標的06 泣きたくなる空 | ナノ

標的06


「チェデフ……?」
「ツー君のお父さんのところの…?」

絶賛混乱中の十代目ファミリーに呆れながら周囲に既に気配がないことを確認してガラスを避けるように室内に入る。もちろん靴にはビニール袋をかけてます。日本人ですからね。

「……常識人の気配がする」

その発言から10代目、沢田綱吉の苦労がうかがえる。

「って、まだ子どもじゃん!」
「ランボたちみたいなガキがヒットマンをやる世界だぞ。今更だ」
「これでもそれなりに戦えますのでご安心を」

疑っているような視線に肩を竦める。というか折角珍しく私が敬語を使ってやっているというのに……。舐められ続けると切れますよ。

「それで、ホムラの追跡は?」
「ぬかりありません。私の個人的な部下が追ってます」

そう言った時、窓からふわりと烏が私の肩に降り立った。

「いけた?」
『ええ、作戦は継続。今後はソラちゃんは彼女たちの信頼を得ることに尽力してほしい、との伝言をうけたわ』
「へぇ」

姿を変えた小烏の言葉に目を細める。ソラちゃんいうな。

「見つけたのか」
「はい、ですが駄目ですね。今行っても捕縛は無理です。このまま見失わないように追跡を続けてもらいます」
「そうか」

嘘を並べてリボーンさんと話しながら割れて飛び散った窓ガラスを回収する。

「あ、ごめん!ありがとう!!」
「いえ、私が来るのがもう少し早ければ割らずに済んだことなので」

私の髪をかしかしとついばむ小烏をむんず、と掴んでから窓に投げた。

「ええええええええ!!!!」
「うるせぇぞ、ツナ」
「いや、いいの!?カラス投げて良いの!?」
「構いません、なぜかあの個体は私に欲情するようなのであのくらいで丁度良いです。どちらにせよさっさと仕事に戻ってほしかったですし」

そう言うとかちん、と固まる皆々様。

「……冗談ですよ」
「そ、そうだよね!」
「っけ」
「面白いこと言う嬢ちゃんだな」
「……困ったことあったら相談してね」
「力になるからね!!」

それぞれの反応にため息を吐きそうになるのをこらえて笑顔でお礼を言う。
事実なんだよな、悲しいことに。






落ち着きを取り戻し、改めて小さなテーブルを囲みながら今後の事について話し合いを始めた。

「風折氏と明雪氏は現在同居中とのことなのでできれば事態が落ち着くまではお二人で行動して頂けると嬉しいです。私の身体は一つしかないので」
「うん」
「わかった。でもソラちゃんは家はどうなっているの?」
「あなた方のマンションの向かいを借りたので問題ありません」
「そ、そっか」

話辛いですよね、私も話し辛いです。最初のノリを間違えた感がすごい。
そう思っているとしびれを切らしように獄寺氏が声を上げた。

「俺はまだ、お前を信用してねぇぞ。実力も未知数。そんなガキにこの二人を任せられるか」
「もしかして、心配してくれてるの?」
「な…ちが!俺はただ守護者が減って十代目を守る盾が減ったら困ると思っただけであってだな!!」
「ありがと隼人!」

獄寺氏を中心にいちゃいちゃし始めた10代目ファミリーに目を細める。
少し、あいつらの姿が被ったのだ。……もう声もおぼろげになってしまったが。

「大丈夫か。ソラ」
「はい、問題ありません。こちらも配慮が足りませんでしたね。手合わせでも致しましょうか」

私の返答に小さな声でそうか、と返し、ボルサリーノをさげたリボーン氏。
その姿に首をかしげながら、立ち上がる。

「どこか人目のつかない広い場所、ご存知ですか?」






案内されてついたのは並盛神社だった。よくここ手合わせに使われるよね。すみません神様。

「では、誰が来ますか?」
「私が行くよ」

そう言って手を上げてこちらに来たのは風折氏だった。確かにこの中では一番負傷度が少なかったはずだ。

「もー、実力を見ることは大切だけど二人とも、命大事に、だからね」

明雪氏の言葉に目を瞬かせていると呆れたように風折氏が肩を竦めていた。

「わかってるよ。力試しで負傷するようなやり取りするなんてそれこそ実力不足でしょう」

おや、わかっているじゃないかと感心しながらも顎に指をあて、考えていたことを口に出す。

「ルールはどちらかが膝をつくか降参を告げるか、または、外野が続行不能と判断したとき、でいかがでしょう?」
「いいよ」

ゆるく構えられた日本刀に対し、こちらは手ぶらだ。最初は様子見として体術でも問題ないだろう。

「それじゃ、始め!」

明雪氏の合図で素早く踏み込んできた風折氏をみて左足をさげ、半身になり、足払いをかける。だがさすがにそれには引っかかってくれず、後方に向かってよけられてしまったのでそれを追うように間合いを詰める。
日本刀というのは間合いが近すぎると戦い辛いからな。相手が嫌がることをする。戦闘において大事なことだ。

