それから時は流れた。いつの間にや私もチェデフ入り。今はラルの部下として活動している。そして現在日本の国際線空港のロビーを歩いている。
「5年ぶり、くらいかな」
スーツケースをからからと引きながら歩いていると視線の先に目的の人物を見つけた。
「ボス」
「きたか、ローズマリー」
「……それ、やめません?」
「気に入らないか?」
チェデフの性質上仕方ないとは思っているが何分むず痒い。
なぜコードネームが香辛料なんだ。これで私が日本人離れした髪の色でなければ浮いていたぞ。
「それで、任務は彼の捕縛でいいんですよね」
「ああ。俺はこの後そのまま本部へ行くんでな。頼んだぞ。今の10代目連中ではあいつを返り討ちにすることは厳しい。護衛もかねて頼んだ」
そういえばリング争奪戦直後だものな。未来編終了後の彼らならまだしも、今の彼らでは傷も癒え切っていないし厳しいものがあるだろう。
そこまで考えて気付く。
……そういえば未来編に入ってない?
少し混乱しながらも思考を切り替える。
「じゃ、ヴァリアーの次期雲の守護者候補である赤葉ホムラの捕縛、頼んだぞ」
「了解」
互いに見送るでもなく反対方向に向かって歩き出す。
さあ、始めようじゃないか。〈私たち〉の任務を。
「へぶしっ」
「さっきと同じミスしてるゾ、ダメツナ」
「いったいなぁ」
リング争奪戦も終わり、のんびりとする予定だった土曜日だが悲しいことに俺の家庭教師様は休んでいた分の課題を詰め込む作業に入ってしまった。かれこれ3時間は椅子に縛り付けられている。
「もう無理ー!!休憩!!休憩くれよ!!」
そう叫んだ時だった。家のチャイムが鳴る。
「む、きたか」
「来たって、誰が」
目を瞬いていると部屋の扉があいた。
「邪魔するぜーツナ」
「お邪魔します!10代目!!リボーンさん!!」
「やっほーツー君」
「お邪魔するね」
「山本に獄寺君、葵に祈!?」
現れた四人に驚きリボーンを見ると相変わらず読めないニヒルな笑顔を浮かべていた。
「で、話ってなんだ?小僧」
オレが獄寺君と葵にロープを外してもらっている間に山本がリボーンに質問をする。リボーンはエスプレッソに口づけてから写真をテーブルの上に投げた。
そこに写っていたのは真っ赤な髪を黄色いヘアピンでとめている、真っ赤な目をした俺たちと同じくらいの年齢の男性だった。それにしてもこの服、見覚えが……。
「これ、ヴァリアーすか?」
獄寺君のおかげで疑問が解けた。ヴァリアーの隊服だ。
「この人がどうかしたの?」
「こいつは赤葉ホムラ。ヴァリアーの次期雲の幹部候補だった男だ。…だが、つい先日、争奪戦で幹部が出払っているタイミングで失踪した」
「ヴァリアーに愛想付かしたんじゃないんすか?」
獄寺君の呆れたような声に苦笑しながらも否定できない。あそこの労働環境は知らないが幹部とか胃痛案件だろうし。
「オレも最初はそう思ったがメモ書きのせいでこいつは捕縛対象になった」
赤葉さんの写真をずらした下にあったメモの写真を獄寺君が目を通し読み上げてくれる。
「標的発見、任務開始……?どういう意味だ?」
「ボンゴレの人間でその内容に心当たりのある者はいなかった。もちろんヴァリアーもな。今まで独断的な行動はしなかった男だ。そしてこの内容から、奴が他の組織と繋がっている可能性が浮上した」
「でも、こんな露骨に証拠を残すようなやり方をしますか?仮にもヴァリアーの幹部候補だった男が」
「オレもそこが気になってな。それもあって消すのではなく、捕縛命令が出たんだ」
情報が多く混乱している中、更に話は進んでいく。
「ちなみに、標的、というのは何かわかったんですか?」
「ああ、ご丁寧にこちらもしっかりと調べた資料を残してくれていた。しかも、ある意味ではヴァリアーとしては調べていてもおかしくない内容だから質が悪い」
ごくり、と思わず喉を鳴らす。全員でリボーンの続きの言葉を待つ。
「いったい……」
続きを促そうとしたとき、嫌な予感が背中を走り思わず葵を庇って押し倒していた。
その直後、窓が割れ金属音が響いた。
「つつつつつ!?!?!?」
「ご無事ですか!十代目!!」
「葵!」
怪我がないことを伝え、音の原因を見ると俺と葵の横に太い針のようなものとなぜか烏の羽根が落ちていた。
「間に合いましたか?」
部屋が突然暗くなると同時に少女の声が響いた。窓の縁に誰かが立っていることで部屋に入る光量が減り暗くなっているのだろう。
「誰だ!てめぇ!」
臨戦態勢になった獄寺君と山本。祈も俺と葵の前で庇ってくれている。
少女は窓からこちらに入ることもなく周囲を警戒しながら口を開いた。
「申し遅れました。本日より赤葉ホムラ捕縛、そして、赤葉ホムラの標的である風折葵氏、明雪祈氏の護衛につくことになりました。チェデフ所属のローズマリー……基、蒼禅ソラです。どうぞよしなに」
そう言ってこちらを見ながら笑った彼女の真っ赤な目が、写真の赤葉ホムラと重なった。
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