こんななりでも門外顧問の所属だからな」

椅子に座り互いにティーカップに口を付ける。精神世界にも関わらず飲食をしていることに突っ込んではいけない。

「どうせ暇でしょう?私の話し相手になりながら情報落としてくれない?」
「雑な交渉ですね」
「そのチョコ、最近関西の方で新規出店された所のものだけど、話してくれないのなら渡すのやめようか」
「それで?何が聞きたいんです?」

ちょろいぞこの霧の守護者。

「スペランツァリング、風折葵と明雪祈が持つリングについて教えてほしい」
「おや?その情報くらいは門外顧問でも得ることが出来るでしょう」
「ああ、持ち主の属性によって色を変えるリングであり、願いを叶えるという逸話が存在する、という程度だがな。私が欲しいのはその先。…あれはどこから来た?」
「どこから、ですか。なぜ僕がそれを知っていると?」
「そういう裏社会の深い闇の部分はボンゴレよりもお前の方が詳しいだろう。それにボンゴレにあったとしても私には伏せられるだろうからな」

小さな姿というのは周囲の監視が厳しくなるから動きにくい。
思わず溜息を吐いていると面白そうに笑いながら六道は紅茶に口づけた。

「そうですね、あなたが予想している通り、多少ながら情報を持っています。しかし、あのリングはかなり謎が多い。僕をもってしても全貌はつかめませんでした」
「そう」
「…あえて言うのならば、あれは願いを叶えるなんて優しい代物ではありません」
「だろうな。そんなものが本当にあれば今頃、彼女たちに対する警備が私一人だなんてあり得ない」

もっとも、逸話であっても縋り付きたくなる奴はいる。しかしそんな存在も現状では現れていない事を考えるとマイナスの方が大きすぎるのかもしれない。

「あのリングは確かに願いを叶えた、という記録が存在していました」
「…結果は?」
「その人物の望みは誰もが平等な存在になれる世界だった」

その言葉を聞いた瞬間、脳裏によぎったものがあったが続きを促す。

「結果は、その周囲一帯、かなりの規模を焼け野原に変えましたよ」

それを聞いて思わず眉間に指をあてる。思い切りFateの黒聖杯じゃないか。
確かに願いは叶えられている。その一帯の生きとし生けるものすべてを殺すことで確かに平等にしている。
つまるところ、最悪な過程で願いを叶えてしまうのだ。よくわからんって人はFate/zeroへGO。(突然の宣伝)

「悪趣味なリングだ」
「同意見です。そして肝心のどこから来たのか、という問に対する答えですが、起源は不明です。どの文献にもあるのは、「気付いた時にはそこにあった」」
「気付いた時には、ねぇ」

ふむ、と少し頭の中を整理してからもう一つチョコレートの箱を出現させる。

「助かったよ、六道氏」
「クフフ、チョコレート2箱分の代金です。この情報をあなたに渡すことによるデメリットも、僕一人が抱えるメリットもありませんからね。」

本当にちょろいな、と思いながらも何もせずに帰ってくれるならその方がいい。

「呼び止めて悪かったな」
「いえ、僕も久しぶりに人と話すことが出来て面白かったですよ。それでは」

彼が霧のように消えるのを見送り、私も意識を深く沈めた。




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