標的03 捕食者 | ナノ

標的03


「本当にやるの…?」
「やるんだよ、ホムラお兄ちゃん」
「お兄ちゃん!?」

ホムラと対面しながら内心でおちょくる。
だが、側から見ればギリギリと怒りに震えているように見えるかもしれない。
これでも演技力に自信はあるのだ。

なぜこんな事をしたかと言うと、このままボンゴレに引き取ってもらうためだ。その為には私の実力を奴ら、特に沢田家光に示しておく必要がある。
そしてその為に打ってつけなのはこちらの事情を知っているホムラだ。彼に対して勝負を仕掛ける。

ちなみに設定としては、両親は引退した暗殺者。私は身を守る術として我流の武術を教えられていた少女。だが、少女は親が無惨に殺される様子を思い出してしまう。そうすれば憎しみにかられる哀れな少女の出来上がりだ。

「あああああああっ!!!」
「ああ!もう!!」

借りた日本刀を構えて飛び込んで行く私に悪態をつきながらもホムラは大きな鎌を構えた。あれが彼の獲物なのだろう。

振りかぶった太刀筋はブレブレで綺麗に弾かれてしまう。そのまま彼は私の首めがけて刃を滑らそうとするが私はすぐに伏せてそのまま足払いに移行した。
だが、それも彼は綺麗に飛んで避け、鎌を頭の上で回して振り下ろしてくる。
思わず受け流そうとしたが、すぐに地面を転がって避ける方にシフトする。
今の体では流しきれずに押し切られるのが目に見えているからだ。

そんな事をしばらく繰り返す。
予想以上に体力の減りは早かった。
すでに息も絶え絶えになっているが本能が叫ぶ。

ここで足を止めれば“ヤツ”に食われる、と。

己の中の獣が叫んだ。

“死んでたまるか”と。

そうは思っても無いものはないのだ。
連撃を行うだけの筋力が足りない。
素早く動き回り、撹乱させるだけの体力がない。
火力を上げようにも力を乗せるだけの体がない。

ない物だらけだが、変わらないものだってあった。

頭だ。
頭を回せ。余計な事は考えるな。相手の、周りの情報をかき集めろ。

身長も、筋力も、体力も、リーチも、速さも、何もかも失った。

でも、経験だけは失っていない。

では、得たものはなんだ?

小さな体だ。小回りのきく体だ。
それはつまり、

「なっ」

僅かに体をそらす事で奴の太刀筋から逃れながら懐に飛び込む。
そして、その首筋に刀を添えた。

静かな空間に二人分の荒い息のみが響き渡る。

結果は、引き分け。

私が太刀筋から逃れたあとすぐに奴は鎌を持つ位置を刃に近づけて私の首に添えたのだ。
ほとんど無意識だろう。
そして、その結果が示すのは、それだけ、それこそ無意識にまで刷り込む程の血の滲むような努力をしてきたという事。

「まじかぁ」
「はっ…は…」

だが、実質私の負けだろう。奴は直ぐに呼吸を整えたのに対して私は息も絶え絶え。
膝をついていないのを褒めて欲しいくらいだ。

『蒼、ご自分がまだ目覚めてから時間が経っていない上に食事すらしていない事を自覚してください』
「…あ」
「そうじゃん!!大丈夫!?ソラちゃん?」
「ソラちゃん…言うな」

