標的02 同士 | ナノ

標的02


「お、いい部屋に寝かされてんじゃん」
「…ですね、扱いが丁寧すぎて疑いたくなる程度には」
「安心していいよ。あの人、根っこのとこはお人よしだから。まあ、ボスに危害が加えられるとなれば別だけど」
「ふぅん」

部屋に突然入ってきた赤い髪に赤い目をした少年に対して適当に相槌を打つ。

「それにしてもこんなに早く合流できるとは思っていませんでしたよ、赤さん」
「俺は白華さんから連絡受けて一年経ってるからいつ来るのかってヒヤヒヤしてたよ」
「時差があったんだ…」

へぇ、と言いながら受け取ったお揚げの入ったタッパーをお狐ちゃんに渡す。
はぐっ、とかぶりついたお狐ちゃんだが、数秒後には尻尾がしょげてしまった。

『…蒼のお揚げが食べたいです』
「お狐ちゃん…」

お狐ちゃんの舌には合わなかったらしい。

「え、あかこちゃんには好評なんだけどな」
『蒼の絶妙な油抜きの技術舐めないでください。どんなお揚げであっても絶妙な抜き加減を実現するんですからね!!』
「え、いつも適当なんだけど」

逆に気になる、と赤の視線が私に刺さる。
だが、彼も今はお揚げの話ではないと思ったのか首を振って本題に戻った。

「まぁその辺は後日教えてもらうとして、改めまして俺は赤葉ホムラ。今はヴァリアーで下っ端してる。GAMEの段階では十四歳だった」
「私は蒼禅ソラ。今は海岸で保護された幼女になってます。GAMEの段階では十五歳」
「あ、良かった。幼女がGAMEに巻き込まれたわけじゃなかったんだな」
「さすがにね」

お互いに自分の狐を撫でながらやり取りを行う。恐らく年齢としては近かったのだろう。

「それで、これからどうすのか決めてるの?」
「そもそもここがどの世界か把握していないんだが」
「あ、マジか。ここは家庭教師ヒットマンリボーンの世界なんだけど…わかる?」
「懐かしすぎて吐きそう…。小学生の時だだ嵌まりした」
「仲間かよ。厨二心くすぐられるよね」
「わかりみ」

思わずしゃべり方が崩れる。なんとなく、アリスを思い出させた。

「何か君、俺のとこの二位に似てるよ。アリスっていうんだけど」

まじか、と口をポカンと開けてしまった。

「…私が二位だった時の一位がアリスだった」

ホムラが目を見開く。そして唇を戦慄かせたあと、ゆっくりとほほ笑んだ。

「そ、か…」

つまり、多分、GAMEに巻き込まれた順番は、ホムラ、アリス、私だ。

「お互い、変なことに巻き込まれたね」
「そうだね」

はぁ、と同時に溜息を吐く。そして目に入ったお狐ちゃんの色違いのような、白い毛並みに赤い隈取を施された狐に手を伸ばす。

『初めまして!ホムラ君のサポート狐の赤狐です!気軽にあかこちゃんとでも呼んでください!!!』

大きな元気な声で挨拶してきたあかこちゃんに私とホムラは苦笑し、お狐ちゃんは頭を抱えた。

『貴女、この世界が狐が喋ると違和感を覚える人間が大半の世界だという自覚はありますか?』
『あう…』

ドジっ子の気配を察知。
そんなことを考えながら私の膝に乗ったあかこちゃんをもふる。ふむ、なかなかの毛並み。

『ふわぁ〜』
『蒼のゴッドハンドやばいですよね』
「お狐ちゃんがどんどん現世に毒されてる気がする」
「にぎやかだねぇ」

だめだ、ツッコミがいない。ホムラすらなんとなく天然の気配を感じるよ…。
だがそのホムラが話の軌道を戻してくれた。

「で、本当にどうするの?」
「そうだな…。お狐ちゃん、この世界での私の戸籍は?」
『日本国籍で家族旅行でこちらに来たことになっています。が、両親はマフィアの交戦に巻き込まれ死亡。貴女はその際に両親に逃がされ、海に落ち、ここに保護された、というバックストーリーで世界を構築しました。あと身寄りはないです』
「つまり、やりようによっては入り込めるか」

顎に手を当てながら考えているとあかこちゃんとホムラがこちらを怯えた目で見ていた。

「…何?」
『何か?』
「そ、ソラちゃん、纏ってる気配が幼女じゃない…」
『お兄様…怖い…』
「ちゃんを付けるな」

鳥肌が立ったじゃないか。ちゃん付けとか何年ぶりだ。
肌をさすりながらお狐ちゃんと顔を見合わせる。実際そこまで怖がられる要素が分からない。

「え、だって突然いなかったはずの人間が現れたら怖くない?」
「え?ふつう世界に組み込まれてるものじゃないの?」

認識の齟齬がある。そう思いお狐ちゃんに視線をやると器用に後ろ足で立ち、ポン、と前足を叩いていた。

『蒼以外は他の世界に行く必要もないので最初から世界に組み込んでますもんね。蒼以外はパズルのピース。ないと完成しません。逆に蒼はいわゆるブロックだと思ってください。なくてもいいけど加えてもいいパーツです』
「へぇ」

二人と一匹で納得する。

「あかこちゃん知らなかったの?」
『蒼は機密事項が多いもので』
『これは全ての狐が知っている内容なのですが』

本当にドジっ子のようだ。これはマスコットキャラ確定だな、と思いながら気になっていたことを聞く。

「でもどうやって私の情報の整合性を出しているんだ?」
『前回は主が対応していましたが、今回は貴方の能力を利用したことでほとんど負荷なく行えました』

目を瞬く。私の能力とは何のことだ?

「…私の能力?」
『目を瞑る、ですよ。あれで世界の記憶に干渉して書き換えてます』
「ず、随分な荒業に聞こえる」
『荒業ですからね』

そもそも目を瞑るの能力が世界に影響を及ぼせるほど強力なことを知った事と勝手に使われていた事にどっと疲れを感じた。
がっくりと肩を落とす。
そもそもそういうことしなくても世界に組み込まれてるとか羨ましい…と、ジト目でホムラに訴えると苦笑された。

「その分、世界側にスタート地点を指定されちゃうから意外と自由度は低いんだよ。実際に俺、今の地位に行くのすらかなり、無理したし」

そう言って目を伏せたホムラを見てそれ以上追求することをやめる。今はヴァリアーにいると言っていた。…つまり、そういう事だろう。あそこ独立暗殺部隊だから。

そして思ったことが口を出る。

「ホムラ」
「ん?」
「私と戦って」
「…ん???」

訳が分からず混乱している様子のホムラに私はにんまりと笑った。




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