「っ、鎌鼬!」

ぶわりと私の髪を浮かすような風がこちらに飛んできたため、すぐさま距離を取り、回避行動をとる。ふむ、なかなか荒々しい風だ。

「あまり、美しい風ではないな」

思わず、今までとは違い猫を脱いだ素の声を出してしまう。
突きを繰り出してきたのを見て反射的に腕をつかみ、回した。
そう、回した。

「っへ?」
「あ」

流石に自分より小さな子供に片手で回されるとは思わなかったのだろう。
間の抜けたような声を上げた風折氏。
そのまま背中から落ちた彼女の顔の横にすとん、と勝手に抜き取っていた彼女の刀を突き刺した。

風を切るように。

「すまないな。私にとって風は起こすものではなく、切るものだ」
「しょ、勝負あり!」
「す、すごい」
「あの風折が殆ど弄ばれてましたね」

倒れてしまった風折氏を助け起こし見学していた人たちの元へ向かう。

「これで認めて頂けますか?」
「っけ、精々励め」
「はい」
「そもそもこいつはあのイタリア海軍特殊部隊COMSUBINの教官だったラル・ミルチの秘蔵っ子だ。お前たちより強いのは当たり前だゾ」

ぽかん、と口を開けた獄寺氏や風折氏、明雪氏の様子に苦笑する他なかった。

「では、これよりお二人の護衛任務に就かせていただきます。プライバシーは守りますが、緊急時は強行突破させていただく事もあるのでご了承ください。あとしっかりと自衛の努力はお願いします」
「もちろん、これでもボンゴレの風の守護者だもの。改めまして風折葵です。これからしばらくよろしくね、ソラちゃん。あ、ぜひ名前で呼んでね」
「私だって雪の守護者だからね。私は明雪祈。私も名前で呼んで」
「よろしくお願いします。あと私もソラでいいです。むず痒いので」

こうして私は監視対象に接触したのだった。





その後、私達は無事にソラに送り届けられた。あまり会話が好きではないのか私たちの会話に入ってくることもなく半歩後ろから付いて来ている様子で、私達が無事に部屋に入ったのを見て彼女も帰って行った。
私達よりも幼いのにずっと大人びていて少し怖いくらいだ。

だが、現在考えなければならないのは私たちが知らない存在が出てきたこと、そして、未来編に入らないという事だ。
原作に彼女の存在も、赤葉ホムラという男もいなかった。
何かが変わってしまっているのかもしれない。

「どう思う?」
「どう思うも何も、今はしばらく様子見だよね。相手の素性も、ソラだって本当の実力は未知数。未来編に入らないのも少し怖いけどまだしばらく時間があってもおかしくはないはず。確かアニメ版は未来編に入る前に日常編挟んでたし」
「あ、そっか」

この会話からも分かるように私たちはトリップしてきた存在だ。トラックに突っ込まれて気付いたらこの家に居た。戸籍はあるしお金は不自由しないくらいに通帳に入ってて、本当に典型的なトリップだ。

「それじゃあ、しばらくは様子見しながら。命大事に、ね」
「うん…そういえばそれよく言うけど何かの受け売り?」

葵に言われて一瞬きょとん、とする。

「そんなによく言ってる?」
「気が付くと言ってるかな、黒曜の時も争奪戦の時も言ってた気がするし、さっきも言ってた」

そんなに意識していたことがなかったら驚く。
だが同時にやはり忘れてはいけない言葉だとも思う。

「お兄ちゃんが…あ、お兄ちゃんって言っても従兄なんだけどよく言ってたんだ。
『死にそうだと思ったら迷わず逃げてええ。命あっての物種や。いつか隙を見つけた時にぼこぼこにしたれ』ってね」
「すごいな…」
「でもね、お兄ちゃんにこの言葉を言った人はどっか行っちゃったんだって。『自分は死ぬな言うたのに勝手に俺たち助けて消えたんや。ほんと、いつか見つけたら一発殴らな気がすまんよな』って笑って言ってたっけ」
「……信じてるんだね」
「そうみたい。ずっと中学の時の同級生と一緒に探してるみたいだよ。……見つけられたのかなぁ、ケンスケ兄ちゃん」

ふっと視線を動かした先に見えた夕日は少しもの悲しかった。






護衛対象二人をマンションに無事届け、ダスク達に警備を任せる。随分と怒涛の一日だった。
今後は護衛をしながら本業も並行してやっていく必要がある。私の目的は彼女たちを守る事ではなく、あくまで帰る事なのだから。

そのまま街に出て夕飯を買って帰る。しばらく買い物に行く暇もないかもしれない。買い溜めをしておくほうが良いだろう。そんなことを考えながら人の流れに目を向ける。

親に手を引かれ、今日あった出来事を楽しそうに話しながら歩く子ども。同級生と他愛のない話をしながらゆっくりと歩く女子高生。

きわめて当たり前のありきたりな日本の光景。
その昔、もう記憶もおぼろげになり始めた、過去に自分も体験した筈の光景。

(馬鹿馬鹿しい)

感傷に浸る暇は今はない。早く、帰ろう。

帰ろう。

私の帰るべき場所に、帰ろう。




そう思ったのに感じた気配に不思議と足を止めた。

視野を広くしても見えるのは夕焼け色に染まる街。
一方で空にはまだ少し青空が残っている。

残った青空が嫌に目につき、癪に障ってなんだか泣きたくなった。




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