標的04 苦い水 | ナノ

標的04


あれから3カ月。私は毎日同じような事をこなしている。

午前中は走り込みをして、筋トレをして、言語を重点的に教養の座学をし、昼食をとって午後からは実戦形式の戦闘訓練や、移動術などを行い、夕飯を食べて戦略について学び、何とか風呂に入ってベットに直行だ。

それを週6日。ラルさんが世話してる部隊の人達と一緒にやらせて貰っている。

はっきり言ってめちゃくちゃしんどい。

筋トレなどはやり過ぎると身長が伸びなくなるため、年齢に合わせた内容に組み直してもらっているがそれでもしんどい。
最初の頃は他の人達に舐められまくっていたが今は多分認めてくれてる、はず。可愛がられてはいる。

「おーい、ソラ」

座学の為に移動していると声をかけられた。

「フィレンツェさん、こんにちは」
「こんにちは。今から座学か?イタリア語も随分流暢になったもんな」
「はい、皆さんのおかげで。喧嘩ができるくらいには語彙が増えました」
「…ぼ、ボスには言うなよ…?」
「教官の元で学んでいる以上、粗暴な言葉を覚えるのは仕方のない事かと」

それもそうか、と苦笑したフィレンツェさんは最初の頃から何かと世話してくれた人で、家光さんの信頼も厚い。なんでも私と同じくらいの娘がいるとか。

「フィレンツェさんはこれから狙撃訓練ですか」

その肩にかけられた彼愛用の銃を見て尋ねる。

「あぁ、ソラもそろそろ始められるかもな」

だと良いんですけど、とその時は軽く口にしていた。




それから三週間。言語系や、歴史と言った一般教養の座学は終わりを告げ、代わりに地獄の狙撃訓練が始まった。

「もっと腹に力を入れろ!それでは反動で飛ぶぞ!!肩を壊したくなければしっかりと支えろ!」
「はい!!」

めっちゃ怖い。いや、いつもの事なんだけど、接近戦に関してはそれなりに見れるものだったらしくそこまでお叱りの言葉は無かったのだ。
そして言われた通りにはしている。だが、どうにも照準が合わないのだ。未だに一発も的に当たっていないとなると流石の私でも焦る。

「休憩!」
「はい!」

目の保護をしていた眼鏡と防音用のイヤーマフを外すとかなりの汗をかいていたことに気づく。かなり神経を使っていたようだ。

「はい」
「え、あ、ごめんなさい。ありがとうございます」

本来なら一番下っ端である私が率先して運ぶべきなのに差し出されてしまったペットボトルを受け取る。そもそも、自分で取りに行くのが当たり前ではあるのだが。

こくり、と水を飲めば体に水分が行き渡る。我ながら集中しすぎた。

改めて差し出してくれた人を見ると、一緒に訓練している人ではなかった。むしろスーツである。
この辺りでは珍しい黒髪のアジア系の顔に日本人だろうかと色々と思考を巡らせる。
ついでに言うとかなり顔がいい。この顔なら原作キャラクターに居そうなものだが記憶を探ってもいない。私自身全てに目を通した訳ではないのでもしかしたら見ていない時に登場していた可能性がある。そうなるとかなりの損をしている事になるのだが。

私以外の人達にもペットボトルを配り終え、なぜか彼は私の元へ戻ってきたので不躾にもガン見してしまった。

「俺の顔に何かついてる?」
「あ、いえ、どなたかな?と」
「通りすがりのヒットマン、かな?」
「通りすがりでヒットマンがいるの怖いですね」

だが、先程の他の人達とのやりとりを見る限り中々に有名な、それでいてボンゴレと良好な関係のようにみえる。

「君はかなり狙撃が苦手みたいだね」
「…はい、ぶっちゃけ近付いて殴った方が早くないですか…?」

そう言うと彼は目を見開いてからケラケラと笑いだした。フィレンツェさんにも同じ事を言ったら笑われたのだ。解せぬ。

「俺の大切な人によく似てるよ、君。…はは、うん、教えてあげる」

その言葉に驚いていると彼は丁度戻ってきたラル教官の元へ行ってしまった。しかも呆れたように教官は頷いている。
そして彼は楽しそうにこちらへ戻ってきた。

「さて、再開する前に少し後ろを向いてもらっていいかな?」

ぱちぱちと目を瞬かせながらこの人から悪意は感じなかったので後ろを向く。

「…君、もうちょっと警戒心持とうね」

呆れたような声に少しムカッとする。

「私は私の勘に従っているだけです」
「…へぇ?」

信じていない様子にむ、としながら首だけ後ろに回す。

「だって、あなた、変なことしないでしょう?」

体術であればそう簡単にやられませんし、何より教官が認めているようなので。
と、心の中で続けていると、ぐりん、と前を向かされてしまいおかしな声が出た。無理に動かされた首が痛い。
この人私を殺す気か。

「髪触るよ」
「はいはい、お好きにどうぞー」

諦めの境地で伝えると物の数秒で「はい、終わり」と肩を叩かれる。首回りがスースーする反面、少し視界が良好になった。

髪を触ると紐のようなものが指に触った。どうやら髪紐でポニーテールにしてくれたようだ。器用なものである。

「それ、そのままあげるよ。本当は奥さんへのお土産のつもりだったんだけど、よく考えたら持って行けないことに気付いてね。勿体無いから貰って」

何となく嬉しくてくるりとその場で回る。
人からプレゼントを貰うなんて、いつぶりだろうか。…まぁ、他の人にあげる予定だったものを貰っているのだけれど。

私からでは見えないので後で鏡を見るとしようと思い、動きを止めて礼をする。

「ありがとうございます。大切にしますね」

そう言うと彼は何故か私を泣きそうな目で見た。30代行くか行かないかくらいに見えるので、彼にも、私くらいの娘でもいるのかもしれない。奥さんもいると言っていたからありえない話ではない。
意外とボンゴレ全体を見渡すと私を見て泣きそうになる人や、デレデレと顔を緩ませる輩がいる。(ロリコンの確率が高いが)
それはいいとして、つまる所、私を自分の子供に重ねる人が多いのだ。皆さん疲れすぎである。