自覚した途端急激に空腹に襲われ、フラフラしてくる。呼吸するたび、肺が痛んだ。
言葉を紡ぐ事も困難だ。

「なぁにやってんだ、お前さんら」

突然の第三者の声にびくり、と肩を揺らす。
ホムラに至ってはギシギシと音を立てながら振り返っていた。

「楽しそうな事してんじゃねぇか、ホムラ?」

満面の笑みなのに怖い。

「い、家光さん…」
「保護対象を無断で連れ出した上に武器交えてるたぁ、どういう了見だァ!!」

何故か私まで正座させられた。解せぬ。

「嬢ちゃんも嬢ちゃんだ!まだ目覚めて時間も経ってねぇのにそんな危ねぇもん振り回してやがって…。こんなの、お前さんみたいな子共が持つもんじゃねぇよ」

ガシガシと力強く撫でられる。
沢田家光、独立諜報部隊「CEDEF」のボス。
【目を瞑る】で覗いた私の深層の記憶から読み取った情報では彼がそれだ。
この人ではないと、そう思った。
子供が武器を持つことに抵抗を持っている人ではダメだ。
これでも私だって14歳で始めて武器を持った身だ。
そして、私は親友をこの手で殺した。
今更年齢で差別してしまうような人ではだめだ。それでは私は強くなれない。

「私の両親は、かなり、変わってました」
「…ソラちゃ…」

ホムラの言葉を遮るように続ける。

「私はそんな二人に育てられました。私に身を守る術だと、刀の使い方、護身術、色々なことを教えてくれました。
普通のサラリーマンの収入ではあり得ない生活をしている自覚はしていました。
でも、優しい家族でした。暖かい家族でした。
愛し合っている夫婦でした」

温かい水がほおを伝う。でも言葉は止めない。

「そんな二人が、目の前で、無惨な姿になりました」

その言葉に目を見開く沢田家光。

「私が、あの時あそこへ行きたいと言わなければ両親は死なないで済んだ。私を庇わずに済んだ。でも、それ以上に、あんな所で抗争を始めた奴らが居なければ、いまでもあの二人は笑っていられた」

一度言葉を切り、息を吸い込んだ。

「私に武器を持つななんて言わないで。私の生き方を決めないで。私の生きる意味を奪わないで」






静かに、でも確かに怒りを孕んだ表情で少女は言った。
調べた資料で彼女の両親の素性はわかった。引退した凄腕のヒットマンだ。俺も何度か仕事を頼んだ事がある。二人とも確実な仕事をする奴らだった。
だが、その二人の娘である彼女は裏の世界なんて知らなかった。護身用程度に鍛えてはいたようだがその程度だ。だから早く日本に返してボンゴレがある程度融通の出来る児童保護施設にでも連れて行けばいいと思っていた。
だが、結果はどうだ。戦闘経験のあるホムラと撃ち合えているではないか。あいつも本気は出していないとはいえ、彼女の動きのレパートリーは熟練のそれだ。特に、大きな武器を扱う者との立会いに慣れているように見えた。
もちろん体力のなさや、筋力のなさによる実力不足は否めない。だが、それをどう補うか常に計算し続けているような動きだった。

思わず溜息をつきたくなった。
最初のまだ、意識のはっきりしていない彼女の雰囲気に騙されたのだ。あれだけ自分に年齢は判断材料にはならない等と言っておいてこの体たらく。
しかも両親の最後を思い出しているときた。
これは、このまま表の世界に戻そうとしても自力で入ってきてしまうだろう。
そう思うくらいの気迫はあった。
それこそ、初めてホムラを拾った時の獣のような様子を彷彿とさせるものだ。

次の瞬間、発砲音が響いた上に少女の不思議そうな声が響いた。

「うぇ?」
「なっ」

少女の刀と少女自身が緑色のインクに汚れている。

「反射神経はそこそこ、疲労が激しくとも動けるか…」

軽々と飛び降りてきた小さな存在に顔をひきつらせる。

「ラル…ミルチ…」
「おい」

目を瞬かせていたソラが正座し直してラルと向き直った。

「強くなりたいのか」
「…え」
「なりたいのか!?」
「っはい!!」
「なら明日の朝6:00、ここに来い」

俺を含め3人で状況が読めずポカン、としてしまう。だが、ラル・ミルチはそれが気に食わなかったらしい。

「返事!!」
「はい!!!」

それだけ聞いて満足したのか彼女は去って行ってしまった。

「何だったんだ…?」
「いえ、こっちが聞きたいです」

そりゃそうだ。




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