「…さて、はじめようか。まず構えてみて」

言われた通り、教官に教えてもらった構えを取る。
すると何やら苦笑している声が聞こえたが内容までは上手く聞き取れなかった。
そして彼の指摘通りに体制をとると体への負担が減り驚く。

「君の場合まだ身長が足りないから構える時は狙いたい場所が狙える高さに腕を上げるんじゃなくて自分が有利な場所に狙撃地点を変えなさい。接近戦が得意なら移動も得意だろう?」
「はい、まぁ」

パルクール楽しいよね!!

「あと、もう少し肩の力を抜きな。少し力みすぎ」

肩に手を乗せられ、高さを調節される。

「うん、良いね。それを忘れないように。で、問題は照準か…。とりあえず何も考えずに撃ってみな」

言われた通り、自分の中で照準を合わせて撃つ。が、穴はない。

「こんな感じで…」
「あー…あー…」

苦笑してしまっている。残念すぎてごめんなさい。

「撃つ時に銃口が少し上に向く癖があるね。自分が思ってるところより少し下に構えてみな」

言われた通りに構えてみると今度は左にずれた穴が出来ていた。

「次は右目を閉じて撃ってみな」
「右目、ですか?」
「うん」

言われた通りに打ち込む。今度は、ど真ん中だ。

「できた」
「おめでとう」
「できました!」

嬉しくて思わずぴょんぴょんとその場で跳ねる。肉体年齢に引き摺られているのか素なのか自分でも分からなくなっているがどうでもいい。あんだけ当たらなかったのだ。嬉しいに決まっているだろう。

「出来たなら繰り返せ!反復練習だ!馬鹿タレ!!」
「はいぃ!!」

喜びも束の間怒られてしまったので一つ一つ工程を確認しながら進めていく。その間も男性はしっかりみっちり教えてくれた。有難いことだ。






「狙撃訓練終了!」

声かけに反応してすぐに片付けに入る。急がねば昼食が掻っ攫われる。

「それじゃ、俺はこれでね」
「あ、ありがとうございました。何かお礼でも」
「気にしなくて良いよ。俺がやりたくてやったんだし」

これ以上言っても何も受け取ってくれはしないことを感じ取ってもう一度お礼を言えば彼は笑いながら帰って行ってしまった。

「どうだった?」
「恐らく人並み程度にはこなせるようになったかと」
「なら人並み以上になるようにどうにかしろ」
「教官、私の扱いがどんどん雑になってませんか…?」
「さっさと使い物になってくれないと困るからな」

にやり、と明らかに何か企んでいそうな表情に冷や汗が流れた。
教官から離れると私を追い抜く人が皆頭を煩雑に撫でていくので思わずキレる。

「せっかく綺麗にやって貰ったのに崩さないでください!!」
「お前さんが漸くど真ん中空けてあいつら皆喜んでんだよ。許してやれ」

フィレンツェさんの言葉に頭を抱えたくなる。娘にどう構えば良いかわからないお父さんか。

「にしても羨ましいな。お前」

その言葉に目を瞬く。

「そう言えばあの人、誰だったんですか?」
「本名は知らんがボンゴレお抱えの暗殺者の一人だ。何でもあのリボーンさんに鍛えて貰ったとかで実力は折り紙つき」

そんな凄い人だったのかと口を開けたくなる。

「ちなみにあの人の二つ名はニエンテ。いつか仕事で関わる事もあるかもしれないから覚えておけ」

慌てて思考の海から戻ってきて反応を返し、今度こそ食事のために動き出した。







『ニエンテ、ですか』

自室でお狐ちゃんを呼び出し、尋ねる。
イタリア語で無を意味する。

「ダスクに調べさせようとも思ったんだけどうまく巻かれちゃった。何かわかる?」
『アルコバレーノ、リボーンに弟子入りしていた事は記録にあります。また、得意なのは超長距離射撃のようですがごく稀に二種類の日本刀を扱う姿を目撃されているようですね』

二刀流なのではなく、二種類の刀を使う、か。

「随分と不思議な戦い方をするんだね」
『えぇ、それと、本人は既婚者だと言っていますが実際にその奥さんを目撃したものはいません』
「…イマジナリー奥さん…?」

大丈夫だろうか、あの人。
…話が逸れた。調べられたのはここまでらしい。あくまで知ることができるのは世界に記されている記録だ。つまり個人の思想について読む事は出来ないし、本人が心に秘めていることを知る事はできない。
知りたいなら私が直接本人に蛇の力を使って記憶として読み取るしかない。

『あともう一つ』

改まって話し出したお狐ちゃんに、外を見ていた視線を戻す。

『彼は、この世界の住民ではありません』
「やっぱりか」

予想はしていた。だが、彼自身に世界の改変をしようとする気配や、嫌な雰囲気を感じなかったために油断していたのだ。
なぜ、私はここまで彼を信用しているのだろうか。

『恋ですか?』
「奥さんいるでしょ」
『否定しないんですね』
「今日のお狐ちゃんは意地悪ね」

窓ガラスに映る自分の髪を見る。髪紐はシンプルなものだったが綺麗な赤だった。

「好みドストライクってのも困りものだな」


肉体年齢も精神年齢も流石に離れすぎか。
なんてことを考えながらペットボトルの水をあおった。